第18話 焼肉

とある休日の午後。宅配便が届いた様子で彩香が出る。


「あやちゃん、何が届いたん?」

「またお義父さんからよ。お肉みたいだけど。。」

「ああ、なんか取引先で買った肉を送るとか言ってたなあ。」

「そういうことは早めに言っといてよ、と言いたいところだけどお肉に罪はないわね。あけていい?」

「あけよう。」


あけてみると、種々様々な肉やタレなどがが詰められた焼肉用セットである。

カルビやロース、ハラミにタン、ミスジにホルモン、ソーセージ。

彩香はうっとりとした表情で呟く。


「前から思ってたんだけど、お義父さん神よね。」

「あやちゃんには肉を食わせとけば間違いないと思ってるんだろうなあ。。。」

「そんな失礼な。。。間違ってないわね。お礼言わなきゃ。」


彩香は肉が好きである。

肉料理は全般的に好きだが、焼肉、しゃぶしゃぶ、ステーキなど肉を食らう料理が好物で、一定期間摂取してないと凶暴化する。


「今日の晩御飯は決まったわね」

「今日?お好み焼きって言って無かったっけ?」

「ホットプレートは準備済みよ。私の胃と頭もレディ状態。質問は?」

「ありません。」


この状態で逆らうのは危険。遼の脳内には警戒アラームを鳴っている。

それに遼も肉は好きなので問題ない。この日の夜ご飯は焼肉に決まった。


この日は休将棋日で、争いは基本的にNG。

つつがなく準備が進み、田原邸焼肉の陣が開催されることとなった。


「初手から?定跡はどうしたのよ定跡は!」

「定跡に縛られすぎるのもよくないよ。時には自由な発想でいかなきゃ。」

「その後の流れってもんがあるでしょう。」

「いつも同じ流れじゃ新手は生まれないよ。」


一番最初に辛味噌カルビを置いた遼に対して彩香が噛み付く。


「濃い味は後にしないと全部同じ味になるわよ!ホットプレートで網交換もできないのに!」

「後半戦で濃い味きついじゃん。」

「食べ放題でもないんだし、肉有限なんだから味合わせてよ!」


ヒートアップした二人が激しくぶつかっている。開始早々から二人の思惑はズレているようだ。

しかし二人のすれ違いは長くは続かない。彩香の堪忍袋がすぐ切れた。


「もう無理。我慢できないわ。」

「あやちゃん?」

「トングをよこしなさい。ここは私が捌くわ。」

「はい。」


奉行降臨である。大人しくトングを召し上げられる遼。


「りょーくんは食べて。私が焼いてあげるわ。」

「うん。」


ここから駒を肉に持ち替えた焼肉奉行の裁きが始まる。


「カルビは焼き目つけたらすぐに食べる!急戦よ!」

「ホルモンはじっくり囲って、タイミングを見て一気に仕掛ける!」

「ネギ塩系はひっくり返すとネギ溢れるでしょ。不成が正解なのよ!」


次から次へと肉が最高の状態で提供され続ける。


「うん、美味い!」

「でしょ、次の肉はこれよ!」


遼は、影で立てていた『彩香に肉を焼いてもらう計画』が成功して満足していた。

彩香は彩香で思い通りに思う存分肉を焼いて、お互いに良い気分になっていた。

結果、焼肉セットは全て美味しく二人の胃におさまった。やはり今日も平和な一日だったようである。

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