第3話 キノコタケノコ

「こればっかりはゆずれないわ」

「同じくだな。これはゆずれない」

「全体的なサクサクとした食感とチョコのハーモニーがいいんじゃない」

「チョコとカリッとした硬めのビスケットがそれぞれ主張するのが良いとなぜわからないのか」

「タケノコよ!」

「キノコだ!」


ことの発端はテレビのニュース。

あるお菓子について論争、というか戦争という表現の対立が起きているという話を見ていた時のことだった。二人は馬鹿なことやってるなー、あはははー、というノリでテレビを見ていたはずだったのだが。

キノコ派の遼とタケノコ派の彩香で派閥が違うことが判明し、和やかな空気は一変。

田原家リビングの将棋盤にて代理戦争が勃発した。


「「よろしくお願いします」」


先手はキノコ遼。

彼は飛車を固定して戦う居飛車を得意としている。

後手はタケノコ彩香。

彼女は飛車を別の筋に移動して戦う振り飛車を得意としている。


将棋指しの間でのキノコタケノコ論争。それが居飛車振り飛車論争である。

どっちでもいいじゃんというオールラウンダーも一定数いるのだが、どちらかにこだわりを持っている人はプロアマ問わず多い。


キノコ遼はそうそうに居飛車穴熊という戦法を選択した。

穴熊というのは王様を奥深くの隅っこにいれておいて、ガッチガチに守る方法である。

対するタケノコ彩香は。


「振り穴だと。。?あやちゃん、また新しい戦法?」

「この戦いにはタケノコと振り飛車の誇りがかかってるのよ。負けられないの」

「あ、たけのこだけに穴の中ってわけか」

「りょーくんこそキノコの癖に穴にこもって松茸気取り?」


彩香の選択は振り飛車穴熊。同じように隅っこに王様をいれる方法。

お互いに同じように囲って戦いが始まった。


「捌きあう展開なら私に有利。待っててね、タケノコ」

「そう簡単にはやらせない。俺はキノコを守ってみせる」


しばらく軽口を叩いていた二人だったが。


「固い、、うーん」

「んんんーー」


中盤戦に入ると口数が少なくなってくる。考えることが多すぎて喋る余裕がないのだ。

ちなみにお互い穴熊に囲うと攻めづらくなって一局が長くなりやすい。

しばし無言で向き合う。


二人とも考えこむと体が揺れだす。

側から見てると二人は仲良く同じタイミングで揺れていて不思議な儀式にも見えるが本人たちは気づいていない。


しばし向かい合って揺れあって唸りあったのち。


「まいりました。。。」

「よーし、タケノコ、やったよおお」

「「ありがとうございました」」


タケノコ軍の勝利で田原邸の戦いは幕が降りた。


「ふふふ、やったわ。タケノコ派のみんな、振り飛車党の先生方。私みんなの名誉を守ったわ」

「キノコ、、すまん。。でも居飛車は負けてない。。」

勝利に気を良くした彩香は勝利の要求をする。


「じゃあ、タケノコのお菓子3つ注文しておいてね」

「了解。。」

「あ、でも久しぶりにキノコも食べてみたいから一個注文しておいて」

「え?タケノコ派じゃなかったの?」

「りょーくんもタケノコ食べるでしょ?私もキノコ食べるわ」

「じゃあキノコも3つ注文しとこっか」

「ほーい。食べ比べして決着つけよう」

「了解。」


後日届いたキノコとタケノコのお菓子は二人で仲良く分け合い、どっちも美味しいという身も蓋もない結論になった。

なお、居飛車と振り飛車の論争については決着がついておらず、今後幾度となく田原邸での戦いが起きることとなるのであった。

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