第15話 ハンバーガー

「時々これ食べたくならない?」


彩香が遼にスマホの画面を見せながら聞いた。

スマホに写っていたのはハンバーガーショップの写真。

アメリカからの進出組で、四桁の値段設定と、食べるのが大変なほどのボリュームなハンバーガーでファーストフードとは一線を画すお店である。


「懐かしいなあ。」

「大きすぎて綺麗に食べれないのだけど、無性に食べたくなるのよね。」


3年前、二人は新婚旅行でハワイに行っていた。

ごはん、将棋、海、将棋、ショッピング、将棋と楽しく旅行していたのだが、その時に件のハンバーガーショップに行っていたのである。


「あっちの人って綺麗に食べるよねえ。すっごいモデルみたいなブロンドのお姉さんがでっかいバーガーを綺麗に食べてて感動したもん。」

「あれはびっくりしたわ。。。なんであれ食べれるのにあんなにウエストだけ細いのか殺意感じたわ。」

「あとポテトね。日本のLサイズって何って感じだったよね。」

「ドリンクとかも飲み放題だったりするしね。なのになんなのなしらね、あのくびれは。」


アメリカのハンバーガーショップは日本と比べるとサイドメニューが大きい。

日本のLサイズがアメリカのSサイズと同じと言われることもあるほどだ。

彩香は、ボリュームたっぷりのハンバーガーと、なんなく食べるブロンド美人への理不尽さを思い出していたら食欲に火がついたようだ。


「なんかほんとに行きたくなってきた。今度の休み、久しぶりに食べに行かない?」

「いいね、じゃあ今日はハンバーガー奢り対決かな。」

「異議なし!決闘ってとこね。」


話がまとまって、将棋盤の前に着座。飲み物も準備済み。

遼が歩を5枚投げる。全て表の歩が並んだ。


「まったく。。。レディーファーストがなってないわね。」

「ファーストフード食べすぎて色々重くなってるんじゃない?」

「色々うるさいわよ。」


振り駒も終わって対局開始。


「「よろしくお願いします」」


先手は遼でいつも通り居飛車。後手の彩香は遼の真向かいに飛車を据える、向かい飛車を選択した。

遼が、王様を飛車の反対側の隅に移動していく、居飛車穴熊を目指す。

それを見て彩香は飛車のそばに金をくっつけていった。


「あやちゃん、メリケン向かい飛車かー。」

「そうよ、りょーくん。この対決にピッタリでしょ。」


メリケン向かい飛車。守りのために王様の近くにおくことが多い金を攻撃側で使う。

不思議な名前だが、発案者が横浜出身のアマチュア強豪で、大桟橋がメリケン波止場と呼ばれていたことからの連想という由来。アメリカは全く関係ないらしい。


「コイツはきついな。。。」

「アメリカのパワーを思い知るが良いわ!」


彩香は由来を知らずに使っている。

ただ由来は知らなくても戦法は機能するので快調に戦いを進めていった。


結果。

「潰されたああ。。。」

「Yes! I can!」

「まいりました。」

「「ありがとうございました。」」


謎のメリケンパワーを宿した彩香が快勝。


「うーん、飛車交換した方が良かったんかな、これは、、、」

「なんか飛車交換し終わった後にこっちにまずい変化があったような気がしたんだけど、思い出せなかったからよしとしたわ。」


初めてに変化だったこともあり感想戦はしっかり目に行われた。

その間も飲み物で水分もしっかりととっている。


「それにしてもあやちゃん、今日は結構飲み物飲んでたね。」

「今日はメリケンパワーだったからね。飲み物もコーラにしてみたの。」

「赤いやつ?あやちゃん、ハンバーガーの前に体型がアメリカンになっちゃわない?」

「うるさいわよ!りょーくんの奢りで食べれるだけ食べてやるんだから覚悟しときなさいよ?」


後日、ハンバーガーショップに行った二人。

約束通り遼は彩香にボリュームたっぷり、金額もしっかりなハンバーガーセットを奢った。

彩香は、「明日の私、あとは任せたわよ!」と叫んで猛然と食べていたようである。

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