第4章 がむしゃら上等! ③
数日後。アイディアは唐突にひらめいた。
きっかけは、本部での駆除の待機時間に聞いた美穂子先輩の言葉だ。
「任務とはいえ、いちいちGの家を訪ねて潰してまわるのって、手間かかるよね。何か効率いい方法ないのかなぁ?」
同じテーブルについていた竹地と宮野から「それな」「わかる」と賛同の声が上がった。
翔真が「じゃあ例えば…」と考える。
「Gが電車乗ろうとするのを待って、電車が入ってきたタイミングでホームから突き落とすのとか、どうッスか? 背中押すだけですむし」
竹地と宮野が笑う。
「それまでずっとストーカーしてまわるのか? えらい時間かかんじゃん」
「だから駅におびき寄せるとか、追い詰めるとか、何とかして乗るよう仕向けて――」
「ムリムリ。あいつら、すっかり世間を警戒して引きこもってるから、簡単に出てこねぇって。家に押しかけて引きずり出すほうがよっぽど効率的だよ」
「だいたいその方法だと電車を止めちゃうでしょ? ダイヤ乱れちゃうじゃない。人の迷惑考えなよ」
美穂子先輩はダイヤ乱れが嫌いなのか、本気でいやそうな顔をする。
「あぁ…まぁそうッスね」
翔真が肩を落とす。俺はその肩をたたいた。
「それだよ――」
みんなの顔を見ながら、思いついたことを頭のなかで吟味する。
(あぁ、これなら行けそうだ)
考えをまとめると、その場でみんなに説明した。それを聞いた班員全員が「それだ!!」と声を出す。
「アリ。アリだよ、それ。大アリ!」
「すげぇ…。その発想はなかった」
「――――」
その瞬間、それまで話を聞いているだけだった中井先輩が立ち上がり、俺の腕をつかんだ。
「行くぞ」
「え?」
先輩は、そのまま俺を引きずるようにして歩き出す。エレベーターに乗り込み、地下三階のボタンを押した。
「せ、先輩、そこは…っ」
「いいから」
地下三階でドアが開くと、俺の腕をつかんだまま、昨日ちょっとだけ盗み見た部屋のドアをノックして、堂々と入って行く。
「英信、ちょっといいか」
英信はよく、プライベートで班長達を連れ出して遊ぶらしい。中井先輩も常連のひとり。だからこんなふうに、直で話せる。
部屋の中には、昨日と同じく〈生徒会〉の幹部が勢ぞろいしていた。
赤い髪のチャラ男、遊佐英信。
硬派な細マッチョ、城川崇史。
イケメン眼鏡の小清水響貴。
見た目からはドSなんて想像もつかない最強アイドル、藤ノ音結凪。
色白小柄な中学生、榊亜夜人。
楕円のテーブルについて何かを話していた五人は、ふいの客の登場に口を閉ざして、いっせいにこっちをふり向いた。
会議は好きじゃないのか――いまいちやる気なさげに、椅子の背に片腕をかけて座っていた英信が、だるそうな目を向けてくる。
「中井? どうした?」
「うちの新人がおもしろいこと言い出したんで、聞いてほしいんだ。俺はいいアイディアだと思う」
「へぇ?」
英信は椅子の背にもたれかけていた上体を起こし、俺に促してきた。
「なに?」
「…あの、なんとか効率よく駆除ができないかって話をしてて、それで思いついたんですけど…」
全員の視線を浴びて、緊張しながら、俺は立ったまま説明する。
インターネット上の〈西系〉のコミュニティに、〈西〉の抵抗勢力が秘密的な会合を開くという情報を流す。まだ小規模なグループなので、仲間を増やして〈愛国一心会〉に合流したいって感じで。
会合場所として、絶対に人目につかない場所を指定。そこにGを集め、秘密的な会合を開くと見せかけ、いっせいに駆除を試みる――。
俺の話を、英信以下、幹部達はわりと好意的に受け止めた。
「確かにいい考えだ。確実に駆除しなければならないGだけが集まる」
「おまけにこの先、地下活動をしようっていうGの意気をくじくことにもなる」
「世間に対して、本当に地下活動してるGがいるってことを証明することにもなるね」
「死骸の処理もまとめてできて、後片付けも楽そうだわ」
「すごい。あらゆる方面に都合の良い計画だよ。思いついた人、最高! それにくっそ性格悪い」
榊亜夜人の言葉に笑いが弾ける。
「よし、やろう! いいよな?」
英信が周りを見まわすと、みんな手を挙げて支持を表明した。よし、と俺はこぶしをにぎる。
「相当大がかりな計画になると思うけど、誰がやるの?」
結凪の問いに、英信はニッと笑った。
「そりゃもちろん――斗和」
「はい…」
「言い出しっぺだからな。おまえがやるんだ」
「はい!?」
思いがけない指名に語尾が跳ね上がる。
「ゆうても新人だからー…響貴、それから亜夜人、手伝ってやれ」
「わかった」
「はーい」
ぽかんとする俺の前で、英信は最後に中井先輩に言った。
「中井、ひとまず斗和はこの計画に専念させる。いいな?」
「あぁ。うちは人数足りてるし問題ない」
答えた後、中井先輩がぽんと背中をたたいてくる。
「よかったな」
「――――…はい」
事態についていけず、ちょっとぼう然とする気持ちはもちろんあった。でも。
一気に周りの環境が変わっていく予感と、そのことへの期待と興奮も、確かにあった。
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