第23話 ある頭の弱い男達の話
ある日の夕方、事務所を閉めようとドアに近づくと5、6人の男達が入ってきた。
男達はみるからにガラの悪そうな、頭の悪そうな男たちだった。
「しけた事務所だな、何もねーじゃねーか!」
男はソファーを蹴り上げた。
「な、なんですかあなた達は。いったい…」
「うるせ〜黙れよ!」
怯える僕を見て頭の悪そうな男達の代表は声を荒げる。
「ここに病気を治せる奴がいるだろう、どこにいるんだ?」
黙れと言って問いかける。
ものすごい頭の弱い人だった。
「あ、あいにく…今は…」
「じゃあ連れてこいや~~!その間居座る事になるけどな~~~。」
そう言ったとたんに残りの頭の弱い男達はソファーや机の上に座り
ニヤニヤしている。
「わ、わかりました。今呼んで…。」
「なんだ、ゆずる騒がしいな。」
奥のドアからレイ君が出てきた。
「銀色の髪、白いスーツ、話通りだな。こんな高校生みたいな奴が病気やケガを治せるようには見えねーけどな。」
頭の弱い男達が一斉に立ち上がって、レイ君をとり囲む。
「お前達はいったい…」
「うるせー貴様は黙って付いてこればいいんだよ!」
おい、と男が指示を出すとレイ君の両脇を抱えて拘束し連れ出そうとしている。
「何しているんですか、レイ君を放してください。」
僕がレイ君の両脇を拘束している頭の弱い人達をはがそうと近寄ると、
バキッ
後ろにいた頭の弱い男に殴られ、倒れたこんだところの腹に蹴りをいれられた。
「ぐぐぐっううう」
僕はうずくまって呻き声をあげた。
「やめろ!ゆずるには手を出すな!」
「手を出して欲しくなかったらおとなしく付いてくるんだな。」
「ゆずる、オレは大丈夫だから心配するな!」
「レイ君…」
僕は連れられていくレイ君を床に這いつくばった状態で心配そうに見つめた。
「おい、警察にタレこむんじゃねえぞ。もしタレこんだらコイツは…言わなくてもわかるよな!。」
そう言って頭の悪そうな男達は僕にすごんだ。
言い切って満足したのか頭の悪い男達は来た時と同じく
荒々しく事務所を出て行った。
頭の悪い男達が出て行ったのを確認した1分後に僕はすっくと立ちあがり、
倒れた時についたほこりを両手で払った。
「はぁ〜まっこんなもんでいいかな。」
こういう荒事、たまに強引な輩が来るのは想定内だ。
前々からレイ君から事前に聞かされたいたので、打ち合わせ通りに
気の弱い青年を演じた。
何度もあったのだが、ああいう輩はだいたいみんな同じパターンだ。
気の弱い怯えた態度をとると大声を出してマウントとろうとする。
それを見て自分が上位者だと思い暴力も振るってくる。
たぶん優越感にひたっているのだろう。
脳内麻薬のアドレナリンが出まくってテンションが高いのか
奇声を発する奴が多い。
うひょーーーとかね。
ソファーとか物に当たり散らすのもいるが、
無機物に攻撃とかわけわからん。自分を痛めるだけだ。
セルフ自分攻撃だ。
自らが攻撃して自らがダメージを負う。
それによって得られるのは威嚇のみなのだ。
しかし相手に威嚇耐性がある場合は全く通じないという
威嚇相手によってはものすんごい恥ずかしい行為なのだ。
もちろん威嚇耐性の高い僕は怯えた演技をしながら冷静に男たちの顔を見ていた。
威嚇顔のレパートリーが豊富で笑うのを抑えるのが大変なのだ。
ものまねのコロッケさん並に顔の筋肉が動いていた。
ぷっ
僕は頭の悪い男たちに脅された時、
“ドキ、男だらけの威嚇顔マネ写真集とか出したら売れるんじゃない?”
などと考えていた。
「警察にタレこむんじゃねえぞ。」
と言われた時には少し吹いたもんね。
ぷぷって。
大声で笑いそうになって、抑えるのに必死で
口がわなわなして大変だった。
危なかった〜あの時は。
今聞きたいセリフNO.5に入るセリフだったから
キタ〜〜〜〜〜ッて思って、ついぷぷって。
言った男は俺が怯えてると思って、
部屋を出る時に再度僕に振り返ってメンチ切って帰ったもんね。
こいつ最高だな100点満点が出た~~って叫びそうになったもん。
あの時の顔、缶バッジにしてメルカリで売ろうかな。
“ドキ、厳選決め顔、いきり顔シリーズ”
として第10弾まで考えた。
「さてさて、今回はいくらぼったくって帰ってくるかな。」
僕はレイ君の心配を一切せずに
早々に事務所を戸締りして自分の部屋へと帰った。
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今頃ゆずるは部屋に帰った頃かな。
あいつ最後の方ちょっと吹き出しそうになってただろう。
こっちはバレるんじゃないかとヒヤヒヤしたじゃないか。
帰ったらお仕置きだな。
今オレはワゴン車の中で目隠しされ
手足を縛られて後ろの席に放置されている。
たぶんどっかの事務所に連れていかれるのだろう。
まあ、大体この後の展開は分かるけどな。
車は1時間後くらい高速道路を走って止まった。
ようやく着いたようだ。縛られたまま運ばれる。
楽チンなのはいいけど男たちがムサいな。
こいつらバカだから扱い雑だし。
部屋の中に入るとソファーに座らされ目隠しを解かれた。
目を開けると目の前にタバコを吸った小太りなガマガエルみたいなおっさんがいた。
「思ったより若いな。こんなガキに本当に治すのか?」
タバコの煙を吐きながら、臭い息も吐き出した。
「俺の顔に臭い息吹きかけるなよ、ガマが。」
「クソガキが!」
俺を押さえ込んでいた周りの頭悪い男が俺の顔を殴る。
バキキッ
「ぐがっ」
一応痛がっているフリはしておく。
「いきがっていられるのも今のうちだけだ。」
目の前の小太りなガマガエルが俺の手にタバコの火を押し付けた。
「ギイいいいいい」
こんな擬音であってるかな。あつうううういいいいの方がインパクトあったか?
などと悩んでいるうちに、押し付けられたタバコの痕を消しておく。
本当にオレは治療できるんだよ〜アピールだ。
でもこいつら頭悪いから気づくかな?
「君にはいい就職先を紹介するよ。」
ガマガエルがニヤけ面で提案というなの脅迫をしてくる。
「ずう〜〜っと私に飼われながら金の成る木としてね。」
ガマガエルのニヤニヤが止まらない。
案の定、オレに法外な料金で治療をさせて荒稼ぎをし、
この組の資金源として一生奴隷として外にも出さずに
飼い殺ししていくという提案?だった。
「まあ、君には拒否権はないんだがな、ギェーヘヘへ。」
気持ち悪い笑い方だな。
周りものその笑いにギャアハハハハと下品な声で揃えて笑う。
頭悪そうな笑い方だな。
ムカつく。
もうそろそろいいか。これ以上引き出し無いみたいだし、
案の定タバコの痕消したの気づいてないし。
「何がそんなにおもしれーのか知らんけど、断る!」
とオレははっきり断ってやった。
ガマガエルと頭の悪い男たちが俺を取り囲んで睨む。
「勘違いするなよクソガキが。ここではお前なんかに人権なんて無いんだぞ。今のうちにわしに従順になっていたほうが賢いと思うぞ。」
「あ〜もういいわ、お前ら頭悪いし底が浅いからここで終了!
はい、お疲れさん。」
「なめんなよ!クソガキが!!!」
隣にいた男がオレの顔を殴った。
「ぐぎゃあああああああ」
オレを殴った男の方が痛み出した。
指が2、3本変な方向に曲がっている。
「だいたい、オレに今までお前らみたいに強行してくる奴がいないと思ってるの?
何の備えもしてないわけないだろう?」
「はっ、な、何を言ってるんだ?」
ガマガエルが少し焦った顔つきだ。
「お前らは10段階評価で2点だな。今まで強行してきた奴らの統計的に。頭悪すぎるわお前ら、あと雑。」
周りの男たちは固まっている。
オレのみなぎる自信に得体のしれない違和感を感じ取っているのだろう。
「本当はオレ1人でもこんな組つぶす事は簡単なんだけど、今回は上の人に処理任せるわ。ほらそこに」
オレが入ってきたドアを指さすと、
黒服の男が3人入ってきた。
「あっあなたは、本部の…」
ガマガエルは驚き、慌ててソファーから立ち上がった。
周りの男達も揃って頭をさげる。
「お久しぶりですレイさん。」
「立花さんもお変わりないようで。」
オレにしては珍しく差し出された手に握手をする。
ガマガエルはとその仲間達は声を失っているようだ。
「今回はお手数おかけしました。でもレイさんならこんなまわりくどいやり方しなくても自分でさっさと片付けられるでしょうに。」
「いや、本当に事務所で来た時点で追い払えば楽なんだけど、その場で駆除しても元を断たなければ何度も来るでしょ?ゴキブリと一緒なんだって。だから最近はとりあえず芝居を打って元から消毒し回ってるってわけ。それにオレだけで片付けちゃうとほら、殺すことになっちゃうから。変な反感買うとそれがまた煩わしいから。だからオレが直接手をくださないのが善意だよ、善意。」
「そうですね、じゃあありがたくレイさんの善意を受け取っておきますよ。」
「ああ、じゃあ後始末は全部任せたわ。それじゃあまたね立花さん。」
そういってオレは事務所から出て行く。
ガマガエル達は最後まで何がなんだかわからないって顔をしていたが
これからが地獄だろう。まあ、命までは取られはしないがこの世界では一生這い上がれないな。
さ、じゃあなるべく早く帰るとするか。
ゆずるが心配しているといけないからな。
ぐっすり寝てた。
なるべく早く帰ってきたのにぐっすり寝てた。
しかもオレが買っておいたなめらかプリンまで食べて
ぐっすり寝てたよ。
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