第5話 誕生日

「立夏ちゃん、誕生日おめでとう」


二人で迎える二度目の立夏の誕生日は、ベッドの中でだった。直前まで愛し合い、素肌を触れ合わせたままで、維花がキスをしてくる。


「ありがとうございます。何か不思議ですね。一年前の私だと思いつかなかった今になっています」


「それはわたしとは長くつきあう気がなかったってことかな?」


「そんなこと言ってないですよ。ただ、わりと勢いでつきあい始めちゃったし、女性同士って想像がつかなかったところもあったから。あの頃の維花さんと、今の維花さんの印象ってすごく変わりましたし」


「どう変わった?」


「すごい人だけど放っておけない人だなって思っていたのが、きっと私がいないと多分人じゃなくなる人だなって」


ひどくない? と口をとがらす維花に、そうでしょう?と目線だけで伝える。


「立夏ちゃんが傍にいない世界はもう考えられないから、来年も再来年も一緒にこの日を迎えようね」


「何か維花さんだけに都合がいい気がします」


「そんなこと言わないで~ プレゼントも買ってあるから、朝にプレゼントも渡すね」


「それは嬉しいですけど、もう一つ強請っていいですか?」


何?という問いに以前から興味のあったそれを維花に告げる。


「本気で?」


「冗談で言いませんよ。いつも維花さんにして貰ってばかりな気がしてるので」


立場をチェンジしてみたい。その恋人からのおねだりに悩んだものの維花はOKを返す。


「立夏ちゃんみたいに可愛くないよ、わたしは」


「維花さんはいつだって可愛いですよ。でも、もっともっと可愛い維花さんが知りたいです」


ストレートな立夏の求めに維花は小さく肯き、それを確認してから維花に唇を寄せる。


「愛してます」


「わたしも……なんか照れるね」


照れる維花の唇を奪い、そのまま口内を貪る。維花と肌を触れ合わせるようになり、徐々に立夏もそういった積極的な欲求を示せるようになった。



知って欲しいし、知りたい。



その欲求に対してこのタイミングであれば言い出せそうだと強請ることにしたのだ。


立夏は維花の耳の付け根に唇を移し、そのまま鎖骨を辿って胸に落ちて行く。立夏よりは少し小さめだが形のいい胸の膨らみの感触を手で確かめながら唇を這わせる。


柔らかなそれは触り心地が良くて夢中で食んでいると、維花からくすぐったいと笑いが届く。


「遠慮してたのに、本気で跡つけていいですか?」


「いいよ。誰に見せるわけじゃないけどね」


「いいんです」


そう言うと再び立夏は維花の胸に吸い付き、少しだけ吸う力を込めてる。胸だけではなく、谷間を舌で辿りそのまま腹部へと移り肌理の整った肌の感触を愉しむ。


平行して片手を下肢に伸ばしていくと、その場所は既に濡れ始めていた。期待が込められているからこそ、そうなっているのだという嬉しさが立夏にはある。


「もうすごく濡れてますよ、維花さんのここ」


「だって立夏ちゃんがしてくれるって言うから」


立夏に迷いはなかった。やり方はもう分かっているし、相手は間違いなく自分を求めてくれる人なのだ。


立夏のことを可愛い、可愛いと言う維花の気持ちが少し分かったかもしれないと再び唇を奪い、そのまま口内を貪り熱情を混ぜ合って行く。


一方で立夏は指でその場所を攻めるのは止めず、潤いが増した段階で、更に攻めを一段階深める。


するっと呑み込まれたその場所は十分すぎるほど潤っていて、少しずつ反応を見ながら指の動きを変えて維花を追い込んで行く。


探っている内に維花の反応が違う場所を見つけると、同じ場所を丁寧に攻めて行く。


甘い甘い維花の声。


過去にその声を聞いた存在はいるかもしれない。それでもこれからは自分だけのものだと、立夏は愛の言葉を囁いた。





「もう、立夏ちゃん、明日仕事だって言ってたくせに、全然手加減してくれないんだから」


翌朝、休日出勤でいつもの上下共にメンズコーデの維花は、隣に座る立夏に昨晩の不満を出す。


幸い休みの日の朝の電車はかなり空いていて、二人の周囲には乗客はいない。


「だって維花さんがすごく可愛かったんです」


夢中になりすぎて二人がようやく寝たのは周囲が白み始めた時刻だった。


「気持ち良かったのは良かったけど、今日一日仕事あるんだし……」


いつもとは真逆のことを言う維花は、少しは立夏の気持ちが分かっただろうかと思うが、仕事があるのが分かっていても止められない自分を初めて立夏は知った。


甘い声をもっともっと聞かせて欲しくて手を止められない。今だって服越しに触れている体の一部から熱を感じて、このまま家に戻ろうと言われてしまえばそうしてしまう自信はある。


「もう目処は立ってますし、今日の維花さんの仕事は完了報告を聞くだけだと思うので、ぼうっとしておいてください。昨夜のことを思い出していてくれてもいいですよ」


「立夏ちゃん、それって立ち上がれなくなるやつ」


「それは維花さん次第じゃないですか?」


「だって立夏ちゃんかっこ良かったし……」


普段はぱっと見は美少年だが、頬を染めると女性らしく見えてしまう。と言うか、元々中性的な美形な分、維花は表情次第でどちらにも見えるのだ。


これはちょっと軌道修正しなければ、休日出勤メンバーの目に維花を晒せないと立夏は口を開く。


「じゃあそれは今晩もう一回確認するでどうですか? そのために今日は早く仕事を終わらせましょう」



戻った。



あまりにも維花の素直な反応に、立夏は自分の策が成功したことを知る。


「今晩はどっちがするかは別として、さっさと仕事終わらせて帰ろう?」


いつもの笑みに戻った維花に同意して立夏は隣に座る維花の手を握りしめた。


こんなに傍にいたくて、こんなに触れたいと思うのは維花だけ。それを改めて感じていた。

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