第2話

さっきまで静寂に包まれていた教室が突然ワッと暖かくなる。この感覚は嫌いではないが、なぜか心に刺さる。


 僕は便箋に一枚の手紙とひまわりの写真を同封してファイルに挟み込んだ。


 「あのー、花崎君。ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」


 突然話しかけられて私の頭はパニックに陥った。私は名前を呼ばれたことに一瞬気が付かなかった。名字を呼ばれることなんて授業以外にないし、仲の良い人は名前で呼ぶせいだ。


 「え、俺?」

 「いやね、このクラス花崎以外に花崎いないでしょ」

 「あ、うん。そうだね。それで何か用?」

 「色々あるのはあるんだけどね、さっき、ひまわりの写真持ってたじゃん? あれってコニールーナってところのやつじゃない?」


 なんとなく手紙関連であることは予想できていたが、実際に触れられると昔のことを思い出してとても嫌だった。


 私は小学生のころからこの幼馴染みとは文通をしていた。ある日から幼馴染みとは簡単に会えない日が続いていたから、せめて文章だけでも彼女とは繋がっていたくて手紙を書いていたのだ。


 しかし、子どもの世界とは残酷で普通は手紙を書かないから、私は変わった人というレッテルを貼られた。更に手紙の朗読とか、彼らからすれば「弄り」程度のことも私にとってはある種のトラウマになっていた。


 だからこそ手紙に関した話題を出されると気分が悪くなった。故に私は何をされた訳でもないのに、ぶっきらぼうに冷たく返してしまった。


 「あ、うん。そこのやつ」

 「やっぱりそうなんだ。私もよく行くんだけど、中にお花屋さんあるの分かる?」


 彼女は私の気持ちを知ってか知らずか話を続けてきた。少なくとも弄りとか悪気のある雰囲気ではなかった。


 多分だが、ひまわりの件は話のきっかけで実際にはただ花のことを話したいだけのように見えた。とは言え、そもそも知らない人と話すのが好きではないからあまり気は乗らなかった。


 「えっと、スノードロップだっけ」

 「そうそう。私そこで休日だけバイトしてるんだけど、それでね、花好きなら売れ残りあったとき欲しい?」

 

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スノードロップス @fei1220

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