第13話 

 薄屋で楽しんだ武は竜宮城内にある客間「秋の間」でひと眠りしていました。客間は春夏秋冬とあります。八畳の部屋に水色の布団が中央。その周りには部屋の飾りは全て青色の珊瑚でできています。数枚の嵌めこみ窓には金魚が部屋を一周するかのように回遊しています。

 部屋全体は透明な水泡が床から天井まで昇っております。

 おや? 武は珍しくいびきを掻いていました。

 無理もありません。やはり、ここから見てもかなり疲れていますね。


 ふと、後ろを見ると、私の影武者の乙姫がこちらを見ていました。


「姫様。竜王は竜宮城へと近づいているのでしょうか」

 影武者の洞察力は私とさほど変わりません。

「ええ。そのようですね。時に、ここ竜宮城は地球にはいくらか近づけましたか? 敵は北へと行けば行くほど大龍がこちらへと来ているので。恐らくは水晶宮がここへと接近してきている証拠なのでしょう。おや? さっそく来ましたね。しばらく海の四方へ斥候をだしたままにしていてください。では、私は行きますので。よしなに」

「御意。本星が地球に近づくには、さほど時間はかかりませんでしょう」

 私は影武者が武を起こすのを見守る時間も惜しんで、竜宮城から大陸から遠くへとでました。竜宮城の海域は広く。おおよそ一万平方メートルはあります。気づけば敵はかなり近くにいますね。

 それも大勢です。


 一方。


 四海竜王は全て竜宮城の竜王の間へと急いでいることでしょう。そこで、魚人の長老たちから戦略、戦術を授かります。おや? 武がいません。武はすでに一人でここから竜宮城の海域の西側へと向かっているようですね。

 すぐに私は武を追いかけます。

 しばらくすると西側の海域につきました。

 私の目で見えてきました。辺りは腐り落ちそうなほどのおびただしい血の臭いとともに、二軍。三軍が全滅していました。

 武は大丈夫でしょうか?

 私がひどく心配していると、突然。

 ドンっという凄まじい轟音とともに、海面に大きな穴が空きました。全軍の死骸が両端へと吹っ飛び。天へと魚たちが登りました。

 龍尾返しです。

 どうやら武は無事のようですね。

 四海竜王もこの戦場へと来ました。


 ですが、皆、水淼の血龍には歯が立たないでしょう。

 何故なら、その長き龍には刃や刺突物以外は、体重というものがないからです。

 

 一方。


 またしても大龍に惨敗した武は、四海竜王たちが水淼の血龍と戦っている最中に、命からがら逃げて来ました。傷ついた身体でタケルになり地球の海に発生した渦潮の中から飛翔すると、存在しないはずの神社まで大急ぎで走っています。もう気を失わないようになったのですね。強くなったのか、この場合は竜宮城が地球へ近づいたかのどちらでしょう。


 鬼姫から新しい幻の剣を習得するために、武は広すぎる神社の廊下で鬼姫を探し続けていました。しばらくすると、やっと、武の負った傷に心配していた複数の巫女に居場所を聞けました。武は鬼姫は麻生さんと厨房にいると聞いて、廊下から大きな台所を見つけだし中へと入りました。今は昼時です。至る所から美味しそうな湯気の立つ台所は、彩りのある和食を作るための包丁やらまな板やら、釜土に水桶などが所狭しとありました。奥の厨房から鬼姫と麻生の声が聞こえた来ます。それを聞いた武は厨房へと急ぎました。そこで麻生から鬼姫が料理を教わっている最中に出くわしました。


「はっ、武様! 大丈夫ですか?!」

「武! ……大丈夫……?」


 麻生と鬼姫が武の方を同時に向きましたが、二人とも首だけです。武の怪我を心配していますが、料理は進行中ですね。

 麻生が包丁を握り、なんと、鬼姫が抑えた魚の頭を天辺から包丁一本で綺麗に真っ二つにするという大技を披露していました。


 武はピンと来たようです。


「鬼姫さん。それ幻の剣にもありますか?」

「へ? ええ。ありますよ。幻の剣 二の太刀。蕪割りといいます。龍を頭から尾まで二つに割る幻の技です。龍にも魚と同じくメがあるんです」

 鬼姫の声を聞くやいなや、武は「ありがとう! 鬼姫さん!」とお礼を叫び元来た廊下を駆けだしました。


「武! 頑張ってね! 応援してるから! いつまでも!」


 武を麻生の弾む声が追いかけました。

 そうです。武はもう鬼姫から幻の剣を教えてもらったのですね。

 武は無数の身体の傷も気にせずに。廊下から砂浜から海まで走り抜け、渦潮に急いでタケルになり飛び込みました。

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