第14話 棒唐揚げ

ある暑い日のこと。

仕事あがり一緒になった遼と彩香は帰宅していた。


「暑いねえ。。」

「ほんと。。しかも客先回って足が棒になっちゃってるわ。。」


仕事疲れと暑さで、だれている二人。


「もうちょっと今日は適当に済まそうよ。」

「流石りょーくん。天才だわ。」

「ご飯作ってる間に倒れちゃうよ。コンビニいこう」


二人は持ち回りで食事を作ってるが、どちらも作りたくない日は無理しない。

幸いコンビニご飯になんの抵抗も無いので、わりと頻度高くコンビニが登板している。


「私は冷やし中華とあと一品つけるかなあ。。りょーくんきまった?」

「麻婆豆腐丼。野菜は袋サラダで良いよね。あとは、唐揚げかな。」

「そういえば唐揚げ棒に刺したやつ、販売終了するんだって。」

「まじか。。。学生時代の思い出の味が。。」

「今日は買ってこっか。」

「そうしよう。」


それぞれ決めたご飯と、唐揚げを棒に刺したものも購入して帰宅。

さっとコンビニディナーを広げてご飯。


「棒唐揚げ、よく学校帰りに食べてたなあ。。なくなっちゃうのか。」

「そういえば、りょーくんの学生話ってあんまり聞いたことないわね。」

「男には触れられたくない過去っていうのがあるんだよ。。。」


遠い目をする遼。


「そう言われると俄然聞きたくなるわね。よし、今日は過去の思い出語る対決でいきましょう」

「なにそれ。。」

「敗者のアルバムを一緒に見ながら、勝者が敗者に質問する。敗者は答える。シンプルでしょ?」

「げ。。あやちゃん聞かれて困ることないんでしょ?ズルくない?」

「勝てば良いじゃない。戦う前から負けることを考えるバカはいないわよね?」

「わかったよ。。。勝ったらどうなるかおぼえてろ。。」


唐揚げにかぶりつきつつ、覚悟を決めた遼であった。

食後、片付けも終えて将棋盤の前に着座し対局開始。


「「よろしくお願いします」」


先手は遼。

いつも通り居飛車の遼だが、囲いも固めずに早々に右側の銀を飛車の前に繰り出していく。

棒銀と呼ばれる戦法で、シンプルさと破壊力に優れ、初心者が最初に教わることが多い。

当然、彩香も受け方は知っているつもりである。


「棒銀。。。珍しいわね。受け切ってあげるわよ。」

「棒銀は基本にして奥義みたいなもんだよ。棒唐揚げに捧げる!」

「来なさい!」


遼が、仕掛ける。

受け方もかなりネットに情報が出ている棒銀。

あっさりと受け切れるつもりの彩香だったが。


「棒銀、これで受かってるはずなんだけど。。。意外と難しいわね。。。」


彩香はぼやいていた。

アマチュアレベルで細かいところまで完全におぼえている人は少ない。

間違えないように必死に頭を使っている。

対する攻撃側の遼も。


「これがこう、いやこっちがこう来てこうなる。。いやでも。。。」


すこし進めばもう未知の世界。

二人してもがき苦しんでいた。


結果。


「これで、詰んだよな。」

「あー。。だめだった。。まいりました。」

「「ありがとうございました」」


お互い間違いあってグズグズの展開を制したのは遼だった。


「悔しいわね。。棒銀ってこんな受けるの難しかったかしら。。」

「途中俺もわからなくなってたよ。」

「これ指してたらどうしてた?」

「ああ、わかんなかった。」


いつも通り感想戦。

ただ、二人の将棋で棒銀が使われたことがなく、泥試合で反省点も多かったため、感想戦は小一時間行われた。


「いやあ、本気で負けられなかったよ。さて、あやちゃんのアルバム持ってきて。」

「あ、そういえばそんな約束だったわね。」


この後、彩香が高校時代のアルバムを持ってきて二人で見ることになった。

質問を待つ彩香を隣に置いて、遼は質問せずにゆっくりとアルバムを見始める。

隣に座っていた彩香が、いたたまれなくなって質問を催促するが、気にせずにアルバム鑑賞を続けた。最終的には彩香が謝って、この日の戦いは遼の圧勝に終わった。

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