2それから二十年後
実乃梨は、その後も自分の今と昔の写真を見比べることを定期的に行っていた。しかし、いつ何度見ても、自分の今の姿は三十歳のころと変わることはなかった。
年を取らなくなったと気づいてから、二十年が経過した。実乃梨は、今年の元旦で五十歳を迎えた。彼女は今も独身のままで、男性との付き合いはしたことがなく、いまだに処女を貫き通していた。
「これはもう、私は人外かもしれない……」
大学を卒業してからずっと勤めていた会社は、五十歳で辞めざるを得なくなった。実乃梨の実年齢と同じ四十代の同僚や、五十代に差し掛かった先輩社員、長年一緒に勤めていた仲間から不振の目を向けられるようになったからだ。見た目が変わることのない、不気味な実乃梨と、よく今まで同じ職場で一緒に働いてくれたものだ。実乃梨は、自分が同僚と同じ立場になって考えて、彼らに感心した。
五十歳を機に、親の介護などがあるという嘘の退職理由を述べ、会社を辞めることにした。これ以上、同じ会社に居たら、面と向かって化け物呼ばわりされる可能性があると危惧したからだ。
しかし、五十歳になって仕事を辞めたとして、その年で正社員の仕事を探しても、普通なら見つけるのは容易ではない。普通に年を取った五十歳を過ぎた女性を雇ってくれる奇特な会社はなかなか見つからない。実乃梨は自分も世間の五十代の女性と同じように仕事が簡単に見つかるとは思っていなかった。
「履歴書を拝見させてもらいましたが、本当に今年で五十一歳ですか?ずいぶんとお若く見えるようですが」
「五十代には見えませんが、年齢を偽ってはいませんか?」
「理由はわかりませんが、嘘の履歴書をいただいても困ります」
実際に実乃梨は仕事に就くことができずにいた。とはいえ、不採用理由は、世間一般の五十代の女性が会社に採用されない理由とは異なっていた。
「本当に今年で五十一歳です。両親や市役所に問い合わせてもらっても構いません」
面接で容姿のことで質問されるたびに、実乃梨は履歴書に記載されている生年月日は真実であることを訴えた。訴えたが、どこの企業も実乃梨を採用しようとはしなかった。
面接での失敗が続いて落ち込みかけていた時、実乃梨は、ネットである仕事を見つけた。
『募集条件:最近、自分は周りの人と比較して年を取っていないと感じた人、人より若く見られがちな人、特に美容や健康に気を付けていないのに、若く見られがちな人などが対象。女性限定』
普通の人なら、こんなバカげた条件を指定されてホイホイとその仕事に応募しないだろう。しかし、実乃梨はその後に提示された仕事内容と給料に目がくらみ、すぐに応募した。
『仕事内容:延命治療のための薬の治験に関わる被検体。週に3回ほどの通院。新薬の服用、それ以外に拘束なし』
『給料:一週間の通院で十万円。別途交通費支給』
「ちょっと胡散臭いけど、募集条件には当てはまっているし、治験のバイトなんて初めてだけど、お金も欲しいからね。募集しているのは国立研究機関だから、何か起こるっていう心配もないはず」
あいまいな募集条件に、実乃梨は当てはまっている。もしかしたら、このバイトをすることで、自分の身体の秘密がわかるかもしれない。実乃梨は少しの不安と期待を持ちながら、採用結果を待つことにした。
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