第44話 新たな同行者


「で、改めて聞くが……これから、こいつをどうするつもりだ?」


 俺はフィーコが拾ってきたミミックを見ながら尋ねる。

 さすがに、ペット目的で信用できない魔物をつれて行くわけにはいかないが、


『そうね……』


 フィーコが真面目そうな顔で黙考したあと。


『……やっぱり、“ミシェリーヌ”って名前にしようと思うんだけど、どうかしら?』


「そんなことは聞いてない」


「……み、みしぇりーぬ」


「しかも、めちゃくちゃ嫌そうな顔されてる」


『え……あ、うん。そ、そうよね……もっと真面目に考えるわ。べつに、今のネーミングはまだ本気出してなかったし』


「涙ふけよ」


『う、うるさいわね! なら、あなたが考えてみなさいよ! いい名前出さなかったら、ミシェリーヌで決定だからね!』


「……えっ」


「いや、べつに“ミミタロウ”とか“ミミスケ”とかでいいだろ」


「あ……ミミスケがいいのです! ……ミシェリーヌになるぐらいなら」


『く、くぅ……なら、ミミスケでいいわよ……! はい、拍手!』


 やけくそ気味に拍手するフィーコ。

 というわけで、ミミック少女は“ミミスケ”と命名されたのだった。


「で、このミミスケはいつ殺すんだ?」


「ふへっ!?」


『くっ! さりげなく、“もう仲間になった感”を出してたのに……!』


「いや、なんと言おうが、さすがにペットを旅につれて行くのは無理だぞ。俺はペットを飼うなんて断じて認めないからな」


『じゃあ、いいわよ! 勝手につれてくから!』


「なら、俺も勝手にそいつを殺すが」


『なら、そのたびに蘇生させますぅ!』


「あ、あのぉ……ボク、あんまり殺されるのは嫌なのですが……」


『ミミスケの意思は関係ないわ』


「あ、はい……」


『それに、よく考えてみなさいよ。“王”の支配下にない高レベルの魔物っていうのは、かなり貴重よ。ミミスケの擬態能力も、これから魔界と戦争するうえで役に立つと思うわ』


「そう言われてもな。“王”を殺したい願望があるならともかく、無理やりつれて行っても裏切られるだけだろ」


「ま、魔界と戦争……“王”を殺す……?」


 ぽけーっと傍観していたミミスケが、目をぱちぱちさせる。


「え、えっと……あなた方は、いったい……」


『ああ、自己紹介が遅れたわね。わたしは美しすぎる七公爵こと、フィフィ・リ・バースデイよ』


「う、美しすぎる七公爵……!?」


「さりげなく盛るな」


『で、こっちが人間のテオよ』


「……あ、そっちはどうでもいいのです」


「扱いの差がひどい」


 それにしても、七公爵というのは、野良の魔物の間でも威光がとどろいているらしい。

 ミミスケがさらに萎縮する。


「で、でも、どうして……七公爵のフィフィさまが、人間なんかと……?」


『ある目的のために、今は休戦して手を組んでるのよ』


「目的……?」


『そう、わたしたちの旅の目的は――“王”の討伐よ』


「ふへぇ、“王”の討伐……って、ふへぇっ!?」


 ミミスケは目を丸くしてから、感心したようにフィーコを見る。


「お、“王”って、たしか世界最強の魔物ですよね……? ふ、ふへぇ……す、すごいのですね、フィフィさま……」


『なに他人事みたいに言ってるの? これからは、あなたもこの“王”殺しの旅について来るのよ?』


「ふへ……? あ、あのぉ……ボクはただ、ひっそり平和に生きたいだけなので、そういう危ないのはちょっと……」


『ついて来ないなら殺すわ』


「まあ、また敵になったら面倒だしな。よし殺そう」


「ご、ごめんなさいぃ、嘘ですぅ……」


 わりと気の毒なやつだった。


『それに、ミミスケにもちゃんとメリットはあるわ』


「……え?」


『あなたは人喰山脈として、ずいぶんと魔物も食べているでしょう? 人喰山脈の化けの皮が剥がれた今、あなたも魔界で指名手配されることになると思うわ。このままじゃ、捕まるのも時間の問題ね』


「つ、捕まったら、どうなるのですか?」


『殺される――だけなら、いいのだけどね』


 フィーコは顔を伏せると。

 それを口に出すことすら恐ろしいというように、声を震わせて言う。


『最悪の場合……責任のある立場を押しつけられて、毎日朝から晩まで8時間みっちり働かされることになるわ』


「ひ、ひぃぃ……! な、なんて、むごい……!」


「…………そうか?」


『だからこそ、わたしは“王”を殺して、新たな“王”になる。そして――わたしとあなたが働かなくていい新世界を創ってみせるわ!』


 ……志が高いんだか低いんだか。

 しかし、ミミスケの心には響くものがあったらしい。


「は、働かなくていい新世界……」


 ミミスケが反芻するように呟く。


「そ、その世界では……ニートや引きこもりは赦されますか?」


『当然よ。このフィフィ・リ・バースデイが全て赦すわ』


「……っ! ふぃ、フィフィさま……! どこまでもついて行きます……!」


 感涙するミミスケ。一瞬で洗脳完了していた。

 ……こいつ、ミミックのくせに騙されやすすぎじゃね?


『さぁ、一緒にわたしを讃えましょう! フィフィ様ばんざい! フィフィ様は美しい!』


「フィフィさま、ばんざい! フィフィさまは美しい!」


「…………俺は、なにを見せられてるんだ?」


 というか、俺はまだミミスケをつれて行くことを了承してないが……。


(まぁ……この分だと、すぐには裏切らないか)


 なんだか、話をはぐらかされた感じもあるが。

 そんなこんなで、俺の旅にもう1匹の敵がついて来ることになったのだった。

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