第7話 比翼連理

「私の城崩せるかな。」

彩香は不敵につぶやいた。

あっという間に平地に城を築きあげる。


「く、いつもながらこの短期間に強固な城を。。」

「さながら豊臣秀吉の一夜城、といったところ。。ん?」


呟く遼に対して彩香は余裕の表情だったが、遼の陣容を見て彩香は少し違和感を覚えた。

その表情を見た遼が、薄く笑いながら話しかけた。


「ふふふ。1つ見落としていないかね?」

「。。。なんだと?」

「短期間の城構築がこちらにできないとでも?」

「なっ。。。同じような城ができている。。」


遼の陣地にも彩香の陣地と同様の城が出来上がっている。

今度は余裕の笑みを遼が浮かべる。


「あえて同じ土俵で勝負してしんぜよう。いざ!」

「小癪な。。望むところ!」



いつも以上に芝居がかっている二人は直前まで大河ドラマを見ていた。

戦国時代の武将をモチーフにしたドラマで、二人とも戦国武将は人並みかそれよりちょっと好きだったので食いついている。

彩香は基本的にカッコいい年配の男性好きのため、老将とかいぶし銀とか聞くとたまらないタイプで、遼は子供の頃に戦国武将で天下統一するシミュレーションゲームをやり込んでいたため、全体的に戦国武将が好きである。


見ているうちに彩香が、

「これは一戦交えねばなりませんな。」

と言い出し、

「そうですな。そろそろ雌雄を決してもいい頃でしょう。」

と遼が乗ってきた。

言葉遣いは雰囲気だけでお互い合ってるかどうかは気にしていない。


「して此度の戦、勝利した暁にはどのような褒賞を求めるか。」

「扇子はいかがかな?敗者は勝者に戦場に携える扇子をおさめるというのは。」

「面白いわ、な。それで行くとしよう。」

「ではいつも通りの仕儀で。」


勝利ご褒美は扇子。負けた方が勝った方に将棋の際にそれっぽい雰囲気が出る扇子を贈ることになった。いつも通りにチェスクロックを設定し、将棋盤の前に着座。


「「よろしくお願いします」」


挨拶はふざけられなかったらしい。


先手は彩香で、左から三列目に飛車を移動する三間飛車。

対して後手の遼は右から四列目に飛車を据える右四間飛車を選択した。


彩香はいつも通り美濃囲いという囲いに組み上げる。

美濃の暴力とも呼ばれることもある、振り飛車の王道守備陣。

短期間で組み上がるわりに防御力が高く、コスパが良い陣形と言える。


組み上がったタイミングで冒頭の彩香の発言が発せられた。

対する遼は、彩香とは反対がわに美濃囲いを作る、左美濃を選択した。

囲う場所が反対なだけで、陣形は同じような形となる。


「彩香殿、同じ城を見た気持ちはどんな気持ちかな?」

「左美濃。。小癪な。ただその城を使うには足りてないものがある。」


不敵に話す遼に対して、落ち着いた様子で語る彩香。


「それは、潰される経験値。。。私がなんど美濃囲い潰されてきてると思ってるの。同時に、潰し方だって嫌というほど知ってるのよっ!」

「え、急に素に戻るのずるくない?あ、角と桂でこびん狙われるっ。。。止まらないーー。」


10分後。見事に食い破られた遼の左美濃はあっさりと攻略された。


「よっし、城陥落ーー」

「参りました。。」


「「ありがとうございました。」」


彩香が怒涛の攻めを見せて勝利した。


「いやー、快勝快勝!」

「これは確かに経験不足だなあ。。いつもやってることをやり返された感じだ。」


戦国武将モードはいつの間にやら解除され、いつも通り感想戦に勤しむ二人。

感想戦も終わり、第何回か分からない田原邸の戦いは終わった。


「美濃囲いについては私に一日の長あり、ってところね。」

「ちょっと勉強しとこう。。」

「それはそれとして扇子よろしくー」

「了解。それっぽい文字入れた扇子探しておくよ。」


後日。遼が彩香に渡した扇子には、比翼連理と大きく書かれていた。

意味がわからずなんとなくカッコ良いので使っていた彩香がその意味を知って赤面するのはさらに後の話である。

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