第11話 プロジェクト終了
旅行の後、9月に入ってすぐに新しいテントを使いたいからと久々のキャンプを楽しみ、ようやく二人の生活に日常が戻る。
プロポーズをきっかけに大きく変わったのは言葉遣いで、互いの名を呼び捨てで呼び合おうと話し合い、立夏もプライベートでは敬語はなくして話すようになった。
他に変わったことと言えば、もう生涯を歩むパートナーになったのだからと維花は立夏に通帳を預け、お小遣い制になったことだろう。思い切りが良すぎると思いながらも、それだけ信頼されているのは嬉しく恐る恐る立夏がその管理をしている。
プライベートの充実度は増した半面、仕事の方は完全に落ち着いた状態で、前々から噂のあった今後の体制についての打ち合わせがその日は入っていた。
打ち合わせ場所に指定された会議室に向かいながらも立夏の心は曇った状態だった。維花と一緒に暮らせているのだから、それだけでも十分幸せなことだが、それでも仕事でも維花の傍にいたいという思いはやはりあるのだ。
会議室にメンバーが揃ったタイミングで、今後の体勢について維花が公表する。立夏の予想通り、現在の体制は9月末を以て解散となり、保守対応チームだけが数名残ることになる。
その保守対応チームの中に立夏も当然入っていると思っていたが、立夏の名はその体制図にはなかった。
簡単な説明だけで解散した後、いてもたってもいられず直接話を聞きたいと作業場所に戻る維花を呼び止めると、手近な小会議室に入るよう指示される。
「叶野さん、私は保守チームとして残らないでいいのでしょうか?」
あくまでプロジェクトマネージャである維花に立夏は問いを投げかける。
「残りたかった?」
質問を質問で返されるが立夏は首を横に振る。残りたかったわけではなかったが、ある程度仕組みも理解している立夏か一汰のどちらかを残すという判断になるだろうと思っていたのだ。
「じゃあいいんじゃない?」
「大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫よ。新規開発では役に立たないけど、保守なら佐納さんで回せるはずだから。あの現場での調整もいろいろやってくれそうだしね」
公表された保守チームのリーダは想定外の佐納で、その下には社員は一人もなく、ビジネスパートナーとして開発を担当したメンバーが数名つくのみだった。
「はい……」
残らないことは決定事項らしいとわかるが、それであれば10月以降立夏はどのプロジェクトに入ることになるのかは気がかりだった。
「気になるなら内緒で教えちゃおうかな。立夏と相馬くんはわたしが連れて行くことになったから。若手を保守なんかで潰すなってわたしが言って、わたしが面倒を見ることになってる。相馬くんはまあしばらく見て、一人でチャレンジしなさいって手放すだろうけど、立夏は手放す気はないよ」
「そんなことできるの?」
思ってもみなかった今後の方針に、立夏は思わず家での自分に戻ってしまう。そんなことをさらっとしてしまう維花が大好きだった。
「会社って成果を残せば意見は通しやすいからね。立夏にはわたしの片腕になって貰おうと思ってるから、ちょっとしんどいかもしれないけど付いてきて」
二度目のプロポーズのようなそれに、立夏は思わずスーツ姿の維花に抱きついていた。
「ずっと付いて行きます」
満面の笑みを浮かべた人は、そのまま顔を寄せ立夏の唇に自らのそれを重ねた。
「仕事では厳しいよ、わたしは」
EOF(end)
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最後までお読みいただき有り難うございます。
channel、ゼロイチと続いたこの2人の話はこの話をもって完結となります。
release 海里 @kairi_sa
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