第20話 サウナ [にいづましょうぎコラボ(1/3)]
「あやちゃん、こんなん見つけたんだけどどう?」
「なに、りょーくん。」
遼がスマホの画面を見せる。
『毎月22日は夫婦の日。ご夫婦で来場していただいた場合、入場料半額です!』
徒歩圏内ではないが車で行けば30分と言ったところにあるスパ。
昨年オープンしたばかりだが、彩香も気になってはいた。なぜなら。
「おー、ここってリラクゼーションルームに将棋があるんだよね。」
「そうなんだよ、しかもさ。この日は将棋イベントやるらしくて。」
言いながら遼がスマホの画面を切り替える。
『リラクゼーションルームにて将棋サロン棋縁による将棋イベント開催。指導対局に、実践!穴熊講座など盛り沢山』
「へー、面白そう。なんでスパで本気の将棋イベントやってるのか気になるけど。」
「道場とか行ったことないしさあ。スパで将棋できるとかかなり最高じゃないかと思って。」
「そうね。いきましょう。」
翌日22日、車を出してスパに向かった二人。受付に向かうと、さっと手続きを済ませて風呂に向かう。
「あやちゃん、将棋イベント行きたいから1時間切れね。」
「了解、1時間後にリラクゼーションルーム前で集合しよう。」
彩香は浴場に向かうと体を洗い、サウナに入る。
先客が既に数人いて、テレビ見たりストレッチしたりと思い思いに汗をかいている。
だが、一人の女性だけ違う様子で、何やら壁を見ながらぶつぶつ言っている。
「銀捨てて、あーでも逃げられちゃうか。。。」
(可愛い人だけど、何してるのかしら?)
不審に思った彩香が近くに座り、壁を見るとそこには詰将棋が並んでいた。
三手詰、五手詰、七手詰、九手詰の計4枚がプレートで作られて埋め込まれている。
先客の女性は五手詰で詰まっている様子だ。引き続きぶつぶつ呟いている。
「これ解いたらしゅーくんに褒めてもらう。。。頑張れ、私。。。」
微笑ましく思いつつ、彩香も詰将棋に着手。三手詰、五手詰をサクッと解いて、七手詰を考える。
ただ、熱い。思考もまとまらず、答えに辿り着けない。
いったん休憩のためにサウナから出ようとして先程の女性をふと見ると、焦点があってない。
「あつい。。。」
「ちょ、ちょっとあなた!休憩しないとやばいわよ?」
「は、はい。ただ、ちょっと力入らなくて。。」
「ああ、もう、一緒に一旦出よう。」
一緒に出て、涼しいスペースで休憩。
彩香は先客の女性に水を渡しながら聞く。
「大丈夫?えっと、お名前は?」
「香織です。園瀬香織。すみません、お騒がせしました。詰将棋に夢中になっちゃって。。」
「私は田原彩香。彩香って呼んでね。あの詰将棋結構難しいわよね。サウナで詰将棋とか罰ゲームみたいだけど。」
「解けたらほめてもらえると思ったんですけどねえ。」
「ああ、しゅーくん?」
ぶはあっと、水を吹く香織。
「どどどどうして。。。」
「サウナで声漏れてたわよ?しゅーくんに褒めてもらうとかなんとか。彼氏?」
「夫です。。恥ずかしい。」
「そっか、褒めてくれるといいわね、しゅーくん。うちの旦那は褒めるっていうより。。。ってまずいわ。」
「どうしたんですか?」
「15分後にリラクゼーションルームで旦那と待ち合わせしてるの忘れてたの。」
「ああ、すみません。ありがとうございました。間に合いますか?」
「わからないわ。タイムアタックね。」
そう言って出口ではなく、再びサウナに向かう彩香。
声をかける香織。
「あれ、出るんじゃないんですか?」
「7手詰と9手詰解いてないの。」
「後にすれば良いのでは?」
「全部解いてからいかないと負けになりそうなの。」
「?」
二人の戦いの事情を知る由もない香織を置いてきぼりにして、再びサウナという戦場に戻った彩香。
サウナに入り三分かけて残りの詰将棋をクリア。その後大急ぎで水風呂を経由して脱衣所へ。
身だしなみを整えていると待っていた香織から声をかけられた。
「間に合いましたか、よかった。この後リラクゼーションルーム行くんですよね?先程のお礼もしたいですし、一緒に行きませんか?」
「いいわね、一緒に行きましょう。あ、お礼なんていいわよ?将棋友になってくれた方が嬉しいわ。」
二人は和気藹々と話しながらリラクゼーションルームへ向かう。
待ち合わせ時間ギリギリで到着した。
(21話へ続く)
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