第19話 オフィスラブ
オフィスの休憩スペース。少し奥の入り口からは見えづらい一角に、遼と新の姿があった。
昼休みがおわろうかという時間帯だが、二人の様子は普段の和気藹々といった雰囲気ではない。
「全くしかたないやつだな」
「先輩。。」
「そんなにガードが緩いと、攻めたくもなるだろう。」
「いやでも待ってください!」
遼の指先が伸び、新が悶える。
「待てないよ。昼休み終わっちゃうだろう。」
「ああ、でもそれ、きついです。。。」
「キツイところを耐えればそのあとに楽しみもある。頑張って耐えろよな。」
「いやでもそこは、耐えられないですよ、待ってください。」
懇願する新の言葉に耳を貸さず、遼は攻める。
「待たないって言っただろう。」
「先輩。。。」
二人がいるスペースに人が来た。
「何してるんです?」
「ああ、亜弓ちゃん」
「葛西さん?見ないでください!」
財布を片手に飲み物を買いに来た様子の亜弓が遼を見て声をかけてきた。
「おー、社内で将棋!いいですね!田原さんはともかく名取さん将棋させるんですね。」
「え、あ、はい。。。」
休憩スペースの一角で遼は新と将棋を指していた。
このオフィスの休憩スペースは福利厚生の名の元に色々なものが置いてあるのだが、そこに将棋盤があったことを思い出して、遼と新で練習将棋を指していたのである。
ちなみに、遼と彩香は色々見えてはいけないものが社内に見えるのを恐れて休憩スペースでは将棋を指さない。
亜弓は名取の横から盤面を覗き込んだ。
「なんか、随分駒少ないですね?」
「ハンデ戦だよ。俺の駒はかなり減らしてる」
「田原さんが攻め込んでるんですかね?名取さんの陣地に、とが沢山ですね。」
「まだ名取は初心者だからね。」
「なるほどー。身近な人が指してるのは見たことないので、こういうのも面白そうですね。」
「やってる時だったら見ててもいいよ」
「ありがとうございます!あ、もうちょっと見たいんですが、午後の準備しなきゃです。」
「亜弓ちゃん、お疲れ様」
引き上げる際に、亜弓は名取に声をかける。
「名取さん、頑張ってくださいね」
「!葛西さんも仕事頑張ってください」
「はーい。また今度将棋見せてください」
亜弓が自販機でお茶を買って業務に戻って行った。
名取はその様子を見送ったあと、顔を伏せ気味に遼に話しかける。
「先輩」
「なんだ後輩」
「先輩のこと、前からすごいと思っていたんですが」
「あまり、敬意を感じたことはないけど」
ばっと顔を上げる新。
「さすがです!紹介しないと言いながら、さりげなく誘導してくれる!そこに痺れる憧れる!」
「声でかい。落ちつけ」
「葛西さんに頑張って、って言ってもらっちゃいました」
「中学生かよ」
「今なら先輩に抱かれてもいいです」
「お互い浮気は良くないからさっさと強くなろうな」
午後の業務時間開始まであと5分。時間もなかったので一気に新の王様を詰めあげて終局。
「「ありがとうございました」」
気分もスッキリ、将棋に対する意欲大増量といった感じで新も仕事に戻っていく。
そんな新を、遼は生暖かく見守っていた。実は遼は昼休み終了間際に、二人が将棋を指していた休憩スペース脇の自販機に亜弓が飲み物を買い物に来ることを知っていた。
将棋普及への貢献と作戦がはまった喜びで、遼も気持ちよく午後の仕事へ取り組むことができたようである。
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