第8話 犬と猫

「猫よ。」

「犬だ。」


2人の視線がバチバチと音を上げそうなくらいにぶつかる。

横で店員がバツが悪そうに縮こまっていた。



その日2人はショッピングモールに買い物に来ていた。

必要な買い物を終え、ひと休憩しようかと話しているときに、ペットショップを発見。

仲良く動物を見ていた。


「あーかわいい!マンチカン!たまらなくかわいいわ!」

「寝とる。。コーギーかわいすぎる。。」


犬猫のコーナーを見て2人はとても癒されていた。

和気あいあいと動物を眺めていると、店員が2人に声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。ちょっと今アンケートを取らせてもらっているんです。答えていただいたらこちらの犬猫キーホルダーをプレゼントさせていただきますので、ご協力いただけませんか?」

「あ、このキーホルダー可愛いわね。いろんな種類があるんだ。」

「うん、俺も欲しいな。どんなアンケートですか?」

「こちらになりますー。」


そのアンケートには大きく、

『飼うならどっち!?犬と猫』

と書かれていた。


「「そりゃあとうぜん」」

「猫よね」「犬だよね」


沈黙が流れる。

「猫よね?」

「犬でしょ?」


沈黙が流れる。


恐る恐る店員が割り込む。

「お、奥様は猫で、だ、旦那様は犬ということでよろしいでしょうか?」


「ねえ、りょーくん。猫よね?」

「あやちゃん、犬に決まってるでしょ。」


「お、おきゃくさま、、、」


「猫よ!」

「犬だ!」


ひとしきり視線を交わした後、

「表に出ましょう。」

「そうだね。」

「お、お客様。。。」


戸惑う店員に対して「すぐ戻ります!」と告げてペットショップを2人は出ていった。


「なんなの、一体。」



ペットショップを出た2人は一番近いコーヒーショップに入り、アイスブラックを注文。

2人席に座ると将棋アプリを立ち上げた。

10分切れ負け、友達対局を選択して対局開始。


((よろしくお願いします))


お店なので挨拶は小声だった。


先手彩香。初手でビュンと飛車を左から三列目にもってくる。

アプリの音声で『78飛戦法』と音声が流れた。

この将棋アプリでは、あるパターンの指し方をすると該当する将棋の戦法がエフェクトとして表示される。


それを見て遼がつぶやく。


「猫だまし、ね。」


78飛戦法、別名猫だまし戦法、と言うらしい。遼は最近彩香に教えてもらったところだった。

彩香がニヤリと笑う。


「この一局にふさわしいでしょ?」

「うん、まあそうなんだけど。」


ぽちぽち。ぽちぽち。

お互いスマホに向き合いながら、ブツブツ話しているのはちょっと異様な光景である。


「何よ。」


ぽちぽち。


「猫派が猫だましちゃダメじゃない?」


ぽちぽち。


「。。。え?」

彩香の手が止めて顔を上げる。

遼も顔を上げてスマホを置き、前で手を叩く仕草をしながら話す。


「だって、猫だましって、猫の前でパーンって手を叩くやつだよね?」

「。。。んにゃ?」

「いや、騙されないって。」

「うあああ。」


この一撃でメンタルブレイクした彩香が悪手連発して、遼が勝利した。


((ありがとうございました))


アプリの棋譜再生機能で振り返りながら感想戦。

「そっか、猫だましって猫をだますだもんね。。猫って入ってて振り飛車だから喜んで使っちゃった。」

「感想そこなの?」


少し時間をおいて、ペットショップに戻った2人。

「アンケートのキーホルダー見せてもらっても良いですか?」

「ど、どうぞ。」

「んじゃあ、コーギーと豆柴の2つということで良いよね、あやちゃん。」

「うう、マンチカン。。いいわよ。。」


改めて猫を背負って負けたことを思い知り、とぼとぼと先に店を出る彩香。

気落ちする彩香を見かねて遼はこっそりマンチカンのキーホルダーを購入した。

自宅で彩香に渡したところ非常に喜び、雨降って地固まった様子である。


ちなみに件のペットショップでは犬猫アンケートは中止され、アンケートを担当した店員の『開けちゃいけない箱ってあると思うんです』と言う言葉が語り継がれていったようだ。

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