4人類は進化した

 世界の人口減少に歯止めはかからない。少子高齢が進む日本も例外ではない。2200年になると、日本の生涯未婚率は50%を超え、国は頭を抱えていた。このままでは将来の国を担う人材不足が懸念される。


 そんな中、人口減少の影響を受けたのか、人類は新たな進化を遂げた。


『三十歳までに性行為を行わなかった女性は、その後、年を取らなくなる』


 それが世間に知れ渡るようになったのは、つい最近のことだが、潜在的にそのような不老不死体質の人間が現れたのは、記録に残っているもので百年も前になる。三十歳を迎え、いわゆる「処女」と呼ばれる女性たちの下腹部には、不可思議な紋様が現れた。


 石鹸や洗剤をどんなに使っても落ちないその紋様が現れた女性が声を上げ始めて、原因が追究された。女性の間に現れ始めた紋様は、当初は騒がれたが、原因がわかってしまえば、恐れる必要はない。人々はその紋様とうまく付き合うことに決めた。


 そもそも、その紋様は調査の結果、三十歳を迎えても、異性と性行為をしたことのない処女、つまり清らかな女性に現れる紋様であり、それ以外の人間に現れることはない。


 そして、その副作用も人間に害を与えるものではなく、むしろ、人々の憧れでもあるものだった。世間で騒がれることはあったが、恐れられるものではなかった。


 ただし、処女の女性にとっては苦痛でしかなかった。ただ異性と性交渉をしないだけで、不老不死の力を得てしまうのだ。三十歳を越えた彼女たちは、文字通り死ぬことができなくなった。自殺しようとビルの屋上から飛び降りることも、電車に飛び込むことも、いざ実行しようとなると身体が動かなくなり実行できない。不意の事故に遭っても、死ぬことはできない。致命傷の大怪我を負っても、自然治癒してしまう。死んでしまうような大病にかかることもない。


 女性たちは不老不死の能力を恐れて、三十歳になる前に、風俗店や身近な人に頼んで性行為を行った。そして、下腹部に紋様が現れないことに安堵した。




不老不死の女性が騒がれるようになると、不老不死となってしまった女性が、その永遠の生から解放される方法も同時に模索された。


『不老不死の女性が異性と性行為をすると、紋様が消え、通常の人間のように時が進み始める』


その方法は、案外簡単に見つかった。不老不死の女性が男性と性行為をすると、自然に下腹部の紋様は消えることが判明された。そして、その後は通常に年を重ね、通常の生活に戻ることできる。三十歳の状態からようやく年を取り始め、老化が進み、普通の人間と同じ時を生きることが可能になる。




 不老不死の力を得た女性は最初こそ、自分が神にでもなったかのような優越感に浸っていた。しかし、周りが年齢を重ね、結婚して子供を授かり家族を築いていくのを見て、実感する。


『普通に年齢を重ねていくこと、有限の時間を生きることの有り難さ』


 そうして、不老不死と呼ばれる人間は、自分の素性を隠して生きるようになる。政府には不老不死となってしまったことを報告する義務があり、国から監視されてしまうが、それでも自らの実年齢を偽り、こっそりと生きていく人が増えていく。




 そんな中、一人の女性が起こした事件が世間を騒がせることになる。この物語はその事件に関わり、不老不死の力に翻弄されつつも、不老不死を続ける一人の女性の物語である。

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