第2話

 微睡みから……。

 目を開けると……。

 柔らかい光が……。

 

 そして、優しい声が、伝わってくる……。

 

 きっと、麻生だ。

 今頃は、俺の家で階下へ行って父さんと母さんに挨拶している。


 いつもの食卓には、麻生の料理が半分載って、お替りをあまりしない俺に、少しは食べなさいと言って……。


「武……」

 ほら、きっと、階下から麻生が呼んでいるんだ。


「武さん……」

 ほら、きっと……?


「起きろ!」


「わ!」

 俺は飛び起きた。


 俺は温水と冷水の入り混じった川の流れの中にいた。いや、正確には川に浮きでた岩の上にいた。岩の上は所々、苔が生え微量な熱を帯びている。隣には東龍が俺の顔を覗いていた。


 天井を見上げると、くっきりと丸い穴の開いたガラス窓があり、遥か空が見える。そこにバルコニーのようなところがあって、美しく、しかも可愛らしい女性が立っていた。

 彼女は、こちらを見下ろしては、こちらへ焦りながら手招きをしていた。


「姫?!」

 東龍の声に、俺はあの女性が乙姫だったと思い出した。

 確か竜宮城の奥の間で、東龍と戦って、それから……?

 それから……。

 何だったっけ……?


「武よ! 起きろ! 先に行っているぜ!」

 隣の東龍が叫んでいる。

 俺には何が何だかわからなかった。


 東龍は先に川の中へと飛び込み。その勢いで水を掻き分けながら流れに逆って、泳いで行った。珊瑚の壁面にぶら下がる縄梯子へと泳いでいるようだ。


 俺は上半身を起き上がらせた。身体はどこも痛くなく。いつもの状態だ。 

 東龍は縄梯子を登りながら、こちらに振り向くと、

「武! これから奴と戦うんだ!」

「え?! なんだって?! 誰とだ?! 地球での決着はまだついていないわけか?! ……ここはどこだ! 湯築! 高取! 鬼姫さん! 光姫さん!」

 俺は辺りを見回しても、蓮姫さんも地姫さんも誰もいない。

 

「東龍よ! 早く! 水淼の大龍が(すいびょうのおおりゅう)が! 来る!」

 乙姫の傍に、北龍が駆け寄って来た。

 均整のとれた北龍の顔がここから見えたが、その身体はボロボロで、満身創痍だった。


「武! 俺と一緒に来てくれ! 何故、この星の水が無くなったのか! その理由! 何故、地球へと侵略しないといけなかったのか! その理由! それを自分の目で確かめてくれ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る