9話「夜空に紛れて」ー前編
(前回までのあらすじ)
一度は自分の置かれている状況に泣きだしてしまった怜子であったが、"スケベなニワトリ"と共に展開した自らの推理で"自分に起きた事の真実を知りたい"と考え立ち直る。
その一方でその事を予想していた辰実は、"若松物産"への話し合いの場を再度設け、カメラの準備と共に"Studio Bianca"へ撮影協力を申し出ていた。怜子を連れ味元との商談へ向かった辰実は、その場で怜子が撮影モデルを"承諾する"という返答を聞いて早速撮影の準備にかかる。
撮影は無事成功、更に辰実は真崎に対し更に撮影協力を申し出た。…あらゆる準備のうえで進む事のできたステップであるが、その裏で一体、辰実は何をしていたのか?
*
"若松物産"
撮影後は真崎も加え、怜子の写真を確認しながらもポスターの方針は流れるように決まって行った。気づけば昼になっていた4人は"よろしければ食べて行って下さい"と、好きな鯛料理をサービスしてもらっていた。
「美味しいなあ、身が締まった新鮮な刺身もさることながら、この炙りも脂がにじみ出てたまらない!」
鯛の刺身と炙りで盛り付けた海鮮丼を頬張りながら、真崎は感嘆していた。確かに、思わず声を上げたくなるぐらいに美味でしかない。炙りと刺身の二重奏だけでなく、縁に盛り付けられたとびこの食感や"若松物産"特製のだし醤油タレが魚の脂を更に旨く完成させる。
頷きながらも、辰実は大盛りの海鮮丼を口に運んでいた。本当に美味しいモノに対しては言葉が出ない。
隣で怜子が食べている"鯛茶漬けセット"にも目が移る。殆ど"ひつまぶし"の鯛バージョンであるのだが、特製のタレに漬けこんだ鯛の切り身を、最初は白米をよそってのっけ食べし、次にだし茶漬けにして食べる。薬味には刻みネギとワサビ、山椒が添えられていた。添えられているタラの芽の天ぷらも季節ものなだけに"美味しい"の一言につきる。
いつも通りぶっきらぼうな顔をして食べている辰実の横で、怜子がニコニコしながら食事をしていた。
「鯛茶漬けセットの方は美味しいの、怜子ちゃん?」
「美味しいですよ、"ひつまぶし"みたいな感じで。」
「成程、4月のうちにまた食べに来るか」
これだけ美味しいなら、いくらでも、そしてまた別のを食べてみたい気持ちは分かる。
「…ところで黒沢さん、また僕らが"手伝う事"って一体何なんですか?」
海鮮丼を頬張り、大量にワカメが投入された赤だしをすすってから辰実は答える。
「真崎さん、商店街の"Lucifer"って宝飾店、ご存知ですか?」
「ああ、同じ通りにありますね。」
「そこが"わわわ"と協力して新デザインのアクセサリーを作るんですが、"アヌビスアーツ"はそのデザインを担当する事になってるんです。…まあ当然、"デザイン"と言われたら造形やアクセサリーを着けたモデルの撮影までやらなければいけないと。という事ですので、撮影スタッフの協力をしたいんですよ。」
ターゲットが"20代前半"、"20代後半"、"30代前半"と3パターンのアクセサリーを作る必要があり、モデルも3人と、その分の撮影をしなければならない。その説明を真崎は箸を止めて頷きながら聞いていた。
「へえ、"わわわ"と。"わわわ"にもカメラマンはいそうですが…」
「"Lucifer"が"わわわ"と協力したというのは、"わわわ"の発信力を買っての事でしょうし、当然"モデル"というのは"わわわ"のモデルやグラビアがやって来る。ただでさえ"デカい相手"がそれを良い事にデカい事言ってくると、デザインする側としては非常にやりにくい。…だから"そうなる要素"が少なくなるように"アヌビスアーツ"側が手を借りるとすれば商店街の人から借りたい。」
辰実が間を置いて、更に続ける。
「だから、真崎さんの協力が必要なんです。」
「そうか、そんな事が…。僕で良ければいくらでも協力します。」
「ありがとうございます!」
"Studio Bianca"に協力を依頼した理由については、他にもあるのだが真崎を説得する上で今言う事でも無かった。
「黒沢さん、モデルさんって誰がやるんですか?」
ここで怜子が口を挟む。…昨日に"スケベなニワトリ"とある程度の予測をつけてきたが、辰実の口からも聞きたくて質問をした。
「30代前半は"黒沢愛結"、20代後半は"ダイニングあずさ"の馬場ちゃん。店やってる女の子だよ。」
「綺麗ですもんね、梓さん」
"残りの1人"はもう怜子も予想が付いていたし、真崎にも説明すれば分かるのだが、その"残りの1人"を何とかするために辰実が裏で周到に準備をしてきた過程について、今回は説明していきたい。
*
「どうした、…もう落ち着いたのか?」
『遅くなってすみません、もう大丈夫です。』
「ひとまず落ち着いたようで良かった。"若松物産"との話については次また何時やるか未定だ、いちおう味元さんとは"今週中に"とだけ話はしてある。…とりあえず、どういう案にするかは白紙にして話し合おう。」
『その事ですが黒沢さん、味元さんが言ってました"私をモデルに"という話なんですけど…。"やりたい"と言ったらダメですか?』
「…駄目だ、と言う事は無いが。君が良いのであれば俺は一向に構わない。」
『でしたら、やらせて下さい』
「分かった。味元さんには俺から伝えておくよ。」
『ありがとうございます。』
「あとそうだ、この場で伝えておこう。…昨日、"若松物産"に行く時に話をしたアクセサリーの件だが、うちでは明後日からキックオフする事になった。君に任せたいのはアイデア出しや造形スケッチになるが、"サポート"という扱いでは無くしっかりと意見を出してくれれば取り入れていきたいと思っている。」
『分かりました、よろしくお願いします』
「じゃあ、また明日」
怜子との話が終わり、辰実は通話を切った。前を見てみると、怜子の様子を心配してか熊谷やマイケル、栗栖が電話の様子を見守っていた事に今更気づく。
「大丈夫なんですか、怜子ちゃんは?」
「今のところ問題はなさそうだ。明日は元気な顔で出勤してくるだろう。」
"良かった…"とため息交じりに呟きながら熊谷は眼鏡を指で整えた。マイケルと栗栖は何事も無かったかのようにデスクに向かいPCとラウンド2を始めている。…が、辰実は手を2回叩き"集合"の合図をして3人を集めた。
「さっきあの子にも話はしたが、明後日から始まる"わわわ"と"Lucifer"との話し合いの件だ。」
「いよいよですね」
「相手が"わわわ"だと大変な話し合いになりそうですが…」
「ボクは楽しみデース」
「栗栖の言うように、担当する所によっては"大変な"話し合いになる事は間違いない。」
辰実は先程、冷蔵庫から取り出した缶のコーラのプルタブを起こし一口。2日後に控えたキックオフミーティングにて、話す予定の"デザイン担当分け"について説明を始める。
「いちおう、俺が勝手に決めたんだが"担当分け"を発表しておこう。ターゲット層別のモデルは3つ、君達3人には1人ずつ、各層のデザイン担当として入ってもらいたい。…誰がモデルになってるかについては、皆分かってるかな?」
各員が頷いているという事は、"分かっている"という事なのだろう。
「予め俺が担当を決めておいたが、もし"こっちが良い"と思う事があれば言ってくれ。…まず、"30代前半"はマイケル。"20代後半"は栗栖、"20代前半"はトビに手伝ってもらう。皆、それでいいか?」
"構いません"、"イイデスヨー"と各々の回答が出た。
「すまないがトビ、"20代前半"は火の海になる。」
「…モデルが"月島亜美菜"だからですか?」
「そうだな。"わわわ"のじゃじゃ馬には、あっち側も相当手を焼いているようだし何をやって来るか分からん。現状を考えるなら、"発想力のある"トビが適任と思うが、一つ頼む。」
「頑張るしか無いですね。」
「話が分かるようで助かる。…俺もできる限り、じゃじゃ馬対策をするつもりだから"ひとまず頑張ってくれ"。」
「対策って、何を?」
「"わわわ"には"草の者"と呼ばれる、他社から来た人のコミュニティがあってな。その辺りにお知恵を拝借してくるよ。」
「"草の者"ってまた、御大層な…」
「そうかな?…"わわわ"も1枚岩じゃないって事だろう。現に他社から流れてきた人に対しての扱いが良くない節があるから、そういった人達で固まるという状況が出来上がっていると言える。そういう人は俺達みたいな小さい集団を蔑ろにする"組織"に紛れてはいるが、協力的ではあると思うぞ?」
「あくまで"わわわ"が敵対するという視点で話をされるのは、怜子ちゃんの事を考えてですか?」
"わわわ"には忍者がいるデスか?とか目をキラキラさせて言っているマイケルを横に流して、辰実は熊谷に投げかけられた質問に誠実に答える。
「彼女が往く道が"真実"へと向かうなら、確実にそうなる。」
「真実、ですか。あの子が嵌められたっていう…」
「まあそうなる。現に"若松物産"の提案に対しては"やりたい"と言ったんだ。"Lucifer"の件が、元々あの子をモデルに考えていたと分かれば何かしらの反応はするだろう。」
(ちょっと待って、もしかして黒沢さん、怜子ちゃんと月島の対決構図を考えてる?)
熊谷のイメージ、付け加えれば栗栖もマイケルもそうなのだが、怜子に対して"仕事を頑張っている"イメージはあるものの、野蛮とか、ガツガツした、貪欲に仕事を求めるようなイメージは無い(小さなデザイン事務所ではあるが、仕事はぼちぼち転がり込んでくるので、"アヌビスアーツ"については全く問題ない点でもある)。
失ったモノを求めるという気持ちになりそうなのは分からなくは無いのだが、その時の感情が怜子の可愛らしいイメージとは異なった野蛮で、泥臭い何かに思えたのは熊谷の"勘"であった。
華やかな女の対決に見えて、蓋を開ければその泥臭い感情がぶつかり合う戦い。熊谷個人の感情としては、あまり見たいモノでは無かった。どうしても、怜子のイメージを損ねてしまう。
「黒沢さんの話の感じだと、"攻撃的な"と言うか…、そんなイメージは僕もあの子に持っている訳では無いんですが。」
「…そうだな。しかしながら、人間の欲求の裏側にはどうしても野蛮で泥臭い一面も存在している。」
「どうしても、怜子ちゃんのイメージとそれが合わなくて」
「それは彼女を"アイドル"として見ているからだよ。偶像では無い、1人の女性として彼女を見てみるといい、"グラビアアイドル"と思っても存外に人間臭くて、面白いぞ?」
グラビアアイドルが妻にいる、辰実ならではの意見だろう。…それに実際、"黒沢愛結"と言う人物は元々が編集員だったのを、"編集員として置いておくのはもったいない美貌とプロポーション"という理由で"わわわ"が祭り上げた所、とんでもない人気を誇ってしまったらしい。
そう考えると、辰実の話にも納得がいった。
(怜子ちゃんが元の鞘に収まりたいと思うのは自然に起こる可能性があるとして、僕たちのやる事は、それに向けて"アイデアを出す"事だというのか…)
「何となく、黒沢さんの考えてる事は分かりました。」
「助かる。…ともかく、今のところ彼女が"復活する"までもデザインの仕事はやらなければならない。月島は色々と面倒な事を言ってくるという話だから、黙らせるぐらいにセンスの切れ味あるアイデアを出さなければ。…そう考えると俺と同じ、"デザインを学んできた"トビしか思いつかなくてな。」
辰実も実は大学ではデザイン専攻だったのだが、熊谷もそうである。…何なら、大学卒業後もデザイン関係の仕事をやっていた熊谷の方に、ある意味そういった分野は分があるのだ。
「今回の件は3人が3人、それぞれ"適任だと"思い選ばせてもらった。ここは1つ、トビの発想力で"ジャイアントキリング"と言うのを見せてもらいたい。事と次第によっては元グラビアとモデルの対決より見物だな。」
「黒沢さんが、そこまで言うなら」
ここぞとばかりに、辰実は熊谷を煽る。上手く焚きつけられた熊谷も、その先の"成功"を貪欲に眺めながら返答をしたのであった。
*
熊谷との話が終わり、辰実はその日の仕事を終えた。この後はマリトッツォを持って梓の店へと行き、また真剣な話をするのだが、話はその辺りに飛躍する。
「ちなみに、今日は飲んで帰るぞ」
開店数分前である。マリトッツォを持ってきた様子から"話だけして今日は帰るのだろう"と思っていた梓であるが、続けて辰実が客として来ていた事に梓は驚く。
「開店前に来ておいて何もないのは失礼だと思ってな。…あと、開店の時間に合わせて今日は饗庭も来る。」
「えー、饗庭さんですか?」
辰実が"客として来た"事に対しては喜んだ顔をしていた梓だが、"饗庭"と聞いて眉をしかめた。
「馬場ちゃんは嫌いか、饗庭が」
「黒沢さんのオトモダチなのは分かるんですけど、あの人どこかで私の揚げ足を伺ってると言うか、ペースが狂うんですよ。ちょっと意地が悪いですし。…それに結婚しただなんて羨ましい、奥さんの顔が見てみたいですよ、本当に菩薩のような方でしょうねー」
「ストップだ馬場ちゃん、際限なく出るぞ」
不機嫌そうな顔になって徐々に早口になってまくしたて始めようとした梓を辰実は落ち着いた低い声で制止する。間を置いて自分が饗庭に対して毒づいているやら僻みやら、よく分からない事をまくし立てていた梓は恥ずかしそうな様子で辰実を見ている。
「深呼吸だ」
「すぅぅぅぅぅ~、はぁぁ~~~」
「笑顔」
指示に忠実に、梓はニコリと辰実に表情を向けた。商店街の"大和撫子"と呼ばれるぐらいに美しい、墨を塗ったような黒く長い髪と、つぶらながらも切れ長の両目にセピア色の照明が当たる。
「よし可愛い」
コントが終わったところで、開店時間になる。もう出されていた暖簾と、引き戸のすりガラスから見える、電気のついた様子さえ見れば、もう"店をやってるな"と思って人は来るだろう。
その証拠に、ガラガラと引き戸を開けてスーツ姿の男が入ってくる。
「やってるか?」
聞きながら普通に入ってきた大柄の男。ネクタイを外したワインレッドのカッターシャツに上下セットで同じブルーグレーのジャケット、金髪の刈り上げオールバックなんて厳つい見た目をしていれば、普通の人は恐れおののく。
饗庭康隆(あいばやすたか)、辰実の友人で現在は"わわわ"のライターをしながらモデルやグラビアの人材スカウトも行っている。体躯が良いのは、元重量級のボクサーであった事も現在もトレーニングを怠っていない事にもあるに違いない。
「いらっしゃいませ」
「どうした今日は愛想が好いじゃねえか?」
「饗庭さんのためじゃ無いですから」
さっき辰実に"笑顔"と言われてそれが張り付いただけであった。饗庭の事が嫌いな訳では無いが、ただ"波長が合わない"と思っているだけで会話はできる。…ただ、饗庭はその辺りを悪戯にくすぐってくるのだ。
しかしながら、"客として"見れば饗庭ほどに"上客"と言える男はいない。
(黒沢さんみたいに、人としてもお客さんとしてもいい人なら100点なんだけど…)
そんなツッコミに対して、笑みを浮かべながら梓は饗庭がメニューを眺めている様子を観察する。今日も肉料理のオンパレードだろう。
「牛スジの煮込み、牛赤身ステーキ、チキン南蛮、豚バラと大根の煮込み、鶏モモの黒酢あんかけ、鶏むねの塩こうじ焼き、"豆腐のサラダ"。…あと、唐揚げの"山盛り"だ。酒はハイボール。黒沢、どうせお前はコークハイだろ?」
「そうだな。…とりあえず馬場ちゃん、それで頼む。」
「かしこまりました。」
マシンガンのように出される注文も、全て書き留めた梓は準備を始める。煮込みのタレを準備し、フライパンに油をひいて火をかける。その隙にジョッキに角切りの氷を詰め込んでウイスキーを注ぐと、片方に炭酸水を、もう片方にコーラを、ドリンクサーバーで注いだ。
「お酒でーす。あとお通し。」
"お通し"と言われて出されたのは、小籠包が2つずつ。水分を十分に吸い、中から肉汁をため込んだあんが透けて見える。"これは絶対に美味しい奴だ"と、辰実の直感に電流を走らせる前に…。
「乾杯」
ジョッキをお互いに軽くぶつけ合い一口。コーラで割ったウイスキーが美味い。早速箸で水分と旨味たっぷりの予感がする小籠包をつまんで一口に放り込んだ。モチモチの薄皮を噛み締めるたび、予想通りに溢れる肉汁。この味が病みつきになって、1口1口、強く噛み続けてしまう。
ようやく飲み込んだ頃に、出てきたのはサラダであった。サニーレタスと千切りキャベツ、角切りの豆腐にトマトが添えられている。
「珍しいな、肉ばかり頼むのに」
「この前飲みに行ったらうちの嫁がなあ、"肉ばっか食べてねえで野菜も食え"なんて言うんだよ」
「何だ、そんな簡単に人の話を聞くんだな」
妻の尻に敷かれると言うのは、辰実にはよく分かる。梓は今までギラギラしていたくせに、結婚して急にしおらしくなった饗庭の様子に笑いをこらえていたが、出来事と共に変わってしまった友人を労うように辰実は自分の食べる分だけをサラダに取り分け、"どうせ多めに食べるんだろう"と饗庭に大皿ごと手渡した。
「おう、すまねえ」
「尻に敷かれるのは良い事だ。今笑いを堪えていた馬場ちゃんにも分かる時が来る。」
「いいや、女の子には分かんねえな」
「馬場ちゃんは、昔ながらの"男を立てようとする"良き妻になってしまいそうだな…」
そんな冗談を言っている間に、牛スジの煮込みと鶏モモの黒酢あんかけがカウンターに置かれる。甲斐甲斐しい女房のように、辰実は置かれたその2つを自分達の手の届く場所に置いた。
「"篠部怜子"の事について聞きたいとか言ってたな?」
「そうだ。…"わわわ"にいるならどうして"嵌められた"かぐらい分かってるだろう?特に"草の者"で情報を共有していたりするのであれば。」
「"どこから話せばいいか?"と聞かれれば説明は難しいんだよな。どうせ"結論だけ"を欲しがるお前だから話はしやすいんだが、実際のところあの子が"後輩に対して暴言を吐いた"なんて事実は一切ねえ。」
「そうだな。実際に彼女の後輩3人が辞めていった理由は"ストーカー"に対する精神的苦痛だと聞いているんだが。」
「あの"迷惑な動画配信者"については、お前の嫁さんも被害に遭ってたな。」
「ああそうだ。だが、"わわわ"には一切口外するなと言われた話だったから俺も実際の所知らなかった。」
そんな辰実が何故"知っている"のかと言われれば、過去にこの"迷惑な配信者"が巻き起こした事件に関わった事がある。
「"わわわ"の古浦という男について、知ってる事は?」
「篠部のマネージャーをやってた男だよ。…今は、モデルやグラビアの売り出しの所でプロデューサーの小間使いみたいな事をやってるよ。」
「あの子がうちに面接に来た日、"事務所"ごと彼女が入っていく所を撮影していたぞ。その例の"ストーカー"に、"篠部怜子を採用するな"なんて脅迫状を送り付けられたのはそのすぐだ。…この2者に何か関わりは?」
「これは早瀬さんから聞いたんだが、アイツらは元々動画配信を"一緒にする予定だった"らしい。」
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