6話「桜の咲く日」ー前編
(前回のあらすじ)
6月に旬の魚介類が多くなるため、それに合わせてセールを開催する"若松物産"。前身からの付き合いもあり、その宣伝ポスターや動画の作成を請け負っていたのは"アヌビスアーツ"であり、辰実は研修中の怜子を連れ、担当の味元との話し合いに向かった。
怜子は以前に面接を受け、不採用となった会社であったが"その背景"に疑問を抱いていた辰実は採用担当の藤本と接触し、怜子の不採用が外部からの"脅し"によるものであったと知る。一方で怜子も、自分が契約解除をされた背景に、愛結の人気を不動のものにしようとし続ける"取り巻き"の存在がある事を古浦から示唆された。
*
(あの古浦っていう男は、"警告"と言ってたな…。)
思い当たる節と言えば、1つだけあった。怜子が面接を受けた後に"窓を割られた瞬間"に遺されていた手紙の事である。…先日に藤本から聞いた"脅迫状"と同じ状況であるとみて間違いない。
"篠部怜子を採用するな"
これが、警告の内容と考えて良いだろう。更に辰実は、先日に藤本が"襲われた"事についても気にかけてはいたが、彼が襲われた場所と、"若い女性に"介抱された事ぐらいしか分かっていなかった。場所が"ダイニングあずさ"と呼ばれる居酒屋の前であった事も分かっているのであれば、その線から当日の状況を当たっていけばいい。
(遠からず俺も、同じ目に遭う可能性がある)
警戒せねば、と気を張る辰実。事務所のミーティングテーブルで腕を組みながら、いつも以上に気難しい表情をしていた彼は怜子の呼びかけでやっと我に返った。
「…黒沢さん?」
「ん?ああ。サンプルの確認だったな。」
熊谷に頼んでいた"ひらがなTシャツ"のサンプルが、完成してテーブルの上に置かれている。"おみかん"のやや控えめな文字の大きさも、"あめ"の主張した文字の大きさも"ビジュアル"という面では十分評価できるものだった。
いくら案が良くても、"見た目"が悪ければデザインとして、作品としての価値は損なわれる。まだ若い男ではあるが、デザイン系の大学を卒業した熊谷であればその辺りを理解してデザインをしてくれたのだろう。
「文字の大きさは、これでいい。」
基本的に、辰実と怜子(あと事務員の伊達さん)以外の3人組は"役割"というのができている。基本的にデザイン案は熊谷、プレゼンについては栗栖、更に仕事先への提案についてはマイケルといった具合にできていると、辰実的には判断していた。
「問題は、着た時の感じだな。とりあえず今回は女の子向けに作ったんだから、実際に女の子が着てる感じを出したいな。」
「そうっすね、女の子女の子…」
"あ"と、不意打ちを食らったかのように怜子に視線を向けた辰実と熊谷。"やっぱり"と思う事があったのか、怜子は少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。
「"女子"のボーダーって、22歳までだそうですよ?」
「君が"女子"かそうで無いかは、俺達が決める事だ。」
「そうですか…?お気持ちは嬉しいんですけど、もうちょっと女子高生とかフレッシュな感じの女の子がいいと思います。」
「少なくとも、ここにいる6人の中で君が一番フレッシュだ。」
「私、そんなにフレッシュですか?」
押しとか、持ち上げに弱かった怜子である。
「女の子って言っても、こういうシャツは今時の女子高生とか絶対に着なさそうなイメージなんだよなー。特に頭のネジから何からゆるそうな重低音流して腰振ってりゃ注目されるなんて手抜き建築のような発想してそうな子なんて着なさそうじゃない?言ってしまえば不良の女みたいな?」
偏見だなーと思いつつも、怜子は辰実の意見も何となく分かる気がしてはいた。
「そういう子は置いといて、女子高生な黒沢さんの妹さんは着てたんですよね、"ささみ"を?」
「うちの妹にヤンキーは居ないし、クラブミュージックが好きな妹もK-POPが好きな妹もいない。」
「偏見が加速してますよ…」
「でもまあ、黒沢さんの言う事も僕は一理ある気がするんだよね。こういうの着る人って、大体"文化系"というか"サブカル系"というか、黒沢さんの言ってる女の子とは違うタイプな感じだし。…モデルになるとしたら、もっと普通の感じで可愛らしい女の子なんだよね。」
…とまで言い、辰実と熊谷は再度、怜子の方を見た。
「それは私に、このシャツを着てくれという事ですね?」
「その通りだ、話が早くて助かる。」
デザインTシャツとは言え、着て貰えなければ価値が無い。
「実際に着てるイメージは大事かもしれませんね。」
「彼女ならモデルとしても申し分ない」
「…ですけど黒沢さん、あの子は"元"グラビアなんですよね。撮影モデルというのを安易にやらせてしまっていいんですか?」
「それが問題だが、"Studio Bianca"の件しかり、今のところ必要があれば自分の経験を活かしてくれてはいる。あまり無理強いはしてはいけないが、それが"自分にしかできない表現"だという事を能く理解してはいるようだ。」
"おみかん"のTシャツを片手に、事務室に消えていった怜子の方を眺めながら熊谷は心配していた。…彼女の"契約解除"が理不尽に行われたものである事は、今のところ辰実と怜子、伊達しか知らないが故に熊谷は"何か事情があって怜子はグラビアを辞めた"と思っている節があった。
(前にマネージャーだった男であれば、確実に何かを知っているだろうな…)
今のところ辰実にとって心配なのは、"怜子の契約解除に関する裏事情"が絡んできて"彼女"または"アヌビスアーツ"に対して何らかの害的なアクションが起きる事であった。怜子が抱えている複雑な事情についてはよく理解していたつもりなのだが、ふと"もっと大きな事が動いているのでは?"と思ってしまうのだ。
それぐらいに、辰実は今平和ボケしてしまっているようにも自嘲する。…最も、常に無秩序で不安定な人生が"刺激があっていい事"でも無いのだが。
藤本が襲われた事と、藤本と辰実が"怜子を採用するな"と脅しを受けた事、そして古浦がすれ違いざま辰実に引っ掛けた一言が、全てイコールだと考えたくなる。そう考えると、古浦の"警告"が思ったより意味を成すものに思えた。
「黒沢さん?」
「ああ、すまない」
「大丈夫ですか?さっきから何か考え事をしてそうですが…」
「少し休憩しますかな?」
隠し持ってた刀の、柄と鞘を握りしめるように静かな辰実の様子を気遣う熊谷であったが、その様子を気にしていないように見える気遣いで、伊達が木の盆に缶コーラとアイスコーヒーを置いて現れる。
(確実に相手のアクションはある。…考えるのは、それからでいいか。)
「そうしましょう。」
"ありがとうございます"と言って盆から缶のコーラを手に取った辰実は、そのプルタブを起こしぐいっと飲み込んだ。甘みに炭酸の刺激や苦み、酸味と複雑なバランスで成り立った味が、いつもながら有難い。
「そうだ、弁当頼まないと」
伊達がさりげなく持ってきていた、宅配弁当の店複数のメニュー表を手に取る熊谷。
「黒沢さん、今日は弁当ですか?」
「今日は嫁に"食べに行ってこい"と言われてな。…外に食べに行こうと思ってたところだ。」
「じゃあ一緒に注文しましょうか?今出て行ってる栗栖とマイケルにも"注文してくれ"って言われてますんでまとめて。」
「じゃあいいか?唐揚げ弁当があればそれを頼んでくれ。…それで、おかずとご飯を可能なら大盛りに。」
「分かりました」
"店はどこのにします?"という質問を遅まきながらする熊谷に、辰実は"そいつはトビに任せる"とコーラを飲みながらぶっきらぼうに答えた。
「え、ズルい!私もお弁当注文していいですか?」
"おみかん"と書かれたひらがなTシャツを着て帰ってきた怜子も、熊谷の見ていたメニュー表を後ろに立って覗き込み始める。缶が空になったタイミングで席を立ち、辰実は"ちょっと出てきます"と伊達に伝え外出しようとする。
「あ、ちょっと黒沢さん!せっかく着替えてきたのにどうするんですか!?」
「使う人の気持ちになって生活するのも、仕事の1つだ」
「まあ、そう仰るなら。」
*
若松商店街、関羽通り
飲食店や居酒屋、喫茶店が集中して立ち並ぶ通りの一角に"ダイニングあずさ"は立地している。創業者の馬場忠(ただし)が30年近く前に居酒屋を始め、不況もあったが色々と手をこまねいて現在は商店街でも人気の店となった。
居酒屋が開店するのは夕方か夜かの辺りになるが、店が開いてない時にも食材の発注などやる事はある。…創業者の娘の馬場梓(ばばあずさ)は業務用の大きな冷蔵庫を開けて食材の数を確認している所であった。商店街で生まれ育ち、中学生の時から居酒屋や発注の手伝いをしていた彼女は、店どころか商店街の看板娘と言ってもいい。
そして顔立ちも良く、やや切れ長の目が艶美。今時の甘ったるい可愛さよりも、日本人形のような美しさが"大和撫子"を感じさせた。今日は薄い紫のカッターシャツに黒いスキニータイプのボトムスとシンプルな恰好で、長くなった黒髪は青いリボンで真ん中の位置にまとめている。
発注する食材の数をメモし終え、電話で各仕入れ先に発注する前で電話が鳴った。
「はい、"ダイニングあずさ"です。」
『すいませーん、若松商店街の"アヌビスアーツ"というデザイン事務所です。弁当の注文って今日受け付けてますか?』
「受け付けてますよー」
やや軽い口調で受け答えしながらも、手は別のメモとペンを用意し、注文を聞く準備ができている。
『唐揚げ弁当のおかずとご飯大盛りが3つ、焼き魚弁当が1つ、天丼が2つ。』
はい、はい。と相槌を打ちながら、梓は注文の内容をスラスラとメモしていく。途中で、"黒沢さんも唐揚げ弁当って言ったよな?…まあ、コーラも一緒に飲むだろうしとりあえず唐揚げにしとけば間違いない!"なんて途中で注文の電話をしている若い男の声が電話の向こうで会話をするのが聞こえた。
「繰り返します。唐揚げ弁当の、おかずとご飯大盛りが3つ、焼き魚弁当が1つ、天丼が2つですね?」
復唱しながらも、各弁当の値段を手早く電卓のキーをポチポチ押していき、合計の値段を打ち出した。
『全部で3460円になります。30分くらいでお届けしますね!』
電話を切り、携帯を片手で操作しながら魚の切り身をオーブンに入れ、つまみを回す。流しの蛇口をひねって右手を洗った後にタオルで拭いたら、特製のタレに漬けこんだ鶏肉を箱に入れた片栗粉でまぶし、フライヤーに入れていくと、パチパチと音を立て衣が揚がっていく音がする。
「じゃあ、お願いしますねー。」
発注の電話を終えた頃には、青魚が茶色に焼き上がり、きつね色の衣をまとった唐揚げが油の海からサルベージされ、網の上で余分な油を落としている所であった。
("アヌビスアーツ"…、聞いた事無いわね)
弁当のプラ箱にご飯を詰めたり、おかずの卵焼きや、季節の一品でたけのこの煮物や春菊のおひたしを他の小部屋に詰めていくうちに、柴漬けを添えて思わず舌鼓を打ってしまいそうな弁当が5つもできた。
(でも、"黒沢さん"って言ってた。もしかしたら…)
思いついたように弁当を入れる空のプラ箱を手に取り、食べようと思って余分に作っていたおかずとご飯、いくつかの一品を詰め込んで、"弁当"をもう1つ作り上げた。
6つ目の弁当を作っている時の梓は、いつかに出会った"大好きな人"に会える桜の咲く日みたいな風に笑みを浮かべながら、いつもの作業をしていた事に気づく。"コーラ"と"黒沢さん"。推測が間違ってなければ、梓はそれが自分のよく知っている人だと思ってしまっただけに、冷静になって"子供みたいだ"と恥ずかしくなってしまう。
知らない間に居なくなっていた彼が、また近くにいるかもしれない。…あの不愛想な顔を見るだけなのに心が躍る。
*
明王通り、"Bobby's Sweets"。"おやつジャンケン"で負けた者が渡される"白猫センパイ"の小銭入れを片手に、辰実は入口のドアを開ける。アンティーク調の店内に何故かアサルトライフルが飾られているという店主の趣味全開な内装も見慣れたものになった。
「よう、辰実。相変わらず愛想の悪い面じゃねえか!」
「悪人面に言われたくないさ。いい加減、色眼鏡ぐらい外さないとお客さんから"怖い"ってクレームが来るぞ?」
大体ぶっきらぼうな顔をしている辰実も、冗談に口元が綻ぶ。実は付き合いの長い2人だからこそ通じる冗談でもある。
「しかし、相変わらずセンスの理解できない商品名だな」
「このセンスが理解できねえなら"まだまだ"だぜ、デザイン事務所の社長さんよ?」
「社長ではない、店長だ」
(…しかし、"ハチャメチャパンケーキ"とかいう変な名前の癖に、ハチャメチャに美味しかったりするんだよな)
"ボビーのド根性タルト"
"苦難の道を往くガトーショコラ"
"男は繊細シュークリーム"
おおよそ、スイーツにつける商品名ではないだろうという男臭さを感じるのだが、店主ボビーのスイーツに賭ける情熱は並大抵のものではないと辰実は知っている。
(こ、これは…!)
"突き進むハニーチュロス"
"収まらない気合いのマリトッツォ"
マリトッツォが、ブリオッシュ生地に大量のクリームを挟んだスイーツなのは辰実も数年前に流行った時からよく知っている(正確には県北にある世界の絵画のレプリカを集めた美術館の2階にあるレストランで知った)が、ここまで名前に気合の入ったマリトッツォは初めてである。
「ハニーチュロスとマリトッツォは新作だ、是非食べてくれ!」
「そうしたいんだが、今ガトーショコラと迷ってるんだ」
"成程な"と合点がいった様子で腕を組み、ボビーは少し斜め下に辰実を見る。183cmのボビーと173cmの辰実では、一回り大きさが違った。
「さては、最近入った女の子の事で悩んでるな?」
「お、よく分かったな。」
「お前は分かりやすいんだよ、…どうせこの間俺んトコにきた"スカした野郎"と別の場所で接触したとかだろう?それでようやく、あの子がグラビア弾かれた事が"キナ臭い"って感づいたとこか?」
「元から"何かある"とは思ってたんだが、思った以上に臭う事が分かったんだよ。」
うむ、うむと辰実の話に相槌を打ちながら、ボビーは色眼鏡の縁を指で整える。
「…だけど、お前の中では答えが決まってるんだろう?」
"そうだな"と言いながら辰実が指さしていたのは、"苦難の道を往くガトーショコラ"であった。その指先の脱力と角度が、飄々としたように見えて芯の通った彼の気持ちを表現している。
「ガトーショコラを6つ。1つは会計を別にしてくれ。」
「はいよ」
"白猫センパイ"の小銭入れと自分の財布を出し、手際よくガトーショコラを箱詰めしていくボビーを迎える。たまたま丁度お釣り無しで代金を払う事ができた。
「そうだ、お前をダチだと思ってる俺から、ちょっとした戯言をくれてやる。」
「何だよ素直にアドバイスって言ってくれ」
「聞くも聞かぬもお前次第だぜ?…いいか、これからお前が直面するかもしれない事態を乗り切るには"協力者"が必要だ。真崎さんみたいに、あの子に惹かれて"アヌビスアーツ"に好意を示してくれる人もこれから増えてくるだろう。だがお前も、お前自身に協力してくれる奴を探せ。…必要ならば俺も手を貸してやる、もしかしたら"商店街全体の問題"になる可能性だってあるしな。」
「…ああ、そうするよ」
ひらひらと右手で礼を言いながら、辰実は静かに店を後にした。
*
「ほうほう、本日はガトーショコラですか」
昨日の"おやつジャンケン"に負けたにも関わらず、急に客から呼び出されたために本日行く事にした辰実が買ってきたのがガトーショコラだと言うのは、先のボビーとのやり取りで承知の事だろう。
「伊達さんは、普賢通りのたい焼きが良かったですか?」
「いえいえ。あのたい焼きは好きですが、スイーツも好きであります。」
「ただ黒沢さん、貴方とガトーショコラはよく似ておられる。」
「"苦難の道を往く"と書かれてましたので」
"伊達さんが言うのならそうなんでしょう"と辰実は笑った。
「トビ、実際に着てる所の写真は撮ってくれたか?」
「はい、もう既に」
熊谷に渡された一眼レフのカメラの、保存している写真を1枚1枚流し見していく辰実。商店街の一角で怜子が"おみかん"の平仮名Tシャツを着て、雑貨屋の前で立っている姿や店頭の雑貨を眺めている姿が映っていた。
「とりあえず、発表に向けてプレゼンボードを作ってくれ。…提出まであと2週間あるから、栗栖やマイケルとも手分けして。ひとまず3日後、昼前に締切でいこう。」
「分かりました。」
「そして弁当が来たら休憩にしよう」
代金を渡しておつりを貰い、"そろそろ来ると思います"と熊谷に言われるがままに、弁当の出現を待つ辰実であったが、10分くらいに感じる2分くらいの時間で、すぐに弁当はやって来た。
「こんにちはー、"ダイニングあずさ"です。」
(この声は)
弁当の袋をガサガサ言わせながらやって来た女性の声。辰実にとっては、聞き覚えのある声だった。熊谷や怜子が、代金を渡しに弁当を取りに入口の応接スペースに向かったのを見て、事務所の入り口から辰実はひょっこり顔を出す。
墨を塗ったような長い黒髪。彼女を最後を見た時には短かった髪が、元に戻っている。その時の悲しそうな様子も一緒に元に戻っているから、少しだけ安心してしまった。
「恥ずかしがらずに出てきて下さいよ、黒沢さん?」
「ああ、そうだな」
ほんの少しだけ申し訳なさそうに、辰実は梓の前に現れる。
「お元気そうで何よりです」
「…そうだな、元気ではある」
(馬場ちゃんの作った唐揚げは、久しぶりだな…)
いつぞや、"ダイニングあずさ"に妻と行った時には毎回のように食べていた唐揚げ。大粒なのに脂っこくなく中までしっかり火が通っており、口にした瞬間に感想すら言わせない美味しさがあるのだ。
「奥さんとは、今も仲良くされてますか?」
「ごくごく普通の夫婦関係だよ」
代金を払う熊谷と一緒に、弁当の仕分けをしていた辰実は、熊谷が"これは注文してないですね"と言う6つ目の弁当を発見する。弁当、と言われればちゃんと作られた感じはなく、少しだけ余り物を集めて食べる分にしたと言うのが正しい。
無論、それに気づいたのは辰実だけであった。
「馬場ちゃん、ここで食べて行ったらどうだ?君がこれ、食べようと思って作ったんだろう?」
「公園で海でも観ながら食べようと思ったんですよ」
「ボビーの所で余分にスイーツを買ったから、それも食べて行ったらいい(本当は俺がこっそりもう1つ食べたかったんだが、馬場ちゃんならいいや)。」
「ボビーさんのスイーツ…!何ですか?」
「ガトーショコラ」
「何か、黒沢さんらしいですね。一見苦いように見えて、本当は繊細だったり深みがあったり…」
「冗談を。俺なんかその食品サンプルみたいなモンだよ」
辰実は、梓を事務所に招き入れた。怜子と熊谷、伊達、梓がミーティングテーブルに集まり、弁当を置き食事の用意をする。伊達が冷蔵庫から麦茶のピッチャーを取り出し、グラスに注いでいく。
「いただきます」
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