第194話
「うっーわぁー……スゲェゼー! ハハ竜だゼー」
「ゼルーっ、恥ずかしいから騒がないで頂戴っ!」
「たっかーい……本当に浮いてるんだねー僕達ー」
「ねぇリナっソナっ、ここが最終エリアなのねっ」
1年半ぶりの、空と島エリアだ。
この場所へと初めて訪れたゼルズは、話に聞いていたこともあってか、よほど嬉しかったのだろう。島端へ寄っていったまま、下ばかり眺めている。あれやこれやと言い合いながら、袖を引き合い、顔を見合わせていた。
変わった風景の中の、懐かしい光景だった。
広大な空の中の浮かぶ島々を渡っていた頃を思い出す。皆が思っていたよりも俺は早く戻って来れたのかも知れないが、1年半掛かってしまった。もっと早く戻りたかったが、一先ずは、多くの仲間と共に戻れたことを喜ぼうか。
しかし、あれから、ここで活躍できる探検者も多くなったもんだ。
ゲート島に、有名クランの探検者、兵団や教団の名うての者達が集まっている。もはや、このエリアも調査が進められているから、遅れてやって来た俺達は顔を差されようとも、あまり大きな顔をしてはいられないだろうな。
元々するつもりもないが、この場では慎ましくしているほうが賢明だろう。
そんなことより何よりも、顔見知りとまた肩を並べることが出来て嬉しい限りだ。それにレベリングも楽しみだし、ドラゴン素材の装備品の供給や、未知のエリアの攻略と探索に加われるようになったことも喜ばしい。
あぁ、早く、狩りに出たいな。
「おーぅッ! ようやく来たかー! 神子オーエン様よーぉ?」
ウエストさんだ。振り向かずとも、この声と、茶化した呼び方だけで分かる。振り向いてみれば、ほら、想像通りの笑顔だ。
『はぁ、あのさーウエストさん? いつまでもそうやって呼ばないでくんない?』
「へへっ、いいじゃねーか。お、待ってだぞー坊主に嬢ちゃん、それに姐さんっ」
「……チッ、おいウエストォアンタ引っ叩かれたいのかい? 粋がんじゃないよ」
「おーっ怖ぇ怖ぇ。……なぁオーエン。おめぇよく火傷の一つもせず――熱ッ!」
フォティアさんが、ウエストさんを炎魔法で炙った。酒場でよく見るやり取りだ。フォティアさんも慣れているだけあって、炎魔法で焦がす位のことには見境が無い。顔見知りがいればこそ、必然的にそういうやり取りになってしまうのだろう。
「ウッサイよウエスト! 今からでも団長の座から引きずり降ろしてやろうか?」
「あ、待て待ってくれよ。冗談じゃねーかよフォティおい! オーエン止めろ!」
「いちいち坊やを引き合いに出してくんじゃないよッ! 関係ないだろうがッ!」
「アッツ?! 復帰は嬉しいけどよ! ちっと元気になり過ぎじゃねーかぁ!?」
炎魔法から逃げるウエストさんは、フォティアさんとこの場所で会えることが嬉しいのだろう。だけど、アウラさんとは違うのだから、その扱い方じゃ燃やされても仕方ないだろう。
フォティアさんも、それを分かっているはずだ。
ウエストさんのことを焦がすついでに、車椅子で引き潰さんとして後を追っているが、その実、気恥ずかしいだけだ。そして、そのことをウエストさんも分かっていて、敢えてそうなるようにしているのが質が悪い。
あぁ、なんて大人とは、メンドクサイものなのだろう。
『っはぁ……はいはいー。二人とも止めて止めてー。ケンカしないでー。……それよりも早く狩りに出ないとー、時間はあっという間に無くなっちゃうよー?』
俺がそう言うと、二人は渋々じゃれ合うことを止めた。そうして、こちらへと戻って来る時に、フォティアさんが今回の件の落としどころとして、飯を奢ることを約束させていた。
『……ゼルズー! そろそろ戻っといでー!』
俺は、二人が落ち着いたところで、ゼルズを呼び戻した。
そうして、俺とウエストさんを前に、≪ベリルズ≫、≪ゴーティス≫、フォティアさんとアンゼリカさん、≪ゼルズパーティ≫が並ぶのを待ってから、今回の狩りの内容を皆に伝えることにした。
『それじゃ、本日の狩りの説明をします!』
その内容は、至ってシンプルなものだ。
このエリア初挑戦の皆は、浮島からの飛竜を狩ってもらうことになる。ゲート防衛隊の目の届く浮島にて、練兵を担当しているウエストさん達と、訓練兵として参加している者達と共に、狩りを行いながら実力を計ってもらう。
これまで共に狩りを続けていた皆と、俺が分かれて狩りをするという内容だ。
そう皆に伝えると、その反応は様々だった。驚いたり動揺したりしていたが、実力不足だから別行動するわけではないと説明すれば納得してもらえたようだった。要は人員を適材適所に配置するのが理由だからだ。
陣を敷いて戦う方が、皆の戦闘スタイルに合っている。
浮島では、特殊な陣形を敷くこともある。それにモンスターが強力で、何かと知識を必要とすることが多い。エリアの慣らしであれば、他の訓練兵と共にウエストさんに見てもらう方が、安全で得られるものも多いはずだからだ。
今後のことを思えば尚の事だろう。
たまたま今日が、ウエストさん達の担当日で良かった。俺自身もそうだが、安心できなければ皆を任せる選択肢を取らなかった。信頼を置ける人に見てもらいたかった。認めて貰えさえすれば、後々動きやすくなるはずだからだ。
俺は、皆なら、十分にやれると思っている。
皆の実力が、他の者達に負けていないと思っている。だから、その事実を認めて貰うための一日目としてほしい。俺も、次に皆と共に戦うときには、もっと強くなっていることを約束しよう。
そのために、俺達は分かれるんだ。
「つーことだから、俺の言うことをよーぉくっ聞くようになっ!」
『……じゃ、ウエストさん。皆のことを、よろしくお願いします』
「おーう! 任しとけっ! バッキバキに鍛えてやっからよー!」
俺は、そうして、軽い挨拶を最後に隊列から離れた。
後はウエストさんに任せれば問題ない。俺は俺の心配をしていよう。そんなことを考えながら、こちらの様子を伺い見ていた待ち人の元へと向かった。
「オーエン終わった? ねぇ、チョコ食べる?」
『うん。お待たせポルカ。っぐむ……ありがほ』
「久しぶりだねー? 今日はね。お弁当もある」
『んム、そうなの? あれ、料理できたっけ?』
「うんっ出来たよ! 後で一緒に食べようね?」
「あの、オーエン様? 浮気するなら私と――」
『ヴァイス!? な、何を言ってんだかっ!?』
俺は咄嗟に否定した。だが、現状、二人に挟まれてしまっていた。それに両側から腕を抑えられている状態だ。そこかしこから視線を感じる。ウエストさんからもヤジのようなものが飛んできている。
『ちょ、ちょっ、ちょっとマズイ! おーいビビッ! 見てるんだろ!? だとしたら待ってくれよ! 頼むからっ、この映像を見せないでくれよ! 誤解だからな!』
俺は冷や汗を垂れ流しながら、咄嗟に虚空へと向かって叫んでいた。傍から見れば、どうかしてしまっている変質者にしか見えないだろう。しかし、そんなことよりも、今、見られていた可能性があるということの方が肝心だ。
もし、ビビの傍らにいたとすれば、相当にマズイ。
俺の本能が無意識にそうさせた。本能が勝手にそうさせた。しかし、俺の罪を犯した証拠が残ってしまっている。視線が捉えてしまっていた。腕に押し付けられた時に、二人のものを見てしまった罪だ。
頼む。どうかお願いします。見られていませんように。
もう既に、周辺の者達に見られてしまっているが、リアルタイムで見られている方が印象は良くない。後で知るにしても、又聞き程度に知るのと、映像を見られるのとでは、まるで違うからだ。
もはや、ビビに弱みを握られたことは仕方ない。
『……っ、……大、丈夫か?』
目を瞑って、しばらく、経った。しかし、何も起こらない。通信魔道具が鳴ることもなかった。それは、つまり、見られていなかったということだ。
『ッ、セーフ。……良かった。……良かった。……あ、二人とも、そろそろ離れてもらえるかな? この状態だと狩りに行けないからさ。……ふぅ。……助かッ――』
――目の前が真っ白になった。
『ァアアアア゛ア゛ア゛ッ?! 目がッ?! 目がァアアアアア゛ッ?!』
視界のすぐ先で閃光が迸った。咄嗟に目を塞いでも間に合わなかった。閃光に目を眩まされた。これは、罰だ。俺の罪に対する罰だ。ビビによる遠隔魔法が放たれた。つまり、終わりだ。カノンに見られていたということだ。
『――すっ、すみませんでしたあああッ!』
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