第4章 がむしゃら上等! ②
赤い髪のチャラ男はニヤッと笑い、腕を組んでみんなを見まわした。
「いいか? おまえらも組織にでっかく貢献したら、そんな感じの大抜擢が待ってるからな。きばれよ!」
明るい激励に、はい! と全員が声を重ねる。
そのままそこを通り過ぎようとした英信は、俺を見てふと足を止めた。近づいてきて、緊張に固まる俺の肩に腕をかけてくる。なんかめっちゃいい匂いに包まれた。
「斗和、おまえ入ったばっかなのに、メチャクチャがんばってくれてんだってな」
「え…俺の名前――」
一対一で話したのは、最初の集会のときだけ。なのに俺のことを覚えていたのか。
息を呑む俺に、英信は種明かしをした。
「中井が話してたんだ。自分の班にすげぇ熱心な新人がいるって」
「あ、…――」
なるほど。
生徒会で偉くなるためにどうすればいいか考えた結果、熱意をアピールする以外にないと考えた。それで、班長に言われたことはもちろん、死骸の運搬や、片づけなんかを率先してやったのだ。
おかげでスタンガンでゴキブリの意識を奪うのは、今や毎回俺の仕事になった。百発百中。絶対に失敗しないから。
『最初っからこんなに迷いなくできるヤツ、なかなかいない』
中井先輩は、そう言って褒めてくれた。
それを思い出していると、英信が俺の顔をのぞきこんでくる。
「班長になりたいのか?」
何気ない問いに、俺の中で緊張が走った。
(今だ! ここだ! やる気アピール!)
噴き出す下心を押さえ込み、深呼吸して答える。
「…一匹でも多くGを潰して、この国と、家族のために安全を取り戻したい。それだけです」
模範解答をかまずに言いきってホッとする俺の横から、翔真も身を乗り出してくる。
「おっ、俺もッス! 集会のときの英信のスピーチに、俺、めっちゃ感動して、なんかビリビリきちゃって…!」
「そーかそーか!」
英信は上機嫌で翔真の肩にも腕をまわす。
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! おまえらふたりとも未来の幹部候補な!」
(よっしゃ――!)
翔真と目を見合わせ、内心ガッツポーズをした。
「さぁ今夜も元気に行ってこい!」
身を離した英信に背中をたたかれる。
時計を見ると一九時だった。そろそろ今日、駆除に出る班がミーティングを始める時間だ。
いつの間にか人も増えている。そしてうちは今日は非番だった。
「俺そろそろ帰るわ」
声をかけるも、翔真はもう少しここにいるって返事だったので、とりあえずひとりでエレベーターに向かった。
〈生徒会〉が占有する地下の三階部分のうち、一階がここ――みんなの集まる食堂。
地下二階に事務の作業部屋や、打ち合わせをする会議室、班長たち専用の休憩スペースがある。
今、中井先輩はそこにいるはずだから、挨拶して帰ろう。どんな時もやる気アピール。
そんなことを考えて、やってきたエレベーターに乗った瞬間、茉子からLINEが来た。
『お母さんが、具合悪いって帰ってきた』
『なんかしんどそう。お兄ちゃんも早く帰ってきて』
メッセージを確認している間にドアが開く。降りて、なんか変だと気がついた。
地下二階の景色じゃない。あわてて階の表示を見てぎょっとする。
地下三階――原則班長以上じゃなきゃ立ち入ることのできない、幹部専用の階だ。その班長だって、用がある時以外は立ち入らない。
(やば…っ)
あわててまわれ右をするも、エレベーターのドアはすでに閉じている。俺は急いで上のボタンを押した。
(どうか誰も廊下に出てきませんように――)
祈りながら待っていると、近くの部屋から声が漏れ聞こえてきた。
「英信はまだか?」
城川の声だ。知らない声が答える。
「さっき食堂で見ましたけど…。新人にスピーチ褒められて、上機嫌で未来の幹部候補だとか言ってましたよ」
その報告に、二、三人の笑い声が重なった。見れば、ドアが半分開いているんで、けっこうはっきり聞こえる。
「ほんっと単純なんだから…」
呆れたような女の声は、結凪だ。
「その場のノリで何でも言っちゃうから、響貴もフォローが大変ね」
それに、穏やかな落ち着いた声が答える。
「慣れてるよ。それに、その単純さがみんなに好かれてる点でもある。リーダーはやっぱり人気がないと」
首をのばして、そっと部屋の中をのぞくと、発言したのは総務担当のイケメン眼鏡だった。
その後に情報担当の、〈生徒会〉唯一の中学生――男にしては細い声が続ける。
「幹部がインフレ起こさないよう、僕らがコントロールすればいいんだ。問題ないよ」
部屋の中でまた笑い声が響く。その時、エレベーターが到着して目の前のドアが開いた。
俺はすばやく乗り込んで閉めるボタンを押す。動き出したエレベーターにホッとしながら考えた。
会長っていっても、英信には絶対的な権限がないのかもしれない。さっきの感じだと、幹部にするかどうかも、英信の意志だけじゃ決められなさそうだ。
(てことは、手っ取り早く出世するにはやっぱ、みんなにわかる形で何か大きなことをしないと――)
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