第22話




 たどたどしい説明を聞いたマリアさんは、すぐに修司さんに連絡してくれた。だが——


「……おかしいわね。つながらないわ」


 修司さんが電話に出ない。嫌な予感がした。


「探しに行きましょう!」

「ダメよ。先輩なら大丈夫。心配しないで」


 そう言うマリアさんも、不安を隠し切れていなかった。


「でも、兄さんが狙われて……っ」

「そうだとしても、子どものあなた達を危険にさらすわけにはいかないの」


 必死に食い下がる悠斗に、マリアさんは少し強い口調で言った。

 悠斗はうつむいて拳を握りしめた。


 あたしは少し後悔した。悠斗に「狙われているのは修司さんじゃないか」なんて言うんじゃなかった。


「悠斗……」


 声をかけて肩を叩こうとした。

 その瞬間、きっと顔を上げた悠斗の姿が、消えた。


「悠斗?」


 肩を叩こうとした手が空を切った。


「……あの馬鹿っ!」


 涼が窓に駆け寄って外をのぞいた。あたしも涼を追いかけて外を見る。


 家の前の道路に、悠斗の姿が現れた。そして、すぐにまた消える。


 瞬間移動だ。


「悠斗っ!」

「ちっ……連れ戻すぞ!」


 涼は階段を駆け下りていって家を飛び出した。あたしも迷わず追いかける。


「時音?どこへ行くの!」

「待ちなさいっ!」


 おかあさんとマリアさんの声が追いかけてきたけれど、あたしはそれを無視した。

 外に出ると、激しい雨が顔を叩いた。


「悠斗!どこ!?」

「時音、悪霊を探せ!」

「え?」

「そこに悠斗の兄貴もいるはずだ!悠斗もそこに現れるだろ!」


 確かにそうだ。


「でも、どうやって……」

「お前は霊能系だ!やればできる!悪霊の気配を感じ取れ!」


 涼に言われて、あたしは走りながらあたりを見回した。

 どこかに、あの悪霊がいる。

 突き落とされた時の感覚、追いかけられた時の恐怖、部屋に侵入してきた気配。

 これまでに感じた悪霊の気配を思い出す。


 背中がぞくりと震えた。


「……ダメだよ、涼。わかんない……あたし、落ちこぼれだもん」


 情けない泣き言が口から漏れた。

 涼は足を止めて振り向いた。


「時音。お前になら、絶対にわかる。お前はただ、怖いから見ないふりをしているだけだ。見ようとすれば、ちゃんと見える」


 涼はあたしの手をぎゅっと握った。雨で冷えきった手だけれど、心がほっとあたたかくなる。


「俺が一緒にいる。だから、怖くないぞ」


 いつもあたしを守ってくれる涼にそう言われて、あたしはその手を握り返して目を閉じた。


(集中しろ……)


 あの悪霊の気配を探す。

 すると、ゆらゆらと、炎のように立ちのぼる嫌な気配をみつけた。


「……あっちよ!」


 あたしは目を開けて、川の方角を指さした。




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