第22話 異世界への願望

「ねえレイ君ちょっと聞いてもいい?」


今日も僕とレイ君はいつものように僕の部屋でくつろいでいた。


「このままでいいのかなって僕は思うんだ」

「ん?何の話だ」

僕はこの機会にレイ君に聞いてもらおうと思う。


「僕がレイ君の元にきて3ヶ月くらい経つんだけど、毎日事務所で依頼人と会う→対価交換→時々決裂→ダンジョン→そしてたまに復讐対価交換のルーティンで果たしてこのままでいいのかなって。」

「このままでって何が?」


「メリハリがないっていうか、展開に変化が欲しいんじゃないかなと思って。」

「変化って…充分非日常じゃやいのか?ダンジョンとか。それにゆずるの好きな異世界小説でもスローライフという名の日常を扱っているのもたくさんあるじゃないか。」


「あるにはあるけどコツコツというか地味というか…そんな話好き?」

「地味って…感じ方は人それぞれだけど、オレは好きだぜ。」


「日常系の小説でも話に変化を求めるためにどんどんエスカレートしていくのもあるけどね。」

「まあ、何でも適度な刺激は必要だよな。」


「最初は平民なのにそのうち貴族に目をかけられ、あっさり王様までインフレするまでがテンプレ。」

「オレの異世界では平民は王様になんて絶対に会えないぞ。王様の顔すら知らない人がほとんどだ。」


「だけど小説だと王族がめっちゃフレンドリーかめっちゃ横柄かの2極化だろ。」

「それは…しょうがないだろ、2極化の方が話が膨らみやすいだろうしな。」


「だけどさ、初対面の王族に普通に話しかけてるバカな主人公もいるんだぜ。もちろんフィクションだって僕もわかってるけど、親しくても絶対普通に話しかけたら駄目だろって思うもん、学校の先生感覚で話しかけてないかコイツって。だから、そういう小説書いているのは多分身分差のない(少ない)日本人だからこその考えなのかなって。」

「まあ、細かい事を突っ込めばキリがないぞ。」


「あと、だいたい王国のドタバタ解決した後帝国出てくるよね?しかもめっちゃ悪役で無慈悲な。」

「帝国ってだいたいそうだろう。勢力の拡大を目指す帝国主義なんだから。」


「長期連載物って絶対に村→大きい街(辺境伯)→王都→王族→王国→帝国から世界へって展開ばかりだ!」

「めっちゃ毒づくじゃない?絶対って事も無いけどゆずるが怖い。」


「常に刺激、刺激で展開していかないといけない少年漫画イズムなのかな?」

「あくまでも個人の感想です。効果・効能を示すものではありません。」


「何保身に走ってるのさ、レイ君」

「いや、ちゃんと決められた用法・用量を守るように。」


「病気じゃないです!発作です。」

「まあ、つまり俺たちも劇的な展開を見せた方がいいんじゃないか?って言いたいんだろう?」


「そうそう、刺激が欲しい時もあるじゃないか。」

「そうだな…よくありがちだが、主要な登場人物が死ぬとかな。」


「そうそう、って僕とレイ君しかいないじゃないか主要って」

「100%ゆずるだな。たとえ俺が死んでも意外性がないだろ。謎システムによって絶対死んでないどろうってなって(笑)」


「そういうのはちょっと…」

僕は手のひらを合わせて勘弁してくださいのポーズ。


「ヒッチコックのサイコっていうのもその手法でびっくりするよな。今となっては古典だけど効果的ではあるな。」

「絶対死にたくないでござる。」


「あれ、でもゆずるこの間“俺このダンジョンクリアしたらクリ子に告白するんだ”って言ってなかった?」

「あからさまな死亡フラグ。しかもクリ子って誰よ!」


「ゆずるはわがままだな。」

「わがままなの?僕?生存を一心不乱に願う僕はわがままなの?」


「わかった、わかった。じゃあ次に入ってくる登場人物をあるていど育ててから殺そうか?」

「いや、そのパターンもあるけどね。いきなりグイグイ主力に来たなと思ったら、殺される役割だった奴。でもとりあえず殺されるパターンから離れようかレイ君。」


「じゃあ、ゆずるはどんな展開を望んでるんだよ?」

「よくぞ聞いてくれました。っていかやっとそのセリフ言ってくれたかねレイ君。」


「貯めなくてもいいから早よ言えよ。」

「発表します!トゥルルルルル、ジャン!レイ君と異世界に行って大冒険の巻でござる!」


「パチパチパチパチ八」

レイ君がおざなりに拍手をしてくれている。

続きを話せという事ですな。


「展開はこうだ。僕とレイ君は異世界に行く事になったが、異世界に順応するために修行、勉強をする。そしてある程度強くなった後に、お使いイベントをこなしている最中にトラブルによってレイ君と離れ離れになってしまい僕一人で異世界でレイ君を探し出す旅に出る事に。その途中で波乱万丈なイベントが次々に降りかかるが、僕の活躍でいつのまにか世界を救う勇者に。勇者となって魔王と戦う事になったコボルトハンターゆずるは仲間達(美女限定)と魔王城に赴くのだった。苦労の末たどり着いた魔王の部屋に姿を現したのは記憶を失った魔王レイ君だった。」

「パチパチパチパチ八」

レイ君がおざなりに拍手をしてくれている。


「そして激闘を繰り広げた二人だったが、なんとか魔王レイを倒すことに成功した。そして魔王レイは息を引き取る間際にコボルトハンターゆずるの事を思い出し笑い…」

「笑ってどうする。」


「笑って死んでいくのだった。その亡骸を抱えた僕は“この世界の音が止んだよ。レイ君がいなくなったから”」

「お前が止ましたんだけどな。」


「誓うよ。もう第2、第3のレイ君が生まれてこないように、この世界を…この世界を僕の手で変えてみせる!」

「何でこの世界ためて言い直した、1回でええやろ」


「そして美女達を残して僕は一人で地球に帰ってくる。」

「残してくるんかい!ハーレムするんじゃないのかよ!」


「いや、散々致したからもういいかなと思って。」

「最低だなお前!地球に逃げてきてるじゃねーかよ。後腐れなく!」


「それが僕の小さな願望です。」

「願望どころか欲望まみれじゃねーかよ。」


「どう?こんな展開あるんじゃな〜〜い?」

「絶対ないな。友達が悪側だったとか使い古された展開だし。」


「だからレイ君の異世界には連れてってよ、ねっねっ。」

「いや、ゆずるはちょっと…連れて行くのはキツイです。」


「この通り、ね、この通り」

と言いながら僕は手を合わせて覇王の舞を踊った。

久しぶりにレイ君の目の前で覇王の舞を踊った。


めっちゃブチ切れられた。

結局今回の話は僕のゲスな部分を曝け出しただけの回になってしまった。

今度はレイ君に怒られないように

綿密に異世界へ連れて行ってもらう為の

作戦を考えておこう。

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