12話「ミスター・アンド・ミセス」ー前編

(前回のあらすじ)

"Lucifer"が販売するアクセサリーのデザイン会議は、"わわわ"にて始まった。各員の顔合わせで、ひとまずの挨拶が終わった後、月島に呼び出された怜子は2人きりの部屋で一方的に"理由の分からないまま"恫喝を受ける。言い返すも急に怒り出したり、落ち着いて優しい言葉を吐く彼女の様子に何もできなかった怜子であるが、最後まで耐え続けた結果、愛結が止めに入った事で幕を閉じた。


一方、古浦に呼ばれた辰実であったが、怜子は呼ばれていない事に落ち込む。…しかし、彼女が騒動の渦中にいる事を分かっていた辰実は、怜子から"ヘアゴム"を受け取る。


キックオフミーティングを皮切りに、怜子を巡る騒動の真実が少しずつ明らかになっていく…。



 *


(もう夕方の5時半か…。今日は燈とチビ達がお泊りの日だから風呂入らせて送ってから…)


時計は17時28分、就業も忘れて仕事に打ち込んでいたようだった。携帯電話を手に取ると、愛結からメッセージが来ている。"チビちゃん達はもう燈と一緒にお風呂入ったみたい"と書かれていた文字を目で追ってから、"了解"とスタンプを送った。


古浦に会う約束の、20時まで時間がまだある。やる事なんて、"子供達を義母の家に送る"ぐらいの事だけで残りの約2時間半をどのように過ごすかが頭に浮かぶ。頭をマルチワークさせながら過ごす2分は早かった。事務所に置いている時計の長身が真下の6を過ぎたのに気づいたのは、もう7の辺りに寄っている頃である。



「よし終業だ。…皆もう帰ろう!俺はチビ達の世話があるから帰るぞ!」

「お疲れ様でしたー」


この日は辰実が真っ先に支度をして帰った。次に伊達が"お疲れ様でした"と恭しく頭を下げて帰っていく。残った3人組と怜子は、仕事を終えて歓談を始める。


「この後マイケルと飯でも行こうと思うんだが、お前もどうだ?」


片付けをしている怜子を、栗栖が食事に誘う。デスクのPCを挟んだ向こうでマイケルが怜子の様子を伺っていた。


「私は大丈夫ですけど、トビさんは行かないんですか?」


"僕は今日、嫁と子供を嫁の実家に迎えに行くからまた今度で"と申し訳なさそうに両手を合掌し答える熊谷。ちなみに"アヌビスアーツ"内で辰実と伊達、熊谷は既婚者(そして子供もいる)で、栗栖とマイケル、怜子は独身である。


(トビさん、2月に赤ちゃん産まれたんだっけ)


「マイケル、今日は何処にする?」

「ドコでもいいヨ」

「じゃあ篠部、お前が決めてくれ」


右の人差し指を唇に当てて、暫く考える様子を見せる怜子。


「デザートの美味しいお店が良いです。」

「ん、そうか?…デザート、なら良さそうな店がある。」


"マイケル、あの関羽通りの喫茶店行った事あるか?"と栗栖はマイケルに話を振る。"おニューな店の事ー?"と片言混じりに陽気な返事が返ってきた。流暢と言い切るにはまだ手前なのだが、マイケルは日本人と普通に会話ができるぐらいに日本語は習得できているから"凄い"と実は怜子ちゃん、思っていたりする。


「商店街にある洋食店なんだが、"苺パフェ"が美味しいらしい。」

「え、苺パフェですか?」

「どうした、苺パフェは好きでは無かったか」


「私は大好きです、苺パフェ。そもそも果物は大好きです。」

「俺はバナナが大好きだ。毎朝食ってる。」


栗栖が"苺パフェ"と言うと、その筋骨隆々に厳つい見た目もあって"ギャップ"を感じてしまうのだが、"バナナ"と言うと何故かしっくり来てしまう怜子であった。


「…まあいい、今日はそこに行こう。マイケル、お前も良いだろう?」

「良いヨー」


(苺パフェか、楽しみだなー…)


こういった付き合いも大事である。正直に、グラビアアイドルをしていた時にはあまり積極的にしたがらず、打ち解けた人とがメインであった人付き合いであるが、最近になってようやく"人間関係を作るため"の人付き合いも大事だと学んだ怜子。その背景には小さい事務所だからこそ1人1人を大事にする"アヌビスアーツ"の存在があった事は間違いない。


「栗栖、料理の感想は後で送ってくれ」

「おう。」

「美味しかったら、また嫁とでも行くよ。…子育ては任せきりだし、たまには労ってあげないと。」


育児の事について、熊谷が辰実と話をしているのを事務所内で怜子はよく見かける。"イクメン"という言葉が世間にはあるが、愛結が"チビちゃん達の送り迎えやご飯もしてくれるし、おむつを替えるのも私よりできるのよ"と言っていた辰実はまさにそれと言っていい。"黒沢さん帰ったんだ…。ちょっとお食い初めの事で聞こうと思ってた事があるのに。"と熊谷が呟いたあたり、本当に育児ができる人なのだろう。



 *


喫茶店"ブーガルー"。


商店街は5つの通りに分けられているのだが、そのうちの1つ"関羽通り"に立地する新しい喫茶店であった。淡い白に木の深みが合わさったアジアンテイストの様相に気を惹かれ、躊躇う事もなく3人は店に入っていく。


外装と変わらないが、観葉植物を所々に置いて


「奢りだから遠慮なく食え」

「いいんですか?」

「給料入ったから大丈夫だ」


初任給が入ったのは、一昨日の事である。グラビアアイドルの仕事は、仕事をした分だけ貰える仕組みだったために固定給でお金が入るという経験は"AMANDA"でのアルバイトを除けばこれが初めてである。…最も、驚いたのは額面の違いであるが。


初めての給料日に、辰実と話した事を思い出す。


(…給料日だ。"アヌビスアーツ"に来てくれてありがとう。)

(いえいえ、こちらこそ拾ってくれてありがとうございました。)

(礼なら天田さんに言ってくれ。…折角貰った初任給なんだ、ささやかな贈り物に使ってもいい。)

(黒沢さんは、初任給を何に使ったんですか?)

(妹2人を食事に連れて行って、母には電子レンジを買ったよ)

(いいお兄さんだったんですね)

(家族サービスはやっておいた方がいい)

(私も、…そうは思います)



「初任給は大事に使えよ」

「怜子チャンは、何に使うヨ?マイケルはアメリカの"ジッカ"に"チクワ"をプレゼントするヨ。」


(家族か―…)


"実家"と聞いて、それまでニコニコしていた怜子の表情が一瞬フェードアウトしそうになる。"言いたくない事"や、触れられたくない事というのは誰にでもあったが、それが"2回"続くとどうしても意識してしまう。


「使い方は、ちゃんと考えようと思います」

「良い事だ」


メニュー表を見ながら、何を注文しようかとあれこれ頭を働かせる。向こうで運ばれている料理を見てみると、木のプレートにできたての肉料理やサラダ、バターライスが整然と盛り付けられていた。


…デートや女子会には丁度いい、"また1人でどこかに行きたい時はいいかな"と心の中で思う怜子ではある。


「注文は決まったか?」

「決まりました」


栗栖とマイケル、怜子で開いたメニュー表を囲む。明るい調の木製トレイにサラダ菜の緑が良く映えている。


「牛赤身プレート、大盛りで」

「ハンバーグプレート、大盛りでお願いしマス」

「竜田揚げプレート下さい」


各々、目に入った料理を注文する。"AMANDA"にもコーヒーや紅茶だけでなく料理はあったが、玉子とケチャップライスのみのオムライスやトマトパスタ、ハムサンドやサラダと言った軽食のみ。同じ喫茶店でも"ブーガルー"はランチプレートやデザートに力を入れており、両者両様に楽しみがあった。


プレートを頼んだら必ず出される、"オリジナルブレンド"が運ばれると、栗栖は瓶に入った砂糖を入れ、マイケルはブラックで、怜子は温かい一口を舌に拡がらせると栗栖が使った瓶から砂糖を入れかき混ぜた。


「どうだマイケル、"話し合い"の方は?」

「こちらも一筋縄ではいかないようネ。栗栖ハ?」

「どうやら俺も苦戦しそうだ。こいつは中々デカい仕事になるぞ。」


"苦戦"という言葉が、怜子にとっては意外であった。栗栖が担当する"20代後半"も、梓であれば辰実とも知り合いであり話がうまく行くと思っていた。方やマイケルが担当する"30代前半"も、愛結の人となりを知っているだけに"滞りなく進む"のだろうと怜子は思っていた訳である。


そんな2人が"大変そう"な顔をしている事に、怜子は疑問を感じた。


「苦戦、ですか?栗栖さんとマイケルさんが楽しそうにお話されてるので分かりませんでした。」

「デザインする"モノ"に依るがな」


"モデル"がいて、"アクセサリー"があればやる事は決まっている。それを見に付けた被写体が"ポスター"になるのは素人目にだって分かる。それが個人個人での話であれば"好きなように"考えて行けば良いのだが、"3人いる"という事の意味を怜子が気づいたのは、栗栖とマイケルが苦い顔をして少し経ってからであった。


「アクセサリーのデザインが完成したとして、それを見に付けてモデルの撮影をしますよね。…1人の撮影もしますし、3人集まって撮影もしますよね?」

「その"3人で集まって撮影する"のが難儀な所でな。」


事務所にいる時は、辰実の次くらいに仏頂面で仕事をしている栗栖だが、この時は表情が砕けているにも関わらず"参ったな…"と目が訴えていた。"難儀"という栗栖の一言に頷いて同意を示していたマイケルも同じような反応を見せている。


「愛結さん、ですか?」

「よく分かったデスネ」


小首をかしげて訊いた怜子は、困った顔をして驚いた栗栖とマイケルの2人にそのままニコリと笑顔を返した。


「上手く言えないですけど、綺麗ですよね愛結さん」

「生で見たのは初めてだけド、ビューティフルだったヨ。」

「そんな人と結婚してる黒沢さんは、一体何者なんだろうな?」


栗栖とマイケルがデザイン案に頭を悩ませる理由が"愛結"にあるのも疑問であったが、センパイが辰実の事を"何者か分からない"と言った事も怜子は疑問に思ってしまった。


「2人とも、知らなかったんですか?」

「俺もトビもマイケルも、黒沢さんが昔"公務員だった"って事以外、何をやってたかは知らないんだ。他は半年前に路頭に迷っていた所を"先代"が拾ってくれたとしか…。あとは学生の時はデザインの勉強をしていたのと、奥さんがグラビアの"黒沢愛結"だって事ぐらいか。」


「黒沢さんは、話してくれないんですか?」

「どうやら伊達さんは事情を知ってるようだ。…前に3人で黒沢さんの過去の事について、伊達さんに聞きに行ったんだが"私の口からお話する事はできません"って断られたな。」


辰実の事を、誰もが"殆ど知らない"。…しかし少なくともこの1ヶ月弱、辰実の事を"不審に思った"事は怜子には無い。


"言いたくない事は言わなくていいけど、嘘をついていいって事じゃない"


辰実が言っていた言葉は、そのまま自分へのルールだったのかもしれない。それを"壁"という事ができたが、誰もそれを壁と言わず、"付き合い方"と思った3人だから互いに安心できた。


「まあ、いつか話してくれるだろう。それよりも問題は"Lucifer"の企画の方だ。俺が担当する馬場さんも美人なんだがグラビアの"黒沢愛結"はまた違う。」

「何と言うカ、"オーラ"が違うヨ。写真を綺麗に撮ろうとすればするホド、そう言うのはよく見えるネ。」


優れた写真家は、その人の見えない魅力を引き出す。グラビアアイドルであった怜子にも勿論の事理解できる。


「1人だけが目立っても駄目なんだ、3人が3人どれも並んで"美しい"と言われるモノで無ければ。クライアントが売りたいのは"各層に"向けてデザインしたアクセサリーだからな。」

「どれも"綺麗だ"と言われるモノであって、どのモデルも"綺麗だ"って言って貰いたいって事ですね?」

「そうなる。…これは俺達の腕の見せ所だがな。3人に対し、俺達も3人。面白い構図だと思ってはいる。」

「怜子チャンの前だしネ。…後はボスと"若松物産"の方に集中して欲しいヨ。」


「そうだ、"若松物産"!これからPR動画の方だったか?」

「そうですね、数分くらいのと1分くらいのを。BGMも作らないと…」


「BGMを"作る"…?」


自分達が"アクセサリーを身に着けた愛結に引けを取らない美しさ"を表現しなければならないという緊張感も忘れて、栗栖とマイケルは怜子の言葉に食いつく。基本的にプロダクトデザイン、グラフィックデザイン、たまに動画作成もやった事はあるが、押しなべて"視覚"に訴えかけるデザインを行ってきた2人にはBGMを"作る"という考えは出てこなかった。


「私、作曲できます。」


"え、マジ?"、"オー、マジスカ?"と驚かされる2人。"自分にできない事を凄い事だと思う"と言うのは人の性である。…そして、それを素直に受け入れられるかは人の性の善し悪しを決める。


「小さい頃、お母さんにキーボードとギター、あとパーカッションを教えてもらったんです。"わわわガールズ"にいた時も楽曲のお手伝いをさせて頂きました。」

「黒沢さんも"オタマジャクシは読めん"と言ってたハズだ!…これは、これは面白い事になるぞ!」


困った調の仏頂面だったのに前身を乗り出してテンション上がった栗栖の様子を、料理を運んでいた女子大生くらいの店員が気まずそうに見ていたのに気づき、急に栗栖は姿勢を正したのであった。


「…とりあえず、冷めんうちに食おう」


"いただきます"と怜子は手を合わせる。口に運んだ竜田揚げの一口目は、まろやかな出汁の風味と衣のカリカリした歯ごたえがたまらなく嬉しいモノだった。



 *


(さて、燈とチビ達はマドリーヌの家に送った。…古浦さんとの約束の時間まで余裕はあるが、そろそろ支度をしなければ。)


マドリーヌと言うのは、辰実の義理の母(=愛結の実母)の名前である。日本人とフランス人のハーフで、見た目は愛結とよく似ていた。"若松物産"で牡蠣の養殖をしているのだが、何分その事を話すのが5話以来だったのでこの場でもう一度言っておきたい。


"母の様子も見たいし、母がたまには孫の面倒も見させて"と言うから、週に一度あるか無いかの頻度で子供達をお泊りさせてもらっている。"ときどき夫婦の時間は必要なのよ"と気遣うマドリーヌの言葉の裏には、仕事に忙殺されていた夫と過ごす時間が少なかった悲しさが隠れていた。


(会う約束をしてた店は、確か高級感のある店だったな…)


"ドレスコード"は存在しないだろうが、いつものようにパーカーに綿パンというラフな格好で行くのはどうかと思ってしまう辰実は、スーツに着替えようと判断する。


(ステーキの店だし、ネクタイは邪魔だな)


ドレスコードは無いのだから、ネクタイはしなくてもいいだろう。彼を象徴するような暗い青のカッターシャツに、黒いジャケットとスラックス。"半年前"まではこの格好で仕事をしていた。


着替えをしていたウォークインクローゼットを出ると、夫婦の寝室に置いている化粧台の前で、水色と言うには濃すぎる青色くらいのカッターシャツ1枚姿で愛結が化粧を直している。元が良すぎる所為か、愛結の化粧はあまり時間がかからない。肌に合わせたのかリップの色は違うものの、深い茶色のアイシャドウは怜子が好んで塗っている色と同じに見える。


傍に畳んで置いていた黒いエプロンワンピースを、カッターシャツの上に履くように着る愛結。大きさは違えど、これも色と形が怜子が"お気に入り"と言って着ていたモノと一緒であった。カッターシャツを整えると、波がかった長い栗色の髪を右側にかき分け、肩紐を首の後ろで結ぼうとする。


「座ってくれ」


言われるままに座った愛結の代わりに、辰実が肩紐を首の後ろで蝶々結び。長い髪を後ろに戻して、滑らかな手つきで櫛を使って線を辿る。部屋の照明に反射して、辿った線の跡が淡い光沢を放っていた。


振り返って辰実を見上げ、"ありがとう"と落ち着いた様子で喜んだ愛結。



 *


19時40分。


"セントラル若松"は、観光客向けに建てられたホテルであるにも関わらず、最上階(15階)に作られたレストランが評判であるため地元の利用客も多い。


辰実と愛結が着いた時には、ビジネスライクにまとまった暖色光のロビーの一角、革製のソファーで饗庭が寛いで待っていた。


「よう、早かったじゃねえか?」

「もう少しゆっくり出ても良かった」

「余裕はあるに越した事はねえ」


白い歯をむき出しにして、かっかと笑う饗庭。彼自身の豪胆な性格を表すようであったが、その片面で酸いも甘いもを味わってきた"大人の余裕"と言うのも感じさせる。


「強敵の予感がするが、"セーブ"はしておくか?」

「できるならしたいモノだな」

「…間違いねえ。」


冗談、ではある。古浦を"強敵"と饗庭は例えたが間違いでは無かった。幾度か腹を探り合うも、古浦の真意を測る事は出来ていない。真意の分からない者ほど"怪しい"と感じるのだがその実態を掴む事が難しく、罠にでも嵌められたような気分に陥ってしまう。


「アレだ、セーブはできないんだが"情報の整理"だけはしておくか。」

「どうした珍しい、手でも組むのか?」

「馬鹿言え。俺とお前は友達だとしても手は組まねえ。まして"お前や"古浦みてえな何考えてんのか分からん奴となんてまっぴらごめんだ。」

「それでいい。…俺も友人だろうが妻だろうが、"わわわ"と手を組む気は更々無い。」

「それでこそ黒沢だ。相手が嫁さんだろうと一切ブレねえ、…成長したじゃねえか?」

「そういう顔じゃないと、人の上には立てん」


"味方"では無い。だが、時には手を取り合う。字面だけ追ってみれば仲間割れのように見えるかもしれないが、それが傍で観ている愛結に取れなかったのは、この2人の信頼関係ができていた証拠であった。


「さて愛結さん、これはアンタも聞いといてくれ。」

「古浦さんに関する事ですか?」

「そうだ。…この前は黒沢の奴と整理したんだが、あの男が描いてるのは篠部怜子の"シンデレラストーリー"だよ。あの子の不祥事は知っている可能性があるとは思うが、それにどこまで関わっているかは今のところ分からん。」


「でっち上げよ、不祥事なんて」

「似た者夫婦だな、本当に。アンタの旦那さんだって"そう思ってるから"、自分とこのデザイン事務所に拾ってんだよ。」

「そうよ、主人があの子を雇ってなければ"起こりうる事の無かった"物語だわ。」


"古浦が裏でどこまで関わっているかは分からないが、確実に不祥事に絡んでいる事は分かる"というのは、饗庭にも愛結にも、そして辰実にも理解できていた。一旦の整理が終わったところで、辰実の携帯電話が振動する。


『古浦です。もう皆さん、着いてますか?』

「もう3人ロビーに集まってます。」

『早いですね。…僕の方はもう、15階のレストランの席にいます。入口で"古浦の連れだ"と言ってくれれば入れます。お待ちしていますよ。』


"分かりました"とぶっきらぼうに答え、辰実は通話を切った。


「もう席にいるみたいだ。早く行こう。」


ロビーの奥の"来客用"のエレベーターに乗り込み、15階のスイッチを押す。静かに機械音だけを鳴らして上昇するエレベーター内でぼうっと立ったままの3人が、到着の音で顔を上げる。



"スカイテラス若松"


"セントラル若松"の15階、暗がりのフロアの先にあったレストランは、眺めの良さと料理の評判で県内外から高い人気を誇っていた。ショーケースに料理が並んだ、昭和風のレストランの入口を抜け、古浦に言われた通りの説明をすると古浦のいる席に案内された。



「お待ちしておりました」


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