第88話
「――号令ッ、“今”ッ!」
拡声されたカノンの声が鳴り響く。それ同時、皆が一斉に動いた。
数十の足音、それに雄叫び、言語も統一されていない群集の一部がその人の待つ場所へと次々に飛び込んでいく。
その勢いに続くように俺もレオンと共に凍り付いた枝草を通り抜けた。
「まずは、ボクから……【リプレイ】ッ」
「――我が魔法剣の前に炭と化せッ、である!」
「――【森】、【羅】、【万】、【象】」
「――きりきり舞いやッ!」
「――飛んッ、でけッ!」
凍り付いた枝草の先に見えた光景は当初の作戦通りのものだった。ウィーツの能力による再現体がその人を囲むように複数展開されていた。
そして次の瞬間には、グインツの再現体が燃え盛る剣を縦一文字に振り下ろし、ウィーツの再現体が上下左右方向から同時に居合斬りを仕掛け、レオンの再現体は荒ぶる独楽のように回転しながら旋刃を振り回し、俺の再現体は後方から渾身の力で魔槍を投げ放ち、その人へと肉薄した。
だがしかし、息もつかせぬ間の多方集中攻撃を、その人は容易いと言わんばかりに振り払ってしまった。更には隙を突くようにと言い聞かされ、配置されていたギィ達の攻撃さえも躱しては跳ね返している。
「ギィー! ギべッ!?」
「ギギッ、ギブべッ!?」
「ギー……ギィギィ!?」
ギィ達は愚かでは無い。むしろ上手い具合に連携を取っている。それに決して甘いタイミングでも攻めている訳でも無い。だと言うのにその人には一掠りもしない。
天井からの不意打ちも、仲間との連携による投身攻撃も、まとめて飛び掛かる一斉攻撃も、何もかもが一切、通用していない。
これだけの人数差を物ともしないその人の様は、まるで映画の中の主人公みたいだった。それは隙を突くどころか、瞬きをしている暇も無いように思えるほどのものだ。
ギィ達も気が付けば宙に浮き、そして地に落ちて初めて弾き飛ばされたことを改めて知る。と、言ったような状態だろう。
流石はミスリルと言うべきか、流石は超越者と言うべきか。人の境地から外れると言うのはこれ程のものなのか。格どころか、次元が違う。【スロウ】と【ファスト】を発動させている俺だからそう思うのか、時の流れ方さえもが違うように思えた。
それを目の当たりにして、どうしたら、どうすれば、と言った疑問が前に体重を傾けている合間にも浮かぶ。やはり俺自身、負けると分かっていても諦めたくはないのだろう。下肢に力を込めるほんの僅かな間にも考え続けることは止めなかった。
「――行くでッ!」
ウィーツの再現体とギィ達がその人へと攻撃を仕掛けている最中、深く伏せるように身を屈めていたレオンが動いた。丸まっていた背中が伸びると同時、後ろで待機していた俺も縦に連なりながら着いて行く。
そうして【ファスト】の恩恵を受けるレオンの背に隠れるようにして接近した。
「シャアッオラァア!」
レオンは気合の叫びと共に、その人へと向けてフェイトを入れつつも、絶妙な角度で旋刃を振るった。それは一本の剣では受け切れない上と横からの角度、尚且つ、内と外に刃が走るという技巧派ならではの攻撃だった。
それが常人であればこの時点で勝ちを確信していただろう。だが、例え見なれぬ武器であっても、更には予測しているタイミングと方向以外からの放たれた剣線であっても、その人ならば対処するはずだと思えた。
だからこそ、レオンの背後で潜んでいた俺は、持てる限りの力で魔槍を突き込んだ。
『――届ッ、けぇええッ!』
殺意さえも込められた魔槍の軌道はレオンの衣服に掠る程近くを通り抜けた。身体の軸さえも歪む程に体重の乗せた魔槍は、これまでに無いほどの勢いを伴った一撃だった。の、だが、
『う゛ッ、ぐッ――!?』
気が付けば俺の顔面はレオンの背中に張り付いていた。魔槍を突き込んだ時に、勢い余ってレオンの背中に顔を押しつけてしまったという訳では無い。
レオンの身体が押され、こちらへと飛んで返って来ていた。そうして俺とレオンはその勢いに飲まれるがまま、後ろへと吹っ飛ばされた。
「……ウッ、……カハッ」
『痛つッ、……大丈夫か、レオン?』
「……ヒュー、ゴホッゴホ……、心配ッ、あら、へん……」
無意識に腹を抱えて寝っ転がったままのレオンは呼吸するのも苦しそうだ。かく言う俺も背中に凍った茨が食い込む感覚がある。
痛みに顔を顰めながらも、顔だけを上げて見ればそこそこの距離を吹っ飛ばされていることに気付く。そしてぼやけた視界の先に、未だ健全なその人の姿が見えた。
今はウィーツの再現体とギィ達が、吹き飛ばされてしまった俺達の代わりに相手取ってくれているようだった。
『っそ……立てるか?』
「おぉ、当たり前や、これ位、なんぼでも、いけるで」
『……なら、次だ、次』
「おう、やったらぁ……、絶対ブチのめしたる……」
レオンの腹には足跡がくっきりと着いていた。レオンは立ち上がると忌々しそうに汚れを払う。
その横で俺も背中の傷を指先で確認すると、まるで背中と服をホッチキスで止められたかのように茨が衣服と背中を縫い留めていた。服を無理矢理に引っ張って茨を引き抜くと背中に血が伝う生暖かい感覚があった。
「先、いくで……」
頭に血が昇っているのか、俺の怪我は手当てが必要だと思ったのか、レオンがそれだけ言い残すと駆け出した。それ程大きなケガでは無いとは思うが、俺は急いでポーションを飲み干してからレオンの後を追った。そして、
「さっきはよくもやってくれたのぉッ! オラララァッ――ぐふっ!?」
『そこォッ! ――なッ!? ……くッ、……ッ、……っぎッ、ガハッ』
「まだやッ、まだまだやッ! なんぼでも、いったるからッ、のぅ!?」
『そっちッ、行ったぞウィーツ! 挟み込むッ! うわっ!? ブはッ』
「無理無理無理ッ、ボク――……ッ痛っつつー……コレ、無茶苦茶だよ」
「泣き言抜かすなやッ、ウィーツ! ぶつかれるだけッ、ブツカレッ!」
その人へは束になって飛び掛かろうとも、幾ら連撃を見舞おうとも、掠り傷程度の傷を与えることさえ叶わない。
避けられ、弾かれ、流され、あと一歩と言うところで氷の鎧に阻まれ、そして後方へと飛ばされる。
これだけの人数で順番交代しながら肉薄し続けているというのに、その人は衰える気配も見せない。むしろこちらの方の消耗が激しかった。
それでも何度も何度も、その人へと挑んだ。幾ら吹き飛ばされようとも、幾ら怪我が増えようとも、身体が動くと分かれば、その人の元へと飛び込んだ。
時折、その人は遊んでいるのか、悪戯を芽生えさせたかのように氷の礫つぶてを放ったり、氷の壁で妨害したりとあの手この手で翻弄してくる。
それのせいでギィ達の大半がやられてしまった。当初居たギィ達の中でも頼れる色付きの姿は数匹だけだ。
例えギィ達が消え去ったとしても、あくる日にはケロリとした雰囲気で戻って来るから、それはそれとして良い物の、人海戦術とは言えぬ程の数まで全体数が減っていた。
そうなったのも後ろからの補充が間に合わぬ程のペースで、その人が打倒してしまっているからだろう。
打開するためにはその人を抑え込む必要がある。だが、そんなことが出来るのならば、初めからこうはなっていない。
誰一人として誰かをフォローしている余裕などないし、助けを求めることも出来ない苦しい状況が続いている。
そうして見えてきた答えは、その人には持てる全てを使うしかないというものだった。俺が思い付いた唯一の答えをレオンが知れば嫌がるだろうか。
もしかしたら恥も外聞も無いと呆れさせるかも知れない。卑怯だろうか。そんな方法を用いる位なら、正々堂々戦って負ける方が良いのだろうか。
その答えに気が付いてからというものの、誉れある負けか、恥じに塗れた勝利か、と言う考えで俺の頭の中は支配されていた。
その方法を使うかどうかを別に考えれば、その人に勝てる唯一の可能性だろう事は間違いない。
これがダンジョン内であれば迷わずそうしていただろう。自らの命と仲間の命が掛かっているのだから当たり前だ。だが、これは試験であり、相手は人間だ。
だからこそ迷ってしまう。俺はその方法を用いても許されるだろうかとばかり頭の片端で考え続けていた。
「……“準備完了”よ」
そんな時、カノンの囁き声が聞こえた。息も荒くなり、節々の痛みが増して来た頃合いだった。
俺はその声を聞いて、やっとのことだと思う反面、もうタイムリミットが来てしまったのかと考えていた。
『……ハァ、……ハァ、……ちょっと、……任せるぞ』
転げ回ったついでに、後ろで休む振りをしながらカノンへと返事をする。その間も、この差し迫った状況で、俺は俺に、何度も問いかけた。
そしてやはり俺は何が何でも勝ちたいという想いに至った。もはや投げやりだ。もう卑怯だと思われようがどうでもいいとさえ思ってしまった。だからこそ全てを用いたとしても、勝ちに拘ろうと決めた。
『――――ッ!?』
すると、どうだろう。そう考えたところで一つ思い出すことがあった。俺の凝り固まった思考が解れたのか、自然に生み出してしまっていた勘違いを正してくれた。
これは試験であり、人間との勝負であるが故に使わないと無意識に決め込み、早い内から排除して考えていたことがあると気付いた。
そうだ。その人に勝てる唯一の方法は、唯一では無かった。そう考えれば先に思い付いた方法は代替案だ。その人を死なせない為の方法であり、尚且つ、勝てるかもしれないと思える方法だ。
後付けの理由になりはするが、その方法を用いたとしても責められる謂れも無いどころか、むしろ褒められる要因とさえなり得るはずだ。
『……ハァ、ハァ、……やってやる、今から、すぐにでもッ、やってやるッ!』
「……“今”……了解。……ココから始めるわね」
「ふふっ、君も案外、負けず嫌いのようだ」
『……知ってる。……一発も当てられずには終われないから……』
「ふふふっ、そうか。なら、君が諦めるまで付き合ってあげよう」
『くっ、……なら、今すぐ、一発だけでもっ、入れてやるッ、それまでは終われないッ』
「……一発だけでも、……了解。……“援護”するわ」
その人からすれば、負けず嫌いが虚勢を張っているだけの姿に見えるだろう。だが、どう思われようとそれでいい。むしろ今はそう思っていて欲しい。
カノンにその意図が伝わればいい。そうすれば、きっと皆にも伝えてくれるはずだ。それさえ分かれば俺が何も伝えずに予定外の行動を取ろうとも、何をするつもりかを察してくれることだろう。
「――“今”」
作戦実行の合図。皆にもその合図が聞こえたようだ。レオンもウィーツもギィも、その人から距離を取った。
「【竜巻】と【砂煙】のっ、――魔法!」
作戦通りに枝草の中を通って潜んでいたココの声が背後から聞こえた。その人を中心にして滞留していた空気が渦となって巻き上がり、そして同時に発動した土魔法で視界を奪う。
目の前に現れた竜巻は、凍り付いた枝草諸共、宙に舞い上がる。その光景を目にした俺は【ポーズ】で、仲間等の目の前へと気休め程度にしかならない防御壁を張ってから、上空に伸びる足場を作り上げた。
そして何をするつもりかと問う仲間の視線を尻目にその足場を昇っていく。本来ならばこの俺の行動は作戦には無い。
だがしかし、動き出すならばこのタイミングしかなかった。だから行動を優先させた。
「――“今”」
2度目の合図だ。これは既に、もし1度目の【クリムゾンレッド】が防がれてしまった場合の作戦に移行している。つまり、合図が聞こえたと言うことはもう間もなく猛烈な攻撃がその人を襲うはずだ。
この作戦は過剰であると反対意見を出す者もいた。まさかこの作戦が必要になるとは思っていなかったから保留としておいたが、今になって見れば考えるだけ考えていて良かったと言える。
まず相手を拘束し、視界を奪う。そしてココが通り抜けて来た枝草の通り道、それをガイドにグインツ、カノン、フーガさんの3人が魔導書を一つずつ持って【クリムゾンレッド】を合わせて放つという単純な作戦だ。
本来の作戦ではこれが要になるはずの攻撃だった。だが、恐らくはこの攻撃をもってしても尚、その人を打倒できるとは思いきれない。迸る紅い光を見て、巻き上がる爆炎に目を細め、熱さを肌で感じても、その考えは変わらなかった。
「【コレ】と【コレ】、とっ、【コレ】もっ!」
「ウィーツ! 一瞬でええ! 隙を作るんやッ!」
「分かってるッてばッ! チッ、あぁッ、もう!」
「ギィギギギギギー! ギギギー!」
炎の勢いが収まりきらぬ中、ココや後方にいるカノンの魔法が飛んだ。それに合わせるようにレオン、ウィーツ、ギィ等の近接戦闘組が動き出す。
そして、その後方には蹲うずくまった俺の姿があった。
あれは左腕の包帯を、まるで封印を解くかのように、苦し気に巻き取っている俺の姿の再現体だ。
恐らくはウィーツが意図を汲んでくれたのだろうが、何故、あの時の俺を出したのだろうか。
『ぐぎぎ、アガッ……、グ、ギ、……オマッ、お前を、……呪い、殺してやる……』
見れば恥ずかしく思うその姿も、今はその人の興味を引いていた。更にはその再現体の攻撃を一撃でいいから通すようにと、レオンやウィーツが守りながらも上手く立ち回ってくれている。
――なるほど。そう言うことか。
ゆったりと歩み出した再現体を見れば、どのタイミングで合わせればいいかなんて手に取るように分かった。
つまりそういうことだろう。もう間もなく再現体は火傷跡の残る左腕を突き出して走り出す。間違いなくそのタイミングで飛び込んで来いという合図だ。
『……ゴロス、アガッ……グギガ、……ゴゴッ、ゴ、ゴロジデヤルッ!』
「何としてもオレ等でッ、オーエンを守るんやッウィーツ!」
「分かってるッ! だから道をッ、作ってんッ、じゃんかさあ!?」
「そうやッ、せやからッ、いってまえッ! オォオオオエエン!」
「もう無理だからッ、お願いッ! 頼んだよッ、リーダーァ!!」
「オー、エン、さぁああん! 頑張ってくださぁあイ!」
『ガッァアアアアアアアアアアアアアア――ッ!!』
ここだ。俺の再現体が狂ったような叫び声を上げた。その姿を上空で眺めていた俺は脹脛に力を込めて真上に飛んだ。
そして身体を上下逆さまに反転させ、踏ん張れるように、と作り出していた透明の足場を下側から蹴った。
――届け。
途端、身体は重力に引き寄せられる。右手に携えたままの魔槍を引いた状態で構え、そして腰の後ろに差していた黒牢の鍵を左手に持ち、風の膜を貫かんとするように前へと突き出した。
その人はまだ気づいていない。左手を前に突き出して荒ぶる再現体を警戒しつつも、喰らい付かんとするレオンとウィーツを優先している。ココとカノンの魔法が音を掻き消してくれている。
――届けッ。
飛び出す力と引き寄せられる力、それに【ファスト】よる敏捷性の向上によって俺は途轍もない速度を得た。この一撃が全て。これに全てを乗せる。ここで決める。俺はそう心に誓い、突き出した左手に全感覚を注ぐ。
――届けぇえええッ!
俺は胸の内で声を響かせながら、その人へ向かって落下した。すると、その刹那。時間がゆるやかに流れているような感覚を味わった。
時が停止したのではなく、小間切れになった時間を見ているような感覚。動画の1コマ、いや、1フレームがゆっくりと送られている感覚だった。
その緩やかな時の中、振り返ったその人は微笑んでいた。そして深々と肩に突き刺さった黒牢の鍵を持つ俺の手首を倒れながらにも握りしめている。
それを見た俺は、そこで初めてその人へと届いたのだと気が付いた。だが、まだ終わりではなかった。まだ鍵は回っていない。
右手の魔槍がその人の剣によって弾かれている。跳ね上がる腕を押さえ付けようとも、身体は傾くばかり。それに俺の腹にはその人の足が添えられ、今まさに下から突き上げられようとしていた。
『――……ァ、ア゛、ア゛、ア゛、アア゛、アアア゛ッ!』
俺はその人の力を、跳ね上げられた力と下から突き上げる力を利用して、身体を捩じり込むように左手を回す。黒牢の鍵が少し傾くだけで痛みが腕を伝った。
だが、最後まで黒牢の鍵を手放すつもりは無かった。俺はもし手首がねじ切れてしまおうとも最後まで回し切ると決意していた。
『アアアア゛ッアア゛ッ、――ッ、……ゥ、……ゥウ゛ェ――ッ……』
衝撃が腹を貫いた。そして気が付けば身体の自由は利かなくなっていた。くの字に曲がり、丸くなり、そして空中で仰向けになった。
瞼は細まり、視界は掠れていた。だから、どうなったのかが理解出来なかった。そうして理解も出来ぬままに俺は地面へと衝突した。
「オーエンッ!? おまッ、マジか!? 無茶苦茶しよんな!?」
「死んだ!? 死んだのオーエン? ねぇ、死んだ? ねぇって?」
「オ、オーエンさん、いっ、今、治療をっ、えとえとえと……」
『……ごほっ、ごほ、……ぅう゛、生き゛っ、てる……多、分』
呻き声を上げながら、駆け寄る仲間へと生存報告をしたは良い物の、痛みや吐き気によって立ち上がることもままならず、蹲っているだけで精一杯だった。だがしかし、
『……ど、どう……なった?』
それでも気になったのは、その人の行方だった。俺は地面に顔を擦りつけるようにしながらでも視界を上げた。すると、その人の姿はどこにも見当たらなかった。
「安心せぇ。あん人は牢の中や」
レオンのその言葉を聞いて俺はやり遂げた事を知った。そしてココから手渡されたポーションを一飲みしてようやく理解した。
『……んん、……腹と手以外、そんなに痛くない。……それどころかケガもしてない。……って、ことは、やっぱそうか、そう言うことか』
してやられた。と言うよりは助けてもらったと言った方が良いのだろう。あまりにも怪我が少ないことを疑問に思ったが、その人が高度からの落下による衝撃を和らげてくれていたのだと気付いた。
黒牢の鍵を突き刺した時に支えられ、そして最後は巴投げのようにして衝撃を受け流してくれたということだろう。
『っかぁー……なるほどな……』
「エンッ、まだ“終わってない”わよ! 寄って来てる!」
『ッ、そうだ。そうだった。……最後までっ、やるっ、ぞ、皆っ……』
俺の身体は既にボロボロだが、意気込み新たに膝を支えにして立ち上がった。そして仲間へと視線を向けた時、
「おぉい!? オメェ等ッ、ヤツをぶっ殺しちまったのか!?」
一人のドワーフが現れた。と、思えば2人、3人、更には続々と俺達を取り囲むように騎士や兵士、探検者が集まった。
『……はぃ? こ、殺、してません……け、……ど?』
「気配が無いどころか、死体も無い。……何をした?』
その内の一人が剣を向けながら近寄って来た。俺達を取り囲んだ人たちが皆、それぞれに武器を構え、いつでも攻撃に移れるといった気配を醸し出していた。
『え、いや、殺してないです! 魔道具で拘束しただけです!』
「それは、本当か? ――動くなッ! そのままで居ろ!」
不穏な空気から察するに、とんでもない事態になってしまったらしい。
この状況では迂闊に動けない。魔道具を使って説明することも難しいだろう。こうも疑いの目を向けられている状況では、幾ら弁明しようとも無駄な気もした。
だから、俺達は手枷足枷を掛けられようとも、大人しくしているしかなかった。
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