第9話 対価交換者 明日香の場合

赤江明日香(16歳)


「レイ、会いに来たわよ!」

事務所のドアが勢いよく開かれたと同時に、

身長160cmぐらいの制服を着た可愛いというよりかは美人といわれそうな

ポニーテールの女の子が入ってきた。


僕の顔を見て開口一番

「あんた誰?」


まるで空き巣に入ったんじゃないかとあからさまに疑っているような蔑んだ目で見てきた。

そんなに見つめられるとノーマルな自分がアブノーマルな性癖に目覚めてしまうかもしれないので早速否定しておく。


「ぼ、僕は、あ、怪しいもんじゃないです〜」

思いっきり怪しいやつの言い分だった。


「平野、排除しなさい」

「はい、お嬢様」

黒服のがっちり体型のお兄さんが僕を排除に動く。

僕の仕事にはこういった荒事も含まれている。なれっこだ。


黒服のがっちりお兄さんとがっぷり四つに対抗できる術もなく

簡単に組み伏せられ、事務所の外に引きずられた。

あたり前だ、今まで僕は荒事に巻き込まれた事などない。

僕はヨワヨワだった。


「おいおい、また来たのか明日香。今日は何しに来たんだ。」

やっとこの部屋の主が登場だ。もっと早く出てこれるのに絶対に僕がやられてから

登場しやがったなコイツ。なぜなら僕を見てニヤニヤしているから。


「何しに来たんだっていつもつれない言葉ですわ。こんなにかわいい女子高生が来たっていうのに」

彼女は俺の時とは180度態度が違って、笑顔いっぱいでレイを出迎えた。

本当に嬉しそうだ。


「そんな事より平野さん、ゆずるを放してやってくれ。そんなに弱っちくてもオレの相棒だ。」

レイ君…そんな風に言ってくれるなんて、僕…

もっと早く言えたよね?もう事務所の外に出されてるんですけど。

今更言われても…


「相棒ですって! 平野、シメなさい。」

「はい、お嬢様」

おい、平野。何でも従うなよ。やめろ寝技で僕を落とそうとするなよ…お…


本当に落とされて10分経過後ようやく復帰しました。

おい、平野てへっじゃない、てへっじゃ。気持ち悪いんだよいい大人が!

あ、うそうそうそかわいいかわいい。


そんなやり取りの間も二人はソファーに向き合って和気藹々と紅茶を飲んでた。

楽しそうだ。


「レイ君その娘だれ?」

「人に尋ねる前にまず自分から名乗りなさい!」


「あっ失礼、僕は神崎ゆず…」

「興味ないわ。下がりなさい」


「レイ君、こいつ殴っていいか?」

「平野、シメなさい。」

「はい、お嬢様」

おい、平野!盲目的に従うのやめろよ!話が前に進まないだろう!

速攻で落とされました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「彼女は赤江明日香、半年前に対価交換で白血病を治したんだ。」

「そうよ、レイは私を救ってくれた白馬の王子様よ。」


彼女は幼い頃から入退院を繰り返していて、病気のせいで学校にも通えずかなり寂しい幼少期を過ごしたらしい。

病院に入院中は同じ境遇の子とも仲良くなったりもしたが、自宅療養期間も長くひとりで過ごす時間の方が圧倒的に多かった。

長い闘病生活で心も体も疲弊仕切っていたところに、レイ君の噂を聞きつけた両親が対価交換を申し込む。

なかなかの額を提示されたらしい。

「取れるところからむしり取るポリシーだから。」というポリシーを本人の目の前で言うのは止めてあげて欲しい。

富める方も貧しい方にも平等に優しいくできる方なのです。とレイ君を良いように拡大解釈するのは止めて欲しい。


「という事で病気で弱っていた私を颯爽と現れ、優しく手を差し伸べてくれたレイをお慕いしておりますわ。」

「まあ、対価はがっぽりいただかれてますけどね〜。」

と僕が言ったら、彼女にキッと睨まれた。いつまでも夢見る少女でいられないぞ。


「さて、そんな昔話をしにきたんじゃないんだろう。要件はなんだ?」

「もう、もうちょっと可愛い明日香ちゃんと会話を楽しみたいとい氣持ちはないんですの。まあいいわ、平野」

「はい、お嬢様」

平野さんは紙を取り出してレイに手渡した。

おい、平野。お前さっきから「はい、お嬢様」しか言ってないけどそれでいいのか?


「お爺様から預かってきました。いい物件が見つかったようなので、ぜひその目でお確かめくださいとの事。」

「ありがとう。うん、なかなかいい物件のようだな。さすが赤江のじいさんだ。顔がでかいだけはあるな。」

顔が広いね。でかいじゃ意味違っちゃうから。


「もう、お爺様ばっかり褒めて。たまには私の事をもっと褒めそやしてもいいのですよ!」

「いや、明日香はオレのタイプじゃ全然ないから。」

辛辣!レイ君めっちゃ辛辣やん!もうちょっとオブラートに包んであげて!


「それじゃあ、今から出かけられますか?一緒にドライブですね。うふふ」

動じてない!明日香ちゃん全然動じてないよ。メンタル強!強メンタルだよこの娘!


「ゆずる、ちょっと出かけてくるから、もう今日は事務所閉めて帰っていいぞ。」

「わかった。僕はいかなくていいの?」


「ゆずるにはまだ早いかな。そのうちにな。」

「お子様にはまだ早いですわ。お家で良い子にしていらっしゃい。」

お前の方がお子様やろが!しばくぞ!


「平野、シメなさい。」

「はい、お嬢様」


こうして僕がまたシメられて落ちている間に二人は出て行った。

せめて平野さんを止めてから行って欲しかった。


そして僕をシメていた平野さんも置いていかれてた。いや、せめて平野さんは待っていてやれよ!

あんたの命令でシメてたんだぞ!


置いてかれた平野さんは電車で帰っていったが、駅に向かう夕陽を背負った後ろ姿は少し悲しそうに見えた。


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