第27話 ダンジョン④

今日は久々にダンジョンの日だ。

読者の方も忘れてしまっている人もいるだろう。


僕も忘れてた。


ぶっちゃけダンジョンにはもう潜らなくてもいいかな〜

いいんじゃないかな〜、もういいだろう行かなくても!

ぐらいに思っている。


確かにレイ君を手伝っていると荒事もそれなりにはある。

最初はビビりまくっていたが何度も経験するうちに段々慣れてきて、

逆に相手の必死感が笑えてしまうぐらいには鍛えられた。


だからダンジョンでレベルアップする事ももちろんありがたいのだが、

現状スライム、ゴブリン、コボルトと戦って実践にも慣れたから

もう必要ないんじゃないかとレイ君に進言してみたら…


「ダメだ!オレの最近の楽しみはゆずるがダンジョンで悪戦苦闘するところをみる事なんだ!

 それだけが楽しみなんだ。だから行け!オレの為だけにも!」

と恫喝された。

「いや僕を見るよりも、もっと他に楽しい事いっぱいあるでしょ。」

しかしレイ君は首を振る。


「オレはお金や力を持っている。古今東西金持ちの娯楽というのは権力を笠に着て

下位の者達を争わせて悦に浸るという1択しかないんだぞ。」

「ひどい偏見だよ!偏りすぎて隅っこギュウギュウ詰めだよ!そんな権力者、カイ●の中だけしかいないよ!」

僕の事を思いっきり下位の者って言ってるのと一緒だよ、本人を目の前に。

あながち間違ってはいないけれども…


「ゆずる、オレの将来の夢は借金で首が回らなくなった奴やこの世界でどうしようもなくなったクズ達を集めて異世界で戦わせる事なんだ。」

「笑えない!そんなマンガあったらちょっと見てみたいけれども!レイ君が言うとシャレになんないよ!」


「そしてその中で生き残ったものだけがオレと生存権をかけて戦う事ができるのだ。」

「蠱毒!それどんなバイオレンス漫画?そんなアグレッシブな物語だったけこれ。日常系ほのぼの現代ファンタジーじゃなかったの?」


「そうして勝ち残ったのがオレだ。そして次のチャレンジャーはお前だ、ゆずる!」

「えっレイ君がその蠱毒から勝ち残ったっていう設定なの?それを僕が受け継ぐの?なぜに?」


「さあ!かかって来い!」

「かかって来いじゃなくて、絶対嫌だよ。デッドオアアライブ感ださないでよ!」

僕は心の底から嫌がった。


「冗談はさて置いておいてゆずるも平凡な毎日のちょっとした刺激にダンジョンが丁度いいだろう?」

「ちょっとした刺激って…命がけだし、スライムの魔石1個50円、ゴブリンの魔石1個80円の薄給だし。」


「正直魔石の価格はもっと高くしてもいいんだけどな。段々後から強い魔物の魔石を得られるようになるだろう?小説でよくある魔石のインフレ率がハンパ無くなるのが嫌いなんだ!オレは。」

確かに最初は安いが強くなる魔物を倒すとだんだん買取価格がこうがくになる魔石に一喜一憂するんだけど…突然襲われる高位の魔物、ドラゴンなんか倒したりしたら魔石1個5千万円、1億円!とかやっちゃうとその後、今までの魔物じゃあ満足できなくなって、魔物の高位インフレ率ハンパなく上がっちゃうもんね。最初取ってた魔石なんか見向きもされなくなって描写がないもんな。あの生活感あふれる値段設定と徐々に成り上っていく感が好きだったのに。


「そうだろう!だからちゃんと料金表を裏設定で作ってあるんだぞ!」

「声に出してない僕の考えにツッコむの止めてよね!」


「ちゃんと料金表を裏設定で作ってあるんだぞ!」

2回も言って…見せてやろうかアピールがうざいわ〜。

めっちゃ僕にドヤ顔で見せて欲しいかって顔してる。


「いや、別にいい。見せなくていい。ずっと裏にしておいて。」

「なぜだ!」

レイ君はショックを受けた顔してる。


「見ちゃったらおもしろくないし。金額で選り好みしちゃうといやだし。」

そう断っているのに、レイ君は目を細めて料金表を広げて見せてくる。

僕も目を細めてそれを見ないように対抗する。


………ドロー!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さーてじゃあダンジョンに行くか〜〜。久しぶりに行くか〜〜」

嫌々をレイ君にアピールしつつフェイとダンジョンへと進む。


今回は新しいエリアに足を運ぶ。

そこは野原?原っぱの空間だった。

ダンジョンの中でも今までの洞窟みたいなところから

急に景色が変わって、外に出たんじゃないかと錯覚するほどだった。


フェイ曰くダンジョンが見せる幻影のような物らしい。

実際には存在しないようだが、葉っぱの感触はある。

どうなってるんだこれ?


とりあえず、スネぐらいまで伸びた野原を進む。

すると、遠くからこちらに向かってくる魔物が見えた。

3匹ぐらいか走ってくるのが見える。


ダンジョンの定番オオカミの魔物だろう。

こちらは隠れる場所もないのでショートソードで待ち構える。


ハッハッハッと近づくにつれてだんだんと息遣いが聞こえて来る。

初めて遭遇するオオカミの魔物の速さに対応出来るか不安だが

やるしかない!まず初手は僕からだ!いくぞ!


「やあああああああああ!」

僕はオオカミの魔物の速さに合わせて剣を横薙ぎに…


「うわあああああ」

僕はショックで尻もちを付いてショートソードを投げ捨てた。

オオカミの魔物が3匹僕を取りかこみグルグル回る。


「あ、ああ、ああ」

言葉にならない感情が口からあふれ出る。

そんな僕の周りをオオカミの魔物が取りかこみ吠える。


「「ワンワンワオ~~ん」」


「何これ120%柴犬やん!めっちゃ可愛い~~~~!」

そうなのだオオカミの魔物は柴犬そのものだったのだ。


僕はこうみえても小さい頃から犬好きなのだ。

でも貧乏で飼えなかった。買うと高いし。

だから毎日妄想でシュミュレーションしていたのだ。


最近では動画サイトでお気に入りの柴犬動画を

まんまとチャンネル登録して、

毎日あざとくアップしてくる動画を楽しみに

せっせと再生数に貢献しているのだ。


どれぐらい柴犬の事が大好きかと問われたら

「そこそこ。猫より好き」

って答える自信はあるね。


“キュピピー(自信あるほどじゃあないね)”

フェイありがとうツッコんでくれて。


確かに柴犬はオオカミのDNAを一番受け継いでいるらしいんだけども、

ダンジョンの魔物に反映させなくてもいいんじゃあ…


あれ?コボルトの件といい柴犬の件といい

このダンジョンってもしかして…


“さすがに気づいたか。そうだこのダンジョンは俺が作った偽物だ”

レイ君がフェイを通して声をかけてきた。


「やっぱりそうなんだ。でもどうして?」

“いきなりゆずるを本当のダンジョンに送れるわけないだろう。まずは慣れさせる為の練習用のダンジョンだ。”


「レイ君ありがとう。気を使ってもらって。」

“まあ、相棒にあっさり死なれても俺寝覚めが悪くなるからな。”

ふふっ僕はつい笑ってしまった。


“か、勘違いしないでよね!本当についでなんだからね!ガチャ”

なぜか照れると、毎回ツンデレ風セリフで誤魔化して逃げるクセがあるな。

まあ、そこがレイ君のいいところでもある。


せっかくだから柴犬を満喫して帰るとしようか。

ハグハグやプニプニもしゃもしゃと堪能して帰るとしようか。

…………………

…………………

…………………

…………………

無防備に近づいたら

めちゃめちゃ襲われた。

…………………

…………………

全治3カ月だった。

結構重症だな!僕





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る