第9話 ポン酢

ピンポーン。


インターホンが鳴り、彩香が出る。


「はーい、あけますねー。」


一言二言交わして、エントランスのドアを開錠したようだ。

2人は3階に住んでいる。


「宅配便?」

「そうみたいね、何が届いたのかしら。」

「あ、親父からだよ。なんかゴルフのコンペで商品ゲットしたらしくて、あやちゃんと食べな、って言ってた。」

「そうなの?後でお礼しとかなきゃ。。で、中身なんなの?」

「ついてのお楽しみだとさ。」


その頃、配達員が玄関前についたらしく再びインターホンが鳴る。

「俺が出るわ。」

「お願いー」


遼が出て大きめの箱を抱えて持ってくる。

クール宅急便ということと、送り主が遼の父ということは分かったが、中身はわからない。

早速、箱を開けてみて2人は唸った。


「うわあ。。最高。。。」

「神々しいまであるね。。。」


現れたのはしゃぶしゃぶ用のA4和牛。たっぷり500g。


「これは五桁いっちゃう感じのやつじゃないかしら。。。」

「美味しそうだねえ」

「今夜はしゃぶしゃぶだね。」

「薬味とか胡麻ダレとかあったかなあ。」


冷蔵庫を確認する遼。


「大根はあるけど、ポン酢が切れてるわ。胡麻ダレあるからいいかな?」

「よし、こっちきて座ろうか。」


おもむろに将棋盤に向かう彩香。


「ん、どした。」

「私勝つから。ポン酢。買ってきて。後大根おろしてね。」

「ええええ。俺が勝ったらどうするのさ。」

「私ポン酢買いに行くからアイスかなんか買ってくるわよ。」

「ポン酢は絶対いるのね。。」

「当たり前じゃない。いいお肉に妥協は許されないわよ。」


振り駒して先手は遼。

開戦した。


「「よろしくお願いします」」


遼は飛車先の歩を伸ばして居飛車。

彩香は左から四列目に飛車を持ってきて四間飛車という作戦になった。


「お肉♪お肉♪」


鼻歌歌いながら将棋指してる彩香。


「肉好きだよねえ、あやちゃん。。。」

「いや、好きでしょ。テンション上がるでしょ。」

「うん、でも将棋に集中できてないんじゃない?」


言いながら遼は桂馬を彩香の歩の目の前にジャンプした。


「え、桂馬取れちゃうけど。。ってこれ。。。ポンポン桂!」

「この前将棋アプリでこれやられて悔しがってたじゃない」

「あーー、しまったあ」


ポンポン桂とは桂馬を捨てて、飛車先を突破する奇襲戦法。

条件が揃えば一気に敵陣を崩すことができる。


「ちょっとこれ、きついわ。。」


そのまま遼は飛車先を突破して龍を作り一気に優勢になった。


「だめだわ、まいりました。」

「「ありがとうございました」」


遼の勝利。

優勢を維持して広げてしっかりと勝利した。


「あー、浮かれすぎて見落としちゃってたわ。。。馬鹿っぽい名前なのに。。」

「気が抜ける名前なんだけど、ポンポン桂かなり有効だねえ。」


ポンポン、と桂がジャンプしたあたりを中心に振り返って感想戦。

この展開だと遼が優勢になりそうだ、と2人で話して感想戦が終わった。


「しょうがないや。私、ポン酢買ってくるね。お土産は適当でいい?」

「うん、任せるね。」


その後、彩香はポン酢にポンのつくオレンジジュースとドーナツ、ポン菓子を買って帰ってきた。

よくわからないお土産に呆れつつ大根をおろしておいた遼と、ポン酢&胡麻ダレでしゃぶしゃぶをふたりで満喫。

そのあと彩香が買ってきたお土産で仲良くポンポン祭なる奇祭を催していたようであった。

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