第10話 休将棋日
将棋が大好きな遼と彩香だが、打ちすぎたり、負けがこんでくると将棋を指したくなる日が来る。
二人ともプロでもなんでも無いので、将棋さしたくなければささなければいいのだが、なんとなく挑まれると打ちたくなってしまうのが人の性である。
結婚して当初は何も考えずに打ちまくっていたのだが、彩香が覚醒したかのように連勝し続けるタイミングがあった。
遼は必死に抵抗したが、手も足も出ずに惨敗続きで将棋がさしたくなくなってしまったのである。
喧嘩も揉め事も将棋で解決できなくなった二人は雰囲気悪くなってしまった。
こんな将棋漬けの生活手放していいのか。
思った二人は、腹を割って話し合い、1つの約束を設けた。
それが、休肝日ならぬ、休将棋日である。
毎週火曜日は将棋対決しない。というルールによって、将棋に対するフレッシュな心を保っていた。
そんな将棋対決をしないある火曜日のことである。
その日は祝日で、二人は朝からまったりしていた。
昼前で、リビングのテーブルにはお酒がおかれ、すでに何本か空いている。
彩香はキッチンで追加のつまみを準備していて、いい匂いが漂ってきていた。
遼はリビングでタブレットの配信を見ながらくつろいでいる。
すごい平和な一日を満喫する二人であった。
将棋を休むということは揉め事も起こさないということ。
家事も何もほったらかしでただ休む日と決めているのである。
タブレットから配信のものと思われる音声が流れる。
『指しましたね。5三桂打ちでしたね。』
『ここで受けに桂を打つのかー。私の読みは外れましたね』
将棋は指していない。見ているだけである。
それを見て遼がキッチンの彩香に声をかけた。
「あやちゃん、進んだよー。」
「何指したの?」
「桂打った。」
「桂なんか打つ場所あったっけ。。」
つまみの皿を持ってきて、机に置いてタブレットを覗き込む彩香。
「えええー。ここで受けに手持ちの桂を使っちゃうの。」
「ここら辺はわかんないねえ。。」
「とりあえず桂はねとくね」
彩香はそう言うとお酒とつまみの間に置かれている将棋盤に手を伸ばし、画面と同じように桂を打った。
二人は朝から配信見ながら、検討用の将棋盤も使って、やいのやいの言いながらお酒を飲んでいた。
一手1時間とかかかることもあるのだが、検討に飽きたら新しくつまみを作ったり、とにかく丸一日将棋は対決なしで飲んだくれている。
しかし、二人ともそんなに酒強く無い。だんだん言動が怪しくなってくる。
「で、どうなのよー。たまの休みにさあ、どこも出かけないでさー。」
「うんうん。」
「夫婦二人で将棋みて飲んでるだけってさー。」
「最高ー!あやちゃんの料理食べながら酒飲んで将棋見て最高ー!」
「んー。。。だよねー!」
この後二人で酔い潰れて、夕方起きてまた続きをやる。
休将棋日は肝臓への多大な負担を与え、加えて後始末をどちらがやるのかという翌日の戦争の火種になる。
ただ、この日の二人は楽しくて幸せだからそれで良いようである。
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