第2章 やられる側よりは、やる側のほうが…? ③
さっき駅で見かけた〈生徒会〉の人、カッコよすぎて目が合ったときキュン死にしそうだったぁぁ!!!!
〈生徒会〉の制服着てるだけで三割増しイケメンに見えちゃうよね❤
♯
〈生徒会〉が組織としてどんどん大きくなっていくのには、
♯
コンビニ前に〈生徒会〉の人たち集まってた! ゴキブリ発見したっぽい
4人で囲んでたから、もうあの害虫生きてないと思うwww
♯
唐京〈生徒会〉、発足から三ヶ月おめでとうございます!
活動を続けてくれて、いつもわたし達を守ってくれてありがとう!
これからも応援していきます!
♯
仕切ってる子達がみんな顔面偏差値高いのも〈生徒会〉の人気の理由だろうね。若い子はあんまり主義思想とか深く考えてなさそう。人の注目と支持を集めるには、やっぱ見た目が大事。
♯
ゴキブリは全てが気持ち悪いまじ死ね消えろ
ほんまにちょーしのんな
生きててもしょーがないじゃんか
仕事クビにしないでって土下座までするとか鬱陶しいわ、意味わからん。
うちの職場のゴキブリも〈生徒会〉に駆除されてくんないかな
♯
〈生徒会〉ってようするに人殺しの集団なのに、なんでみんなありがたがってんの?
私は絶対関わりたくない。学校に〈生徒会〉の子何人かいるけど避けてる。あの人達を応援する生徒が多すぎてほんと怖い。
♯
ファッションは一周まわって新しくなる。古いものも、現代的なアレンジを加えて出されると目新しいものとしてもてはやされる。今、若者の間で前時代的な全体主義が流行っているのもそういう事象だろう。〈生徒会〉人気はその極端な一例だ。
♯
なんで〈生徒会〉叩く人いるの? 誰よりもみんなのことを思ってるし誰よりも一生懸命だし誰よりも輝いてるのに!!!!
※
高校に入学してからの通学の風景は、これまでとはまったくちがうものに感じた。
たとえば駅のポスターは、「こんなときは匿名通報! 〈西〉出身者の不審な動向についての情報提供にご協力ください」って感じだし、売店前の週刊誌の広告にも、どぎつい記事の見出しが躍っている。
『この国を破滅させる〈西〉過激派と〈東〉売国奴』
『人間失格! ゴキブリを見分ける10の方法』
『〈西〉の侵攻に備えよ! Xデー完全シュミレーション』
よくよく注意して見れば、テレビもネットもSNSも、そんな感じだった。
今まで通学中はゲームをしたり、動画を見てるだけだったから、全然気づいてなかったけど。
(ヤな流れだな、これ――)
五月。GW明けの電車の中で、憂鬱な気分でスマホのニュースを見てると、肩をたたかれる。
「斗和!」
「おはよー。どうしたの? 難しい顔して」
ふたつの明るい声は、
翔真は中学時代のバスケ部仲間。俺より背が高くて、明るくて、女に愛想がいいから時々モテてる。
千春は翔真の幼なじみ。肩まである髪はストレートで、委員会なんかもやっちゃう優等生。
キャラ的には、翔真がシンプルにバカで、千春がそれをフォローしてる感じ。といっても翔真はただのバカではなく、バスケがうまいバカだ。
ふたりは同じマンションに住んでるんで、ちょいちょいいっしょに登校している。
翔真はスマホを俺に見せてきた。
「ちょ、これ見て。
それはアイドルの
教室の中で、こっちに向けて手を振っている――っていうポーズ。
有史以来最強って言われるアイドルが身につけているのは、〈生徒会〉の制服だった。それも、幹部の証である深紅のジャケットだ。
彼女が〈生徒会〉の広告塔なのは有名な話。カメラに向ける笑顔は文句なしにかわいかった。
毎日彼女の写真をチェックしてる翔真に、「すげーかわいい」って笑ってうなずいてたはず。…一ヶ月前までなら。じいちゃんが死ぬ前なら。
でも今は笑えない。赤いジャケットの左胸にある、〈生徒会〉のエンブレムに不安をかきたてられる。剣と天秤。意味するのは力と正義だって、テレビで言ってた。
「なに、どうした?」
反応の鈍い俺の顔を、翔真がのぞき込んでくる。
千春が「やめなよ」ってたしなめた。
「趣味は人それぞれでしょ」
あきれたように言ったところで、彼女を呼ぶ声がする。少し離れたところで同じクラスの女子が手を振っていた。
千春がそっちに行くと、翔真がふてくされたように言う。
「結凪は誰が見てもかわいいよな?」
「それは認める」
「なんで上から目線なんだよ。結凪の水着写真見てひれ伏せ」
翔真がスマホをいじると、俺のスマホがメッセージ着信の音を出した。
「勝手に送んなよ!」
笑って、しばらく普通にしゃべった後で、翔真が少し言いにくそうに切り出してくる。
「あのさぁ…実は今の部活の先輩が、〈生徒会〉メンバーなんだけど…」
「え?」
俺は高校でバイトを始めたから部活はやってないけど、翔真はバスケ部に入部した。
「うちの学校のバスケ部に〈生徒会〉の人が…?」
「うん、三年生。その先輩から聞いたんだけど…今夜、ライブスクエアで唐京本部の集会があるんだって」
「…めっちゃ近所じゃん」
ライブスクエアはイベントスペース。オールスタンディングで百人以上入るんで、よくアマチュアバンドのライブや、町内レベルのパーティーに利用されてる。
俺もサッカーの国際試合のパブリックビューイングを見に、何度か行ったことがある。
「興味あんなら来いって誘われててさ。斗和も、いっしょに行かねぇ?」
「…マジかよ…」
突然の誘いに声が詰まる。いきなり〈生徒会〉と接点ができて、けっこう動揺した。
(〈生徒会〉? 俺が?)
いくら世間的に人気があるっていったって、〈生徒会〉はあんまり一般の人間とは縁がない。一般人にとっては関わりたくないのが普通だと思う。
駆除に参加するなんて、元々ちょっとアレな連中にちがいないし。
でも翔真は前から、生徒会に少し憧れてるふしがあった。
アイドルなのに幹部をやってる藤ノ音結凪に。誰が着てもイケて見える制服に。それを着て、肩で風をきって歩くメンバー達の姿に。でも――
「…おまえ、駆除できんのかよ」
俺が訊くと、翔真は気まずそうな顔になる。
「知らねぇけど。…でも、誰かがやんなきゃなんねぇことなんだろ?」
「あんな理屈信じてんのかよ」
俺の反応に、翔真は短いなりにセットした髪をぐしゃっとかきまわした。
「あー…いいや、やっぱひとりで行く。先輩もいるし」
「集会って何すんの?」
「さぁ」
「知らねぇのかよ!」
「活動そのものにはそんなに興味ないっていうか…」
「おい」
呆れる俺の肩を、翔真はがっしりつかんで揺さぶってくる。
「しょうがないだろ! 結凪、握手会には参加しない主義だし! コンサート会場はドームだし! 一度でいいから近くで見たいんだよ! ライブスクエアなんて、下手したら結凪から十メートルくらいまで近づけるかもしれないじゃん。もう行くしかねぇだろ…!」
大きく揺さぶってくる相手を、邪険に振り払った。
「アホか。代償がヤバすぎんだろ」
「べつに集会に参加したからって、すぐ入会ってわけじゃないから。いちおう審査みたいのあるらしいし」
「…そうなの?」
「あぁ、だから本気でヤバかったら逃げるって」
「――――…」
冗談だろ、絶対関わりたくないって気持ちが四十パーセント。ちょっとのぞくだけなら…って気持ちが八パーセント。こいつホントにバカだなって気持ちが五十パーセント。
残り二パーセントで、わずかに気になることがあった。
(唐京本部って…横羽磨でじいちゃんを駆除した連中とはつながってんのかな…?)
どうやって危険な〈西系〉を見つけて、駆除しているのか…知りたい気持ちがないわけじゃない。
だってもしかしたら――俺だって無関係じゃないかもしれないし。
(でもなー。ホントにのぞいただけで、やっぱナシで! ごめん! って逃げられるもんなん?)
やってることを考えると、そんなに気楽な組織とは思えないんだが。
好奇心と、警戒感との狭間で心がゆれる。
期待のこもった目で見てくる翔真に向けて、やっぱり即答はできなかった。
「…わり。やっぱ考えさせて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます