第53話 18年間童貞を守り続けている偉人の言葉
「調子にのるなよゆずる!貴様ごとき些末な存在に上から言われると腹がたつんだよ。」
「えっミナト初めに高い高いしてあげた時はあんなに喜んでくれていたのに…それに調子になんてのっていません!自分根っからのお調子者なんで!」
「何うまいこと言ってやったみたいな顔してるんだゆずる。」
「ドヤ顔がムカつきます。略してドヤゆず。」
久しぶりのツッコミが2人とも辛辣〜〜〜。だけれども何か安心する。
「どうしてここにゆずるがいるのがわかった?外からは分からないように幾重にも術が張り巡らされているのに。」
「そんなの簡単さ、ゆずるには魔法具を手術により直接脳に埋め込んであるんだ。何ならこっちからゆずる本人を遠隔操作できるぐらいの強力な魔法具をな!」
「えっ、まさかそんな強力なのを!聞いてないよレイ君!人体に悪影響はないの?」
前にちらっと聞いてはいたけど、初めて知らされる新事実に埋め込まれた僕自身も驚いた。
「大丈夫だぞゆずる。例え魔法具の暴走があったとしてもそれを本人が感じ取る事はない。記憶を操作して書き換え、うやむやにする事ができるからだ。安心しろ!」
「全然安心じゃないよレイ君!人体に影響は?まさに人体実験!」
久しぶりに突っ込んでしまったよ。
「仲間の体に何の躊躇もなく強力な魔法具を埋め込む鬼の所業…本当に仲間なの、ゆずる?ゆずるから力説された友達の定義が崩れかけているわ、私の中で。」
「葵、レイ君は特殊なんだ、特殊な性癖だから彼の友達観は参考にしないで僕だけを信じて!」
混乱している葵を僕がなだめる。いや混乱したいのは僕のほうだよ。そんな手術が施されていたと暴露されて。
「そんな話はもういい、どうやってこの部屋に入った?この部屋に辿り着くには幾重にも…」
ミナトが興味を失ったように次の質問をかぶせてきた。当事者の僕にとってはそんな話ではないぞ!後で折檻だミナト!
「みんなには寝てもらっているぜ、この部屋以外のメンバーにはな。」
「えっ何人いたと思っているんだ。そんな…ありえない。」
葵が驚いている。
「一応殺さずにはいておいてやったぜ、悪しき魂の奴はいなかったからな。」
「ふん、何が悪しき魂だ。お前らがやっている事は新興宗教と変わらん。自らの信じる理から外れたものには容赦ない排除と粛清だ。」
「当たり前だろう自分の信念に基づいて行動する事は。この汚れきった世界を浄化してやっているんだ。むしろ感謝してほしいぐらいだな。」
「何が浄化だ、何が感謝だ!貴様ら異世界人の基準で何の罪もない人々を殺す事がお前らの矜持なのか。」
……うわー。レイ君とミナトのマジ話じゃん。シリアス回じゃん。どうしよう…ここは空気に徹するか。僕はお笑い担当だからな。あっよく見たら葵も空気になってる。あいつも早々と聞いてる風に切り替えやがったな。まあしょうがないよな、2人ともちょっと何言ってるかわかんないんですけど。
「お前もリーダーなら政府筋に近い所にいるんだろう?じゃあ聞かされているはずだろう、この世界の理を。何度も俺が提言してやった事も。このままでは世界が、地球自体が滅びる事になるんだぞ。」
「ふん、そんな荒唐無稽な理なんぞを信じる根拠がないわ。貴様が自分で滅びの警鐘を鳴らしているだけだからな。マッチポンプだろうどうせ。」
「ミナトと言ったな。貴様もただの歳を経たウドの大木と変わらんな。その若返りと年を経る能力でただの無駄に命を永らえているだけのな。」
「わしをただの木偶の坊だと言ったのか!長く生きてきただけだと。」
だんだんヒートアップしてきましたやん。次はそのうち個人口撃しだして取っ組み合いになっていくパターンのやつやん。エスカレートしすぎてお腹刺される前に僕が場をなごましたほうがいいんだろうか?
そんな事を考えているとミナトから問われた。
「ゆずる、貴様は何もしらずにレイに組み敷かれているだけだろうがこの男の本性を教えてやろうか?ただの人殺しの本性をな。」
「レイ君は確かに地球の倫理に縛られない、異世界人の倫理で動いているのは知っていますがそれでもその本質は地球人である僕達と変わらない物だというのが、短い間だけど一番近くで接してきた僕の正直な感想です。だからミナトから何を聞いても僕のレイ君やこころの人と成りに関する印象は変わる事はないと思うよ。」
僕がそう言って二人を順に見ると…
レイ君は“敵わねーなゆずるにはへへっ”といった感じで鼻の下を指でこする仕草をしてた。
こころは…寝てる〜〜〜〜〜なんか頭こっくりこっくりしてる〜〜〜〜
せっかくいい事を言ったのに〜〜〜
「…ふんこれを聞いてもそんな風に思っていられるのか見ものだな。いいだろうじゃあ聞け、その信頼できるレイとやらの本性をな。貴様が信用に足るというレイは毎年何の罪もない善良な市民を殺しまくっているんだぞ。しかもその中には年端も行かぬ子供はもちろん赤子さえ手にかけているのだ。地球の倫理に縛られないだと?それは異世界の倫理にも触れない行いなのか?それが異世界で触れないというのならば俺たち地球人とは絶対に相容れない考え方だ。よってレイ、こころ異世界人2人を何としてもここで始末する。その行為によって例えこちら側が多大な犠牲を払ったとしても、この世界から排除、粛清する。それがわしの信念だ。」
「えっ本当?」
「うん」とレイ君はうなずく。
「年端も行かぬ子供も?」
「うん」とレイ君はうなずく。
「赤子さえも?」
「うん」とレイ君はうなずく。
「そうかぁ。」
僕は目をつむって考える。
いろいろな考えが頭をよぎるが1つだけレイ君に聞いてみたい。
「レイ君理由を聞いても?」
「必要ない!今更言い訳のような理由を聞いても、善良な人々を殺しているの事実なんだ!悪なんだよ!地球では。」
僕とレイ君の会話の間にミナトが口をはさんでくる。
「僕は一方の意見だけを聞いて判断するような愚行を犯したくない。ミナトは長く生きているだけで強い思いに縛られすぎだと思う。“まず自分で考えよ”18年間童貞を守り続けている偉人の言葉だよ。」
「お前の事じゃねーか。そいつは偉人ではない!」
葵がツッコンでくれた。
やさしい(はーと)
生暖かい目でみてたら殴られた。
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