幕間:互生脱会者のインタビュー

あなたが今日の記者さんですか。よろしくお願いします。


―よろしくお願いします。早速ですが、あなたが互生に入った理由から、順を追って話していただけますか。


ええ、構いませんよ。隕石が落ちてからこの方、こんなご時世だから、みんな心も荒んでるし、仕事も不景気だって言うんで、自分は職こそ失いませんでしたがボーナスをカットされ、妻はパートの仕事がなくなって収入がカツカツだったんです。私たちはまだマシなほうで、一家全員仕事がなくなった人もいれば、災害で家族が死んだ人もいました。だから自然、地域の治安も悪くなってくる。どこからか流れてきた浮浪者たちが公園を占拠する。以前は町内会でちょっと注意すれば終わりだったような話が、殴り合いにまで発展するほど揉めに揉める。小さな交番の駐在さんだって、一人で体が何個もあるわけじゃない……誰もが誰もに対して、ピリピリしてたんです。

 そんな時に現れたのが、互生の人たちでした。あれは、なんていうんでしょうねえ。と入ってくるとでもいうのか、町内会の争いは間に入っちゃうし、公園の浮浪者たちはいつの間にか自分たちで引き取っちゃうし、そんなだから感じ入った町民の中に、自分も互生に入れてくれって言う人たちが出るのは、当たり前って感じでしたね。私たち夫婦が互生に入ったのもその頃です。


―なるほど。互生に入ってからは、どんな活動をされていたんでしょうか。


まあ、全体的に緩い感じでしたよ。互生はもともと、例の災害で被害を受けたり、仕事を失ったりした人たちの互助団体から始まってますから、世間の皆さんが想像されてるような、大量に集まってカルト的な儀式……ってことはないです。土日に集まって懇談会のようなものをしたり、バーべキューをしたり。でもそういった集まりでの会話や行動の合間合間に、神への祈りの言葉とか、そういう細かい言動が挟まりこんでくるというか。同じ集団に属することの心地よさとでもいうんでしょうかねえ。

たまには半日ぐらいの真面目な祈りの儀式もありましたが、仕事や冠婚葬祭でどうしても出られない、と言う人にも寛容でしたし。そういえば、冠婚葬祭も互生独特のやり方というのはなくて、別に葬式を仏教式で挙げても何も言われませんでしたね。だから親戚とも揉めたことはありませんし。

あとは奉仕活動ですかね。と言っても大したことじゃないですよ。要は互助会からスタートした組織ですから、信者が困った時もお互い助け合うようにしよう、という精神があるわけです。例えば金のある信者なら、余分に会費を納める。特別な技術や知識を持っている信者、例えば医者や看護師や会計士や弁護士―変わったところだと、葬式を出すお金がない人のために坊主の信者がタダで葬式を出すなんてのも聞いたことがあります―はその技術が必要な人や、互生の組織運営のためにその技術や知識を提供する。特に秀でたところがない人でも、例えば人手が必要な仕事を手伝う。助け合いが上手くいくようなマッチングや道具や移動手段の手配諸々のほうは、互生の組織のほうでやってくれるわけです。


―聞いてる限りだと、特段変な組織だとは思えないですね。ちょっと拘束時間が長いようには思えますが、それは他の宗教もそういう面はあるでしょうし。そこから抜けることを決断するような、異様な出来事とかがあったりしたんでしょうか。


いや、別にそういうわけじゃないんですよ。でも、考えてみたら何の解決にもなってないなあって。まあ、何かあった時に何かしてくれるのは助かりますけど、逆に言えば何もない時は会費払って仕事してるだけですからね。

考えてみるに、あそこは宗教というよりも、居場所だと思うんです。


―居場所。


そう。お金を払う代わりに、多くの人と緩い教義を共有し、人間関係と助け合いを提供する。それって、例の災害や、それに続く不景気で仕事や家族を失った人みたいな、今孤立無援だ、って人にはすごく魅力的だと思うんです。

でも私たち夫婦は別に親戚や地域との付き合いで孤立してるわけでもないですし、経済的にも互生に依存しないといけないほど貧困というわけでもないですからね。もちろん家計が楽と言うわけではありませんが……

だから、なんというか、意義が感じられなくなって。


―なるほど。


後は、そうですね、やっぱり私たちは互生に甘えてるんだと思います。


―脱会したのに、甘え?


はい。脱会しても、厳しく責められることはないんです。それどころか、脱会手続きも簡単に進められますし、「また来たくなったら、いつでも来ていいんだよ」って言われます。これは私たちだけじゃなくて、他の脱会者の人もそうです。だから、いざ抜けたことを後悔したり、今からもっと生活に困窮したりして再び互生に駆け込んでも、互生は私たちのことを暖かく迎え入れてくれるだろうと。そういう甘えがあります。


―なるほど……


入ってから抜けるまではこんな感じですけども。


―有意義な話をお聞かせいただき、ありがとうございます。非常に参考になりました。


いえ、こちらこそ。実はまだちょっと悩みはあったんですけど、口にすると頭の中が整理されるものですね。

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