第31話 3人目の女③
「復讐しないのが復讐?ってどゆこと?」
「バカだなゆずるは本当に馬鹿馬鹿男だな。」
「お、久しぶりだねこのやり取りは。って馬鹿じゃないです〜ちょっと物分りが悪いだけです〜。」
「馬鹿=知能が劣り愚かなことだそうだ。明らかに劣ってるよね?」
「ひど!知能が劣ってるって言葉なかなか聞きなれないよ!一生に一度言われるかどうかだよ!」
「その一生に35回言われるうちの一度目だ。」
「あと、34回も!どんだけ知能劣ってるのさ僕!」
「馬鹿は放っておいて、こころさんとりあえず服脱いでくれる?」
「えっレイ君急に何手篭めにしようとしてるの?」
ゆずるは止めてくれるが、私は立ち上がりワンピースをその場で脱いだ。
「えっっちょと、こころさんいきなり!」
「おい、ゆずる!隠した手のアミアミが大きいぞ!バッチリ見てるじゃんか!これだから童貞は…」
「童貞じゃないです〜〜めちゃめちゃやってます〜!この間なんか…あっ」
ゆずるさんは私の体を見て気づいたようだ。
私の左半身にはやけどの跡がある。
もちろん火事の後しばらくして皮膚移植をしたのだが、すべてがキレイにはならず移植した皮膚との境界部の傷跡がまだら色になり目立っているのだ。
「すべてはキレイにはならないようで…今の技術ではここまでが限界みたいです。」
私は全てをさらけ出した。
特に恥ずかしいという思いはない。
だれもこんな裸には興味もないだろうから。
「ふん、ヒネた考えしやがって。それじゃあ対価交換を始めるぞ。」
レイさんがソファーから立ち上がり、床に魔法陣のようなものを描き出した。
「えっしかし私は復讐をするつもりは…」
「これは復讐の対価交換じゃない。火傷の痕を治すための交換だ。」
そう言って魔法陣の中に入るように促した。
私は躊躇せず輪の中に入ると魔法陣が輝き出し、
中から文字列のようなものが足元から這い上がってくる。
徐々に徐々に這い上がる文字列がまるで身体中の仕組みを読み取るためのスキャンのように足元から、胸元、首、顔に到達すると体全体が発光しだした。
しばらくすると火傷跡を中心に円形の文字が回転しだし次第に発光していく。
点滅を繰り返し一度大きくフラッシュし、収まっていった。
あんなにも痛々しかった火傷の移植跡が跡形もなく消え去っていた。
私は驚きでレイさんを見た。
「お代はもういただいていますんで。」
と茶目っ気たっぷりに答えてくれた。
誰から、どのくらいいただいているのか気になったが聞くのをやめた。
私は素直に嬉しかった。
何でもない振りをし続けていたがやっぱり綺麗になりたいというう欲望が
心の奥底にもあったのだろう。
ただ表に出さずに蓋をしていただけで。
「いったい私はあなたにこれからどう…」
私はレイさんに向き合い話しかけている途中にいきなり意識が途切れ、
その場に倒れた。
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「こころさん!」
僕は慌てて近寄って抱き起こす。
顔が真っ青で息が荒い。
どうしよう。
「ゆずるそのままベッドに運んでくれるか。」
慌てながらもレイ君の指示に従い、急いで隣の部屋に寝かせる。
「ありがとう、今日はもう上がっていいぞ。」
「いや、僕もこころさんを看病するよ。」
「ここはオレに任せていいから、なっ帰っていいぞ。」
「なんでそんなに帰らせようと・・」
「おい、勘違いするなよ!べ、別にやましい事なんて考えてないぞ。」
「こころさんが寝ているのをいい事に、このまま…」
「するか!するわけないだろう。何考えてるんだ。」
「レイ君も男だから間違いが起こるといけない…」
「オレはゲイだから女なんかに興味はない!」
「は?レイ君なにぶっこんでんるの?」
「しかもハードなゲイだから。」
「そんな力強く言われても、何って言えばいいのかわからないよ。」
「だから、何もしないから安心して出て行っていいぞ。」
「違う心配が増えたんだけど!今度は僕の身に危険が!」
「大丈夫だオレは両刀使いだから!」
「じゃあ駄目じゃん!僕もこころさんも両方駄目じゃん!」
そんないつものやり取り1セットを終え、僕はこころさんを残し帰った。
さすがにこの状況で2セット目を行うような非常識ではないのだ。
1セット目でも充分非常識だったような気がしないでもないが…。
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「っふうー、危うく2セット目をやらされそうだったぜ。ゆずるも容赦ないな。」
まあ、友人と楽しく過ごす平和な生活なんて、今まででは考えられないような贅沢な時間だ、悪くはないよな。
さてと、オレは寝ているこころに話しかける。
「もう起きてるんだろ?寝たふりしなくてもいいぜ。」
こころは目をパッチリあけ、ガバッと上半身だけを起こした。
「気づいてたの?せっかく寝たふりしてあげてたのに。」
彼女は先ほどとは打って変わって茶目っ気たっぷりに答えた。
「どうやら思い出したようだな。」
「思い出したといってもついさっきよ、気絶した後。」
「ご機嫌麗しゅうございます、姫!」
「ふざけないでよね、姫なんて。ゆずるが聞いたら本気にするわよ。」
「グループの中のたった1人の女性という意味の姫なんだけどな。ほらオタサーの姫みたいに。」
「それ余計に印象悪くない?は〜変わらないわね。
レイ・フォルシア・ブラフ様は。」
「そっちこそ様なんてやめろや、今まで言った事もないくせに。」
「ふふふ、これでお相子ね。」
「全く…お前とゆずるは気が合いそうだ。」
「やっぱりゆずるはユリウスなの?」
「ああ間違いない。」
「じゃあこれで3人揃ったわね。すぐ行く事になるの?」
「いや、すぐには無理だ。色々と仕込みがあるからね。」
「私は破壊することしかできないから、あなたばかりに負担かけるわね。」
「まあ、それはしょうがないな。それが役割だから。」
「じゃあ、ゆずるには私がソフィだって告げたほうがいいわね。」
「ゆずるはまだ自分がユリウスだと気づいていない。自分から思い出すのがベストだろう。だからオレもソフィもまだ打ち明けないほうがいいと思う。」
「そうなんだ。ゆずるはただレイに救われて慕っている役を演じている設定だと思っていたわ。」
「慕ってくれていればいいけどね。相棒として。」
「また、この世界でも3人仲良くなれるわ。絶対に。」
「そうだな。それじゃあソフィは当分今まで通りにこころとして過ごしていてくれ。」
「過去が解放された今、昨日までのこころとは別人みたいになっちゃってるけど、しかたないわね。今から帰って叔父さんと叔母さんと話し合ってくるわ。今までの心情を全て話してごめんなさいって。そしてありがとうって。」
「それと南大介の事は聞かないのか?」
「…だいたい分かっているわ。」
「南大介は今ではものすごい後悔に苛まれ、自分を責めて責めて40歳過ぎても結婚もせず、浪費もせず生きていても死んでいるような状態だ。もちろん反省しているからといって罪が消えるわけじゃないけどな。」
「動機は?」
「嫉妬だな。両親の愛情が兄貴にばかり向いて、優秀な自分には誰も興味も愛情を注がないことに対する嫉妬。まあ実際はそんな事はなかったと思うんだが、視野が狭まっていたんだろうな。そこに兄貴のなにげない一言が…」
「復讐をしないとは言ったけど、私は叔父を許したわけじゃないわ。叔父は許されたがっている。誰かに自分を罰して欲しいと切望している。」
「だからこその復讐をしない事が復讐なんだろ、こころ。」
「ええ、そうよ。わたしはここから前に進むわ。ソフィとしての記憶も蘇ったけど日本人のこころとして生きてきた人生もあるの。」
「そうだな、ゆずるが思い出すまでには大分時間もあるようだから、しばらくは3人の生活を楽しもう。」
「ええ、わかったわ。こっちも色々と準備を済ませて終えたらお世話になるわレイ。」
ゆずるは残念がるだろうけど、
異世界に行くのはもうちょっと先になるかな。
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