第19話 才女リンエイン

 東龍が武の傍でため息を混じりに「ああなると、小一時間はかかるんだ」と言います。私は気が気ではありません。武は強引に落ち着こうとして玄関から少し離れた縁側に座りました。鬼姫は明らかにリンエインを観察しています。


 ボロ屋はある意味。私には機能的のようにも見えてきました。一階建てで質素な台所と客間、こじんまりしたお座敷も一際広大な書斎も。殊の外シンプルでした。箪笥やちゃぶ台。生活に必要不可欠なものしかない。そんな感じです。


 夜は灯りは外から漏れ出てきているので、足元が覚束なくなることもないでしょうし、何よりそんなに暗くならないはずです。薄暗いだけの人が住むには申し分ない造りだと思います。


「へえー、そりゃあ当然ね。これなら龍も楽に斬れるわー」

「ふむふむ。えーっと、この刀はいつ頃に造られたのかしら?」

「やっぱ、私は天才だね! おおよそ……かな? うーん……違うわ。もっと昔かしら?」

「どんな鉄を鍛えれば、こんな刀が……。あ、そうか? 確か違う星へ家族で旅行へ行った時に興味が湧いた鉄や土があったっけ? そうだわ。その鉄とか……じゃない?」


 かれこれ一時間後、独り言から戻ったリンエインから、やっと刀が返ってきました。

 私は気が遠くなりましたが……。

 

「あれだけ斬って刃こぼれもしない……しかも……」

「はあ……」

「さあ、行って! 必ずどんな龍でも斬れるわよ! さっさと片付けて来なさいな!」

 リンエインは美しく天才ですが、妙に独り言が多い女性のようですね。


 さあ、戦いの時です。


「私は戦略会議に今すぐ向かわないといけない! あなたたちは東へ向かって! きっと、そこから主力が攻めてくるはずよ! 四海竜王は東西南北の海へ行って!!」


 リンエインは竜宮城へ駆け出しました。

 竜宮城が無事なのを祈ります。


 城下町の民は大混乱です。武と鬼姫は人々の身体を掻き分けながらここ城下町の東へと、走りに走りました。

 途中で倒れた魚人がいたので、鬼姫が起こしました。

「ありがとう……必ず倒してくれよ……俺たちを救ってくれ」

 魚人の人は怯えながら震える声で言うのです。

「はい!」

「はい!」

 武と鬼姫は同時に発音していました。

 長年の修行がそうさせるのでしょうね。

 それにしても、ここまで非常に息が合うとは。


 武と鬼姫が城下町から大海まである広い砂浜に辿り着きました。ここから見ても轟々と音のする激しい荒波から数多の龍の首や腹が見えます。針のように細長い龍が三体も。水淼の大龍が二体もいる。どうやら、リンエインの言った通りに、これが主力部隊なのでしょう。


 さあ、武と鬼姫はどうやってこの戦局を乗り越えるのでしょう。


 武は早速、砂浜に両の足で踏ん張ってから、そのままくるりと背を向けると、龍尾返しを一振りしようとしましたが。


「武様! お待ち下さい! ここは後々のため。幻の剣で斬って差し上げます!」


 鬼姫が、武の肩にその小さな手を置きました。それから一呼吸して神鉄の刀を抜き。


「ハーッ! 水波!!」

 鬼姫が砂浜からドンッと踏み込みました。刀を上段から振り下ろすと。瞬間、なんと目の前の大海に巨大な水柱が発生しました。水柱は超高速で遥か水平線まで、無数の龍の血潮や水しぶきをまき散らしながら、まるで水面に小石を投げるかのように海を飛んでは着地したりとを繰り返しながら飛んでいきました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水淼の神々 主道 学 @etoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ