第89話
『あ゛ぁ゛ー……づっがれだぁーぁぁぁ……』
「膝枕してあげよっか? いーよ。はいどーぞ」
『ありがとうポルカ、でも、今はいいやぁー……』
「ならチョコレート食べる? 沢山あるよ」
『ううん。それも今は大丈夫ー……ありがとぉ』
「お顔、拭うから。じっと、じっとしてて」
『ぬぶ、あぼ、……プはぁ、……ありがと』
更に事情聴取が終わって解放された後、疲れがどっと押し寄せて来た。だから今は抵抗するのも煩わしい。もはやポルカのしたいようにすればいいと、されるがままに身を委ねることにした。
天井の白い土壁のひび割れをなぞるように視線で追いかけて、二股に分かれたひび割れで立ち止まり、その先が繋がって居る方を選んでまたなぞる。そうしている間にも額や頬、首元、腕と冷たい感覚が走っていく。
結果はどうなったのだろうか。そのことを考えても仕方のないことだと思うが、やはりどうしても考えてしまう。結局、試験が中断となってしまった。
そして拘束されて事情聴取、それからは治療室で手当てを受けるようにと言われてここへ来た。だからまだ結果も分からず仕舞いだ。
治療を終え、少し横になっていると、何故だかポルカが現れた。そうして今に至るが、結果の知らせはまだ届かない。
治療の必要のない皆は元より、レオンとウィーツは治療を終えるや否や、何処かへ行ってしまった。だから、ここで結果の知らせを待つ他ない。
それはそうなのだが、それにしてもこの状況は、何なのだろうか。
「二人っきりだね」
『ッ――……ぇ?』
「頭、上げるよ」
『ぅ、ぅん?!』
「首の後ろ拭くから」
『……う、うん』
何故だろう。何故、膝枕されているのだろう。首の後ろを拭くだけじゃないのか。首の力を抜いたら程良い弾力のある物が首の後ろに差し込まれた。きっと膝枕なのだろうが、何故ポルカはそうしたのだろう。そう、戸惑っていると、
「力、抜いて」
『……ハイ』
「ねえオーエン」
『……ハイ』
「あの時と同じだね」
『ハ……ん、あの時?』
「うん、初めて会った時」
『……あぁ、う、うん、そうだね』
そう言われれば、あの時も気が付けば膝枕されていたっけか。俺が探検者になってすぐのこと。右も左も分からなくて、ポルカに喧嘩を吹っ掛けたんだっけか。あれが今から数か月前の出来事か。
あの時は知らないことが楽しくて、分からなくても面白くて、強くなりたくて無我夢中だったな。毎日が新鮮で、閉ざされた視界が突然開いたみたいに、止まった時間が動き出したかのような、そんな感じだった。
頬張れるだけ頬張って、それでも止まらなくって、両手で搔き集めて掴んで、それでも満たされたくて、何か無いかと血眼見開いて、それでもまだ、まだ、足りなくて。
それで、今も、まだ、強くなりたいと思っている。
「強く、なったね」
『――え?』
「強くなったねって」
『……うん』
その言葉を聞いた瞬間、強張っていた身体の力が、ふっと抜けた。依然、強くなりたいと言う願望はあれど、他の誰でもないポルカからのその言葉は嬉しかった。
そしてポルカが認めてくれたからこそ、俺は素直にその言葉を受け入れることが出来たのだと思う。
「ふーんふんふーん」
汚れを拭い去ってくれた後、ポルカは俺の額へと手を置いた。そして鼻歌交じりに俺の前髪を梳かし始めた。そのゆったりとした手つきはこそばゆくも、それでいて、心地良かった。
「ふふっふーんふふーん」
調子外れの鼻歌。だけど、聞いていれば自然と瞼が落ちた。俺は訪れた眠気に抗おうともせず、少し、少しだけ、眠ってしまってもいいだろうか、と考えていた。
「ふーん……ふふー……」
少しだけ、眠って、起きたら、また、頑張ろう。
誰かを、助けられる位に、もっと、強くなって。
それから……、それから……。
何、だっけ……。
……。
◇◆◇◆
少年期編 完
青年期編へと続く。
◇◆◇◆
作者 森瀬 井叉哉から読者の皆様へ
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。
少年期編 完結という区切りの良い所で、皆様へのご挨拶と共に少しばかり作品に関するアレコレを書かせて頂きたく、このスペースを設けさせていただきました。
(以下、物語には関わりませんので読み飛ばしてくださっても結構です)
主人公オーエンの物語、起承転結でいうところの起はいかがでしたでしょうか。
ゆるりとした始まりに感じられたでしょうか。書き始めた当初、冒頭に死体も転がっておらず、興味を引くような始まりでもないから、一話二話の雰囲気を見て読まれなくなってしまうのだろうな、と覚悟していました。
それに、あれやこれやとおもうところもあったと思います。主人公の感情表現が薄く、読み取れないことや描写不足に感じたり、また不明や疑問に思うところも多かったのではないでしょうか。
作者自身の技量の問題もあるとは思いますが、
何より、それでも私自身、この作品は、一人称視点で書くことに拘っています。
その為、時系列も一本道で、他者視点に映ることもなく、それにオーエン自身の見落としや勘違いがあったりするのも人であるが故のこととして、そう書くように心掛けています。
ですが、投稿小説だからこそ、これが出来るのだと思っています。出版社に持ち込んだとしても、コンテストに出品したとしても、担当者や審査員の方々が全てに目を通すこともないでしょう。
そうと分かっていても、その様な作風の小説を書いているのは、私自身階段を一段ずつ上っていくような作品が好きだからです。だからこそ、人によっては省いても良いと感じる部分を敢えて始まりとしました。
それが、拘りであり、この物語の醍醐味でもあると思っています。そう言えるのも、これまでの少年編、この先の青年編から結末までの物語までを構想しているからです。
打ち切りを選択することが無ければ、予定では200万字、長くとも300万字程度での完結を目指しており、予想以上の人気が出た場合などの反響に応じて、アザーストーリーの追加も想定済。既に構想も終えており、追加50万字以上の2作品程度に追加することも予想しております。
つまり、まだ物語は始まったばかりです。これからの展開を早く書きたいと思いながら日々執筆活動に打ち込んでおります。ですが、やはり思い描くのとは違って実際に書くのは時間が掛かってしまいます。
現在は毎日投稿できておりますが、今後、数日間に一度の投稿になるかも知れません。それがいつになるかも現時点では不明なので、宜しければフォロー活用していただけましたら幸いです。
後、あとあとあと、最後に一つだけ卑しいお願いをしてもよろしいでしょうか。
実のところ私は、週間ランキング100位内を目指し、それをモチベーションとして執筆活動を続けております。
だからなんだ、と言われてしまえばそれまでですが、フォロワーの数、レビューの星や応援のハートの数字を恐る恐る見ては一喜一憂する日々を過ごしております。
週間ランキング100位内がどれほどのものか、高すぎて後どれだけ手を伸ばして背伸びしたら届くのかさえ分かっておりませんが、フォロー数や星やハートが増えれば嬉しい気持ちになるので応援やレビュー等々、ひと手間頂戴したく存じます。
是非とも、ご協力の程、よろしくお願い致します。
それを抜きにしても、一名でも多くの方に面白いと思って頂けるような作品を書いていきたいと思っております。今後とも、Let`s Play!! 異世界ダンジョン生存戦略記を、どうぞよろしくお願い致します。
ここまで読んでくださり、どうもありがとうございました。
追伸:89話、短かったですよね?
そう思って、90話も、この後(00:10)に投稿しちゃいます!
新章:青年期編の第一話をお楽しみくださいませ。
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