第18話
『ほいっ、とうちゃ……あ、先客がいるのか。……ぅぁ』
ボスフロアに転送されて見れば、白い神殿の門の傍、その一角に探検者の姿があった。リラックスして転送陣に乗ったはずが、初めての事態に緊張し、背筋が伸びる。探検者に初めてフロアで遭遇したということもあるが、学園のマークが入ったマントを着た人物が居たからだ。
学園の支給品、短めのマントの背中に目立つような刺繡が施されているのが、その目印だ。ダンジョン内で見つけやすく、他の探検者から万が一の場合に援助を受けやすくなるように、分かりやすい色合いであるが故、すぐに分かった。
『……学生だ、……それとー……』
先客が行くまで静かに待っていれば、何の問題も起こらないだろうが、柱の陰に隠れるようにして様子を伺って見れば、どうも学生は一人だけで、その他二名は教員と探検者みたいだ。その学生もイジメっこでも無いみたいだが、何をしているのだろう。指導されているのか、勇気付けているのか、よく分からなかった。
しばらく見ていても、ボスに挑戦する気配もない。それどころか、学生は少しずつ後退りしているようにも見えた。もしかすると、挑戦待ちではないのかも知れない。怖がっている学生を励ましているだけのようにも思えて来た。
『……行かないなら、先に行ってもいいかな……ここで隠れてても仕方ないし、聞いて見るか』
待ってる間に乾パンも食べきり、喉も潤し、疲れも感じなくなっていた。それに予習も頭の中で済ませ、想像だけでも、3度、ボスとの戦闘を繰り返し、既にやることも無くなっていた。つまり、飽きてしまう位には待ったのだ。さも何事も無いように平然とした心持ちと表情作りを終えた俺は柱の陰から出て、門の前まで進んで行く。
靴のかかとが乳白色の艶のある石の床を鳴らす。出来るだけ静かに歩いている時ほど、自分自身の耳には良く聞こえる。その音が、俺の鼓動に連動するように早くなっていく。もう手前まで近づいた時、その一団が俺に気付き振り向いた。
『……ぅ、ははっ、こんにちはー……先、いい、ですかー?』
何を緊張する必要があるのかは自分でも分からないが、ぎこちない挨拶と笑顔で声を掛ける。
「今日は。あぁ、すみません、お気になさらずに、お先入ってください」
「コ、こ、ん、にちはー……」
「うーっす、……おん? お嬢ちゃん一人か? まだ子供なのにやるなぁー……」
教員と学生が会釈して返してくれたが、腕を組み、壁に寄りかかっていた探検者が俺の事を見て、何やら感心して話しかけて来た。その言葉に傷つき、苛立ちながらも、当たり障りのないように心掛けて返答する。
『嬢ちゃんじゃないです。……一人です』
「おおぉ、すまんな……てっきり、いや、何でもねぇ。頑張れよ」
『はい、失礼します』
「ちょっと待ってくださらない? 君おいくつ?」
やっと扉へと進めると思った矢先、女性の教員が声を掛けて来た。扉へと向いた身体をそのままに、何だか嫌な気配を感じつつ、苦笑いの表情のまま、首だけを向ける。
『……12です』
「12歳ッ? で、一人で挑戦するの?」
『はい、そうですけど……もういいですか』
早く立ち去りたい俺を置き去りに、何やら女教員と探検者が相談をし始めた。待つ道理も、義理も無いのだが、何故か身体は強張り、固まったままで、動き出せなかった。
「あっ、ごめんなさいね。悪気はないのっ、そのー……貴方にお願いしたい事があるのだけれど、話だけでも聞いてくださらないかしら?」
少しだけ待って見れば、女教員が相談を持ち掛けようとして来た。ここで俺は無視して、そのまま行ってしまえば良かったという後悔が押し寄せていた。だがしかし、此処まで近づかれてしまえば、逃げようとしても袖でも首根っこでも掴まれて行かせてくれそうになかった。
『……とりあえずー、肩から手を放してください。……それと、手短に、お願いします』
笑顔の裏に隠された無言の圧力と、肩に乗せた有実の圧力を感じていては、逃げ出せそうにもなかった。
教員が学生の前で強盗など働くわけもないだろうし、犯罪を犯すような危険な誘いでもないだろうけど、もうこうなっては話だけ聞くしかないと、諦めて向き直る。
「良かった。ありがとうございます。えーと話というのはですね。私達と一緒にボス討伐をお願いしたいのです」
『……えっ? ここのボスってそんなに強いんですか? 聞いた話だと一人でも問題ないってー……』
ボス討伐の誘いを訝しんでしまう。沢山の飲んだくれ連中が言っていたことを思い出しながら、怪訝に首を傾げる。
皆が嘘を付いたとは思えないし、いい加減な連中ではあるが、命が掛かっている事までは、いい加減にしないだろう。それに信頼を置けるログさんからの情報も裏付けとしてある。
「ん、あーなるほど。私達は補佐として同行するだけよ。危なくならない限りは手出ししないわ」
『えーと、……どういうこと、ですか?』
「つまり、この子と一緒に、二人だけでボス討伐をして欲しいって事ね」
女教員に背中を押し出されるようにして、前へ出て来た女学生は恥ずかしそうに俯いていた。ローブを頭から被り、指先弄り回して、もじもじしている。
ボス討伐の提案を怪しくも思ったが、俺の歳を聞いてきたこともあって、心配してか、優しさからの提案なのかも知れない、と思い始めていた頃に、全く見当違いの持ち掛けであることが分かった。
『なんで、俺なんですか。……二人が居ればボスを倒せるんじゃー、……無いんですか?』
「この子、もうそろそろ卒業できるはずなんだけど、突破できないと留年しちゃうのよ」
『はい。……んん、……でも、卒業式って、つい、この前に終わったんじゃ?』
「そうよ。だから、猶予期間を過ぎてしまったら留年決定よ」
その女教員の言葉に反応を詰まらせていると、女学生はフードを深くかぶり直し、膝を抱えて座り込んでしまった。何だか、聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。知らなかったとはいえ、悪い気にさせてしまった。
『あー……すみません、配慮が足りませんでした』
「まぁ、それでね? 本当なら学生同士でパーティを組んで挑むのだけれど……」
女教員が此処まで言った時、嗚咽の様な音が聞こえて来た。女学生を見ると、肩を震わし、組んだ腕の中に顔を入れ、突っ伏して泣いているようだった。
その様子を見た女教員と探検者は交互に視線を送ると呆れたような顔を見合わせていた。
「ちょっとそれにも訳あって、この子、特殊なのよ。それ故にってのが大きいかな?」
『んーと、それはー……種族的にってことですか?』
「あぁ、違う違うっ、種族は鳥人族の血が少しだけ入ってるけれど、それとは別でー……言ってもいいわよね?」
蹲る女生徒に視線を移してみれば、静かに頷いていた。フードを被っているから、その見た目も分からないが、地雷を踏んでしまう事にならなくてすんだ。種族差別は争いの元にもなり兼ねない。そうして女生徒からの反応を得た女教員は驚くべきことを口にした。
「ボスと戦えば分かるだろうけど、この子、ユニーク持ちなのよ。それも結構、変わってる部類の」
『えッ? ユニークアビリティ?』
「そう。難しいと言うか、運任せと言うか、この子、自身もまだ扱い方も分かっていないのよ」
『な、なるほどー……』
何を言われた訳でも無いが、視線が泳ぐ。俺もユニークアビリティ持ちだとバレた訳でもないが、この女生徒の心情が痛いくらいに分かってしまう自分自身が居た。
「ってことなんだけど、悪い子じゃないのよ。何かあればフォローするし、お願いできないかしら? ……ほらっ、アンタも立ってお願いしなさいよっ、ほらっ、フード取ってっ、もしかしたらっ、今後もっ、パーティッ、組んでくれるかもっ、知れないわよっ」
女教員が嫌がる女生徒のフードを剝ぎ取らんばかりに引っ張り上げていた。力づくで揺さぶられる女生徒は成すがままだが、見ているだけで教員がこんな乱暴に扱っていいものなのだろうかと不安にさえなる。
「痛っ、お、ねぇちゃん……分かったかラっ、立つっ、自分で立つカラっ」
女生徒のか細い声が聞こえた。ふらつきながらも立ち上がり、身だしなみを整えて、また白い指先をもじもじとさせていた。音の無い間が続き、どうしたものかと思い、気まずさを和らげようと、なんと無しに女教員に話を振る。
『……お姉ちゃん? だったん……ですね』
「あー、そうそう。って言っても幼馴染だけどね。家が隣なのよ』
確かに言われてみれば女教員というより、近所のお姉ちゃんという間柄の方が、しっくりとくる。そう聞けば、先ほどの雑な扱いにも納得できた。
「しゃんとして」
自ら動き出そうとしない女生徒に、手が掛かる妹だわ、と言わんばかりの表情を向けていた女教師が言う。そうして女教員に促され、前に押しやられた女学生だったが、困っているのか、助けを求めるように後ろを振り返り見ていた。
「……ほら、もじもじしてないで、フード取って、自己紹介っ」
女教員に三度促された女学生は、ようやく、ゆっくりとフードを取った。すると、隠れていた赤い髪が流れ、俯きがちな琥珀の瞳へと覆いかぶさるようにして揺れ落ちた。
綺麗な髪の毛だ。俺がそう思って見ている間も、女生徒は沈黙していた。そうしてしばらくしてから女生徒は白い肌の頬を赤く染め、俺の反応を伺いつつも、目が合わないように逸らしながら、たどたどしい自己紹介を始めた。
「……コ、……ココ・ニニー、でス。……じゅ、15歳、で……ス」
「もおッ、アンタ美人なんだから、しゃっきりなさいなっ!」
「ぉ、ぉ、お姉ちゃ……、恥ずかしイ……カラ」
女教員に持ち上げられたココは顔を赤らめ、何やら抗議しているようだったが、女教員が言っている事が世辞ではないことが見れば分かる。
真ん丸な瞳、通った鼻筋、小さな口元、その顔立ちは石膏で作られたのかと思うほどに整っている。赤い髪が映える白い肌、それに白い羽が首筋と、耳の裏側から耳飾りの様に、ちらりと見える。赤い髪とは真逆の柔和さを兼ね備えた印象と、いうのが初めに思ったことだった。
『……あ、オーエン・スディと申します』
「ありがとう、オーエン君ね。私はアリア・ストリングス、そっちはエイル、弟よ。……で、どう?」
女教員のアリアが簡単に自己紹介を済ませると、薄緑の髪を払いながら、結論を俺に求めて来た。探検者のエイルが手を振って挨拶していたのに対して軽く会釈を返してから答える為に向き直る。
『いいで――』
「はい。なら、行きましょ」
『いやいやいや、まだ最後まで言ってないじゃないですかっ!?』
「いいんでしょ? あー、仲も知れた事だし、気軽な話し方でいいわよ」
『いやっ、いいけどもっ、違いまっ、ちょっと違うって!』
眉間にしわ寄せて、何を言っているのか分からない、と言うようにアリアはその表情だけで質問をしてくる。アリアの言う通り、俺の答えは間違っちゃいないが、条件を飲んでくれれば、という前提をまだ話していない。
「安心して大丈夫よ。報酬の分け前は必要ないわ」
『いや、そうじゃなくて……まずは一人でボスに挑戦させて欲しいって言おうと思ってたの!』
そういう訳ではないと言うことを分かっていて、尚、飄々と言い放つアリアに多少、苛立ちを覚える。
アリアは付け入る隙を与えてはいけない人なのかも知れない、と単純にそう思えば、何だか初めからしてやられた見たいで、語気を強めて主張してしまった。
「あら、勇敢なのね」
アリアのこの態度はどうしたものか。唖然と口を開けてしまう。いつの間に、というか、これ程までに短時間で、こうも距離を詰めて来る人間がいるものだろうか。
「……帰ってこなかったら、どうなるか分かるわよね?」
『え、なんで俺が脅されてるの? ……死なない限りは戻って来るよ』
「ふーん、なら、保険を掛けさせてもらってもいいわよね」
『それってどういうことなの……え、なんで、アリアさーん、ちょっと待って、なにしてんの?』
問答も済んでないにも関わらず、アリアは扉の前へ行くと何の躊躇もなく扉に手を当てて、そして押し開いた。傍若無人、自由奔放、暖簾に腕押し、糠に釘と俺の知る限りの四文字熟語と諺が途轍もないスピードで脳裏を過る。
「私は手は出さないから行きましょ、ほら、早く。ココとエイルは待ってて」
『勝手に進めて……え、ヤバい人なの? ねぇ?』
「私を知りたいの? うふふ、おませさんね」
その言葉に面食らってしまった。すると俺の喉からは息が詰まったような音が漏れ出た。そうしてこの人に揶揄われているのだと思うと、悔しさと苛立ちが混ざり合ったような感情がこみ上げ、歯軋りのような音と共に俺の口から空気の漏れるような音が出ていた。子供だと思って遊ばれているのかも知れないが、そう思えば余計に腹立たしい。
『ぐ……ぐぐ、……くっ、……すぅー、……はぁー、すぅー、……ふぅっー……。もういいです。ボス戦前に余計な煽りは止めてください』
「ココーっ、未来の旦那さん候補の実力、適うか見て来るわねー!」
『おぃぃぃッ! こっちは真面目なんだから! 黙っててよ! ちょ、ちょっとっ、うるさいっ、黙っててっ! 黙れって!』
折角、精神統一して、集中し直したのに、また気を散らされる。心構えを整えていても、何か言おうと干渉して来ようとしてくる。それを事前に止めても、顔で語って来るのが煩く思えた。
この人に取ってみれば、このフロアのボス位は余裕なのかも知れない。だが、俺に取っては大事な場面であることには違いない。だから、邪魔しないでもらいたい一心だった。
一先ず、扉の前で待つアリアを放って置いて、俺は目を瞑り、今一度、精神を安定させる。こういう場合には、予習の復習が効果的だ。飲んだくれが語っていた場面を思い出し、振り返ることにする。考えて居れば、それだけ思考も定まる。
『……予習、予習』
此処のボスは、鱗の生えた犬と呼ばれている。だが、聞く限りでは犬とは思えぬほどのサイズだったか。近接攻撃を得意とするが、炎の魔法攻撃を放ってくるから離れ過ぎるのも良くは無いと言う。背中に乗れば、振り落とされない限り、優位性を保つことが出来る。それから、それから……
『……よし、じゃあ行くぞ』
思い出しているだけでも、精神が落ち着いた。魔槍を握る手に余計な力も入っていない。そうして扉の前で待つアリアの隣まで、ボスの姿を見ないように頭を下げて行き、そこで一息付く。そして、一気に頭を上げて、中で待つボスの姿を視界へと捉える。
『……え、……古龍じゃん』
「違うわよ。あんなのドラゴンと呼べないわ。……いいとこモドキね」
アリアはそう言うが、似たような姿を見た事があった。空想上のそれとも違い、ゲームの中で見たモンスターの姿に似ているような気がした。
細く筋肉質な黒の体躯に、細かな鱗が生えており、その背中には艶のある翼までもが備わっている。それはコウモリの羽が生え、ヘビの皮を張り付けたような、多少、足の短いドーベルマンモドキのドラゴン種だった。
『コイツが、……スケイルドッグか』
実際に相対すれば、その威圧感は途轍もないものに思えた。寝そべっているだけで、俺の背丈よりも遥かに大きい。だがしかし、馴染み深いと言ってもいいあの興奮と、肌に焼き付くほど味わったあの緊張感が蘇るようで、俺の少年心は擽られ、踊るように跳ねていた。
『ぅぉおおおおっ! やべー、楽しみになってきた! あ、手出し無用だからねっ!』
扉の中へと引き寄せられる感覚に、身体が前のめりになる。
アリアへと釘を刺した俺は、次の瞬間、恐怖を感じることも無く、扉の中へと飛び込んでいた。その勇み行く足取りは、自分でも驚くほどに軽やかだった。
――【スロウ】【ファスト】
扉の中に入るとすぐ、俺はユニークアビリティを念じて発動させた。後ろから追いかけて来ているアリアに、俺がユニークアビリティ持ちだと気取られないようにする為だ。
俺たちの侵入に気が付いたスケイルドッグが、抗戦の意志をその咆哮で主張するが、俺は怯むことも無く、ただ真っ直ぐに突き進んでいく。すると、スケイルドッグは両翼を羽ばたかせ、尻尾をくねらせ、唸りながら姿勢を低く取った。
――来たッ!
接近するや否や、繰り出される左前脚での薙ぎ払い攻撃。攻撃の瞬間、右足を僅かに前に出し、頭が攻撃方向へ揺れる。その予備動作も、見慣れたモンスターのモーションと似通っていた。大振りで、隙を生み出してしまうその攻撃を、左斜め前方に入り込むようにして避ける。
俺を心配するアリアの声を置き去りに、スケイルドッグの左前脚とすれ違い様に飛び込んだ俺は、踏ん張ったままの右前脚に魔槍の連撃を見舞う。散る鱗、飛沫が舞い、赤い線が跡となる。
攻撃を嫌がるスケイルドッグは右前脚を上げ、振り払うように反撃してくるが、それすらも読めていた。予め、注意を払っていた噛みつき攻撃も、カウンターで返す。そうして、スケイルドッグに張り付いて攻撃し続けていれば、後ろへと飛び退いて立て直そうとするのは、もはや必然だと言えた。
――これこれこれッ! これだよコレッ!
行動予測、攻撃予想が的中して、懐かしい思い出が実感として蘇る。それは高々ゲームであったが、ダメージを貰わず、尚且つ、最速での討伐を目指し、幾度と挑戦し、苦悩を重ねた記憶だった。そして今は、想像していた光景が目の前にあることに喜びを感じ、戦闘中であるというのに、湧き上がる歓喜に震えそうになっていた。
視覚、聴覚、触覚、それに嗅覚までも思う存分に感じることが出来る。鱗が剥げ、傷が残り、血を流し、苦痛の声を上げ、焦り、怒り、戸惑い、モンスターの感情までも手に取るようにして分かる。その一切合切が、その全てが、現実であるという喜びだった。
突き、払い、薙ぎ、転がし、しがみ付き、背に乗り、特定箇所を攻撃し続けて、怒りに狂ったスケイルドッグの炎の息吹を潜り抜け、ぶら下がっているだけの尻尾を切り飛ばし、頭部狙いの攻撃を執拗に浴びせ、そうして気が付けば、スケイルドッグは地に伏せていた。
――あぁ、もう終わってるのか。
祝福のファンファーレが響くことは無かった。終わりの知らせでもあるファンファーレを思い出していると、その代わりに背後からアリアの声が聞こえて来た。
「……オーエン君? ……貴方、本当に……12歳、なの?」
その声に振り返れば、アリアの俺を見る目が違っていた。子供だと軽んじていたのだろうが、今は何やら訝しむように目を細めていた。
アリアからして見れば、黙々と、嬉々としてモンスターを打ち据える俺の姿は普通の12歳の少年とは違って見えたのだろう。えも言われぬような違和感を覚えるのも無理はないのかも知れない。
『えっ、13、いや、15歳くらいに見える? それって大人っぽいってことっ!?』
アリアが疑うのは、さもありなん、と言ったところだろう。だからこそ、敢えてお道化て見せた。子供らしさを演じて来た12年の成果はあったのだろう。ジレンマを感じつつも、笑っている内に、アリアの緊張が解けたような気がした。
そうしてボスの戦利品を回収してから、アリアと二人で、ココとエイルの待つ、待機フロアへと戻る。
魔槍に餌をやりたかったが、アリアが居る手前、餌やりは諦めることにした。根掘り葉掘り聞かれるのも、これ以上疑われるのも得策ではないと思ったからだ。
入って来た扉に手を添えて、アリアの後ろから待機フロアに戻ると、門の傍にいたココとエイルが、労いの言葉を掛けつつ、出迎えてくれた。
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