第17話 テリヤキ
この日は午前中から二人で近所に買い物に出かけていた。
帰宅がてらお昼ご飯を調達しようと迷っていた時、一軒のお店を見つけてその前でメニューを見ている。
「アメリカンなハンバーガーもいいけど、やはり和の心も忘れちゃいけないと思うのよ。」
しみじみと彩香は呟いた。
「そうだね。。」
「あれはあれでとても美味しかったわ。かぶりつく感覚もたまらないわよね。」
「そうだね。。」
「でも、日本発祥の味も忘れちゃいけないと思うの。」
「そうだね。。」
そこは日本発祥のハンバーガーショップだった。
ファーストフードという区分ではあるが、都度店内調理をする事も特徴。
少し高級だが価格帯はファーストフードの域から出ておらずコスパはかなり良い、と遼はジャッジしている。
好きな店なので全然いいのだが。
「。。。りょーくん、言いたいことがあるなら言ったほうがいいわよ。」
「この前の自分に聞いてみたらどうかな?」
つい先日アメリカンなハンバーガーショップで遼の奢りでハンバーガーを食べたばかりである。
その際にも彩香は体重増加を気にする発言をし、当分ダイエットを頑張るような雰囲気を出していた。
「昨日は昨日、今日は今日よ。」
「好きなお店だから全然いいんだけど、なんか釈然としないんだよね。。」
「細かいことは気にしない。体重1kg減ってたから大丈夫よ。」
「妙に強気なのはそれでか。。わかった、ここにしよう。」
誤差の範囲では、と喉まで出てきていたが遼は堪えた。
経験上戦わなくて良い戦いがそこにはあった。
話がまとまった二人は店内に入り、カウンターに向かう。
メニューを見ながら考える二人。
「うーん、テリヤキは外せないわよね。」
「そうだよね、2人ともテリヤキでいいんじゃないかな。コーラとオニポテセットだよね。」
「うん、そうしましょう」
注文がまとまったので注文する。
「ご注文は何になさいますか?」
「「テリヤキ」」「バーガー」「チキンバーガー」
「テリヤキバーガーとテリヤキチキンバーガーのセットでよろしいですね?」
店員が尋ねるのを横目に二人は顔を見合わせる。
「テリヤキチキンよね?」
「忘れてたよ。チキン派だったね。。でも俺はビーフ派なんだよ。」
「あ、あの、ご注文は。。。?」
バチバチという音が聞こえそうな視線の交錯。
いたたまれない店員。
「ここではまずいわね。うちで決着はつけましょう。」
「望むところ。店員さん、テリチとテリヤキセットひとつずつで。飲み物両方コーラ、サイドは両方オニポテで。」
「か、かしこまりました!」
注文を済ませ、出来上がるのを待っている間、戦いのルールを検討。
「3切れね。基本的にはテリチとテリヤキの代理戦争よ。」
「異議なし。敗者はオニポテのオニオンリングを1つ勝者に献上。あとは冷凍庫の抹茶アイス残り1つの権利ってところかな。」
「異議ないわ。テリチの良さを思い知らせてくれるわよ。」
「基本こそ王道だよ。」
謎にシリアスな空気で話しているところに注文番号が出来上がりモニターに表示され、品物を受けとる。
すぐさま帰宅して、手洗いうがい将棋盤の準備を終えて、着座。
「「よろしくお願いします」」
先手テリチ彩香で対局開始。
何しろハンバーガーが冷めてしまうのは困るので持ち時間3分、なくなったら負けという超高速決着ルールである。
将棋アプリでこのルールが『スタイリッリュマウスアクションゲーム』と揶揄されるほど展開が早い。
開始数手でテリチ彩香が角でテリヤキ遼の角を取る。
いわゆる角交換と呼ばれる戦法だが、振り飛車側からはしないことが多い。
怪訝な表情をするテリヤキ遼を見ながら、テリチ彩香はいつも通りに飛車を左から四列目に移動。
そしてそのまま一直線に王様を右側の隅っこに移動していく。
「レグスペかっ」
うめくテリヤキ遼。
角交換四間飛車穴熊。通称レグスペ。白色レグホーンスペシャルの略で、固めてから鶏が頭を動かすように攻め続けるんだとかなんとか。
彩香は時々使っている戦法である。
「チキンの底力見せつけてやるわよ。」
「しまった、まずいかあ」
その後自陣をて鉄壁にしたテリチ彩香が猛攻開始。
テリヤキ遼は防戦一方の展開だった。
ピーーーー!
終戦をチェスクロックが告げる。
「くう、まいりました。」
「「ありがとうございました。」」
結果、テリヤキ遼は防御に追われ、攻め手を作れずに持ち時間が尽きて負け。
テリチ、テリヤキ代理戦争はテリチの勝利で終わった。
「感想戦は後にして、お昼食べない?」
「うん、そうしてくれると嬉しい。ビーフの誇りを守れんかった。。」
「ふふん、テリチは美味しいのよ。」
感想戦を始めると、昼ごはんが冷めてしまう。
盤面そのままに昼食に向かった。
そのあと、遼は約束通りオニオンリングやアイスを献上しつつ、二人で昼食。
問題のテリヤキ、テリチは二人で半分ずつ食べ合いった。それぞれ違ってそれぞれ良い、という結論となる。
田原邸のテーブルで起きていた、いつも通りの意味のない戦いがひっそりと終了した様子である。
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