1-10.【Side:イザベラ】後天的な技術持ちは先天的な才能持ちの暴走を憂える
わたしの姉上は、類い希なる才能を持っている。
独学だけの怪しげな読み書きと簡単な計算がせいぜいのわたしとは違い、王立学校で二年間ずっと首席を維持していただけあって、教養も高い。
知識量だけではない。頭の回転が速く、すぐに結論に至ることができる。
わたしから見ると、雲の上の存在だ。
さらに、先天的な才能があり、通常の人には決して使えないことを可能にする。後天的な努力のみでもろもろの技術を何とか修得したわたしとは、違う立ち位置にいる。
でも、才能というものは、それを持っている者を祝福するとは限らないし、破滅へ導く可能性もある、劇薬だ。
才能は、必ずしも芽吹くものでは限らないし、それは残念なことだが、だからといって、その者から幸せを奪うわけではない。そもそも、どんな才能があるかなんて、知らないまま一生を終える人の方が多いだろう。
問題なのは、才能のある者が、それを使うことで、自分に、周囲に、悪い結果をもたらすこと。
そして、才能に富んでいれば、その分だけ、影響は大きくなる。負の影響が強くなってしまえば、災厄を招き、目を覆うばかりの悲劇につながることも考えられる。
わたしの目には、今の姉上は、そういう状態になりつつであるように見える。
何より、あの危なっかしい信念というか理念というか、それのせいで、危険な領域へ何のためらいもなく突っ込んでいくのは、蛮勇としかいいようがない。
結果に至る方法も、周囲の反応も、一切お構いなしに。
そんな姉上が、さらなる力につながる物を持とうとしている。よいのだろうか。
まして、王太子殿下にアプローチをかけるですって?
恐らくは、あの術を使ったのだろうけれど。
冗談ではない。この国を滅ぼすおつもりなのだろうか。
殿下の将来なんてどうでもいいが、愚にも付かない事情で混乱を起こすことの意味を、わかっておいでなのだろうか。
おわかりになっていないのだろうな。
はあ。
もう少し、思慮深さがあれば、よいのだが。
おかげで、怪しげなお誘い、うさんくさい贈り物、下心丸出しの縁談、そんなのが、毎日のようにやってくる。
姉上の手に届く前に、地道にたたきつぶしてはいるけれど。
妹として、務めを果たせていないと思う毎日。
幼い頃から、わたしが、引いた立場を取り過ぎていたためかもしれない。
厳しくも、人がどのように生きるかを教えてくださった、叔父上。
優しく、自分の成長を手助けしてくださった、母上。
奇しくも、お二人とも、いまわの際に、同じ事を仰いました。
レオノーラを、頼む、と。
レオノーラお嬢様を、支えてあげて、と。
申し訳ございません。
イザベラは、期待にこたえられているとは、ともていえません。
でも、姉上を邪悪な意志から、お守りいたします。
例え、ご本人から、蛇蝎の如く嫌われようとも。
この体に刻まれる傷が、どれだけ増えようとも。
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自己評価が極端に低く、不安症気味のイザベラですが、実際には義姉よりずっと頭がいい女性です。
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