魔剣レベルイーター
第43話 肉パーティー
俺はそこら中に落ちているミミックの肉で、さまざまな肉料理を作っていた。
「くくく……久しぶりの“肉パ”だな」
“
やはり、冒険に活力を与えてくれるのは――飯だ。
セイレーンの町の戦利品に、調味料があってよかった。
液体のものは音が鳴るし持ち運びに不便なため持ってこれなかったが、固形蜂蜜にバターに生姜に胡椒など基本的なものは手に入った。
これだけあれば、多種多様な肉料理を作ることができる。
というわけで、焼いた石にタレをつけた肉を並べて焼いていると。
『おまたせ~』
用事だとか言って席を外していたフィーコが戻ってきた。
「お前、どこ行って……」
と、顔を上げたところで固まる。
やって来たのは、たしかにフィーコだった。
しかし……なにかがおかしい。
フィーコはとんとんとん、と弾むような足音とともに俺の前まで来ると。
「あっ、これが今日のご飯ね! いっただきま~す!」
「…………」
そのまま、串焼き肉にかぶりついた。
「びゃあ、うまぴゃあぁ~……! なにこれ、いつもと味が違う! 肉なのに肉じゃないわ! こんなの食べたことない! テオ、これをもっとよこしなさ……って、なに? なんで、無言でわたしのほうに指を向け……」
「――
ぱん――ッ! と。
フィーコの“肉体”が破裂四散した。
『びゃあぁあああ――ッ!?』
フィーコ(霊体)が、たまらずといったように肉体から飛び出てくる。
『なんで、いきなり殺すのよ!?』
「いや、お前……それは、なんだ?」
落ちているフィーコの死体を指差すと。
フィーコがぎくりとしたように目線を泳がせる。
『え……えー? これは、さっきミミックのお腹の中で見つけた、わたしの体(美しい)……みたいな?』
「なるほど……それがお前の体なのか」
『ふぇ?』
見れば、四散したフィーコの死体がうねうねと動きだし、1か所に集まるように形を変えていく。
『ああっ!? わたしの体がなんか気持ち悪いことに!?』
「……お前、それはなんだ?」
『な、なんのことかしら?』
フィーコが拾ってきた猫でもかばうように、そのうねうねする生肉を背中に隠す。
『ここには、なにもないわ! なんにもいないったら! あ、ダメ! 出てきちゃダメよ!』
「……おい」
『な、なにかしら……?』
「なに、お前……ミミックを生き返らせてんだ?」
『ぎ、ぎくぅぅうっ!? 完璧な計画だったのに!? なんでバレたの!?』
「お前がアホだからだ」
ペットとして気に入ったのか、それとも自分の肉体の代わりになると考えたのかわからないが……。
さすがにミミックに復活されたら脅威になる。
とくに今は、体力も魔力もほとんど残っていない。
「……ちっ、面倒なことを」
剣を鞘から抜き放つ。
「早くそいつをわたせ、フィーコ」
『い、いやっ! この子はなにも悪いことしてないわ! ただ、まんまと騙された愚かな餌どもを、嘲笑いながら食べていただけよ!』
「真っ黒じゃねぇか」
というか。
「そもそも、お前霊体だし、どかす必要なかったな」
『……っ! そ、その手があったわ!?』
フィーコをすり抜けて、ミミックの側に立つ。
(……ミミックが仕掛けてくる前にまた殺す)
そう思いながら、剣を振りかぶったところで。
「……ぁ……あ」
ちょうどミミックの変形が終わったらしい。
そうして現れたのは、怯えた小動物みたいな少女だった。
大きなマスコットみたいな帽子の下にある目をうるませながら、懇願するように俺を見つめてくる。
「――ぷ、ぷるぷる……ボク、悪いミミックじゃないですよ?」
俺は、ためらいなく剣を振り下ろした。
◇
「…………で、だ」
ミミックをまた殺したあと。
俺はげんなりしながら話を切り出す。
「せっかく殺したのに、また生き返らせて……どうするつもりだ?」
「……人間怖い、人間怖い、人間怖い」
俺とフィーコの前にいたのは、がたがた震える少女だ。
先ほど遊園地の擬態の中に出てきた少女と見た目は同じで、小動物のマスコットみたいな雰囲気がある。
さっきの人喰山脈バージョンとは、えらい変わりようだ。
ビフォーアフターの落差がえぐい。
『もう、テオがまた殺すから、完全に怯えちゃったじゃない』
「そりゃ殺すだろ。魔物だぞ? 魔物は消毒だ」
「ひ、ひぃ……」
『よ~しよし。怖かったわよね~。でも、この“魔物絶対殺すマン”と違って、フィフィ様は怖くないし美しいからね~』
「ふぃ、フィフィさまは怖くないし、美しい……」
「さりげなく洗脳するな」
フィーコのこの態度からするに、なにか利用価値があるとかではなく、完全にペット感覚で拾ってきたんだろう。
そういえばこいつ、コボルドなんかも可愛い可愛い言ってたしな……。
思わず溜息をつく。
「いいか、フィーコ。ペットを飼うなんて、うちは認めないからな」
『な、なんでよ!? いいでしょう!? 毎日、ちゃんと水やりもするから!』
「お前はもう一生ペットを飼うな」
そこで、くきゅるる~……と。
気の抜けた音が、ミミック少女のお腹から鳴る。
「……っ……っ」
恥じ入るように顔を赤くするミミック少女。
『あら、お腹がすいたのね』
「そうか。今、楽にしてやろう」
「ひぃ……」
『もう、テオはすぐ殺そうとするんだから。ほら、この串焼き肉、食べる?』
「た、食べて、いいのですか……?」
『もちろん、これはわたしとあなたの友好の証よ』
「いや、それ俺が作ったやつ……」
まあ、この肉ならいくらでもあるからいいが……。
ミミックがこわごわと肉団子の串を頬張って……目を見開く。
「お、おいしい……!」
ぱぁぁっ、と顔が明るくなる。
「ふぃ、フィフィさま……なんなのですか、これは……? ふわふわしてて生肉とは全然違う……ぼ、ボクはいったい、なにを食べたのですか……?」
『ふふふ……謎よ』
「な、謎?」
「いや、ただ肉団子にタレをつけて焼いただけだが……お前、料理とか食ったことないのか?」
「……“りょーり”? “りょーり”というのですか、これは……?」
運命の出会いをしたとばかりに、肉団子を見つめる。
野良の魔物だし、まともに調理されたものを食べたことがないのだろう。
「もむもむもむもむ……」
リスみたいに、ちまちまと頬張るミミック少女。
『きゃあぁ~、食べてるぅ! きゃわわぁ~! ほら、テオも可愛いって思うでしょう?』
「はっ、魔物が可愛いわけないだろ」
鼻で笑いつつ、ミミックを見てみる。
ミミック少女は肉団子を食べ終えてしまい、名残惜しそうに串を見つめてから。
ちらっ、ちらちらっ、と俺のほうを涙目で見てきた。
「ふ、ふん……人間、この“りょーり”とやらを、もっとよこしやがってもいいのですよ?」
「…………」
『ど、どうしたの、テオ? なんか、すごい形相してるけど』
「…………いや」
俺はぎゅっと目をつぶり、勢いよく頭を振る。
(……な、なんだ? この可愛い生き物は……?)
まずい、不覚にも癒やされてしまった。
(……いや、落ち着け。相手はミミックだぞ? これは罠に違いない)
ミミックならば、こちらの庇護欲をくすぐる方法ぐらい心得ているはずだ。
惑わされるな。癒やされるな。
「――ふぅんッ!」
「ひぃ……!?」
自分の顔を殴って、気付けをする。
それから、ミミックを睨んだ。
「……おい、ミミック」
「な、なんですか、人間……? 怒ったんですか……?」
「いや……肉ならいくらでもあるから、食えばいい」
「……へ? ……は、はぁ」
もむもむもむ、とふたたび食事を始めるミミック少女。
なんだろう、この気持ちは……。
小動物に餌付けしてるような感じというか。
前世ではペットなんて飼って、なにが楽しんだとか言っていたが……。
(……くっ、冷静になれ)
警戒しなくてはいけないのに、つい気が緩みそうになる。
くそっ、落ち着け。
そもそも命がけの冒険にペット同伴とかありえないだろ。現実的に考えて意味不明すぎる。
そもそもミミックなんて信用できない魔物だ。最善を取るならここでまた殺すべきだ……。
「よし……殺そう」
俺は殺意を固めて、ミミックを見た。
ミミックがその殺意にびくっとしたのか。
「…………ぁ」
ミミックがぽろりと串から肉を落とす。
その肉をじっと見て、じわっと目に涙を溜めていくミミック……。
「――ぐぅうッ! や、やめろ、俺を癒やすなぁぁ……ッ!」
「ひぃぃ……」
『……さっきから、1人でなにやってるの?』
「なんでもない」
とりあえず、深呼吸して落ち着く。
『ところで、これってなんの肉なのかしら? なんか貝柱みたいな味がしたけど』
「それは、ボクも気になるのです……この“りょーり”は、この肉の素材のうまみがあってこそ……人間、この肉の正体をボクに教えてくれてもいいのですよ?」
「え……
「!?」
ミミック少女はぽろりと肉串を落とすと。
ふたたび小さな体を抱えて、がたがたと震えだした。
フィーコがそんなミミックの肩を支えながら、ドン引きしたような目で見てくる。
『げ、外道……』
「最初に食わせたの、お前だからな?」
「お、おのれぇ、人間めぇ……! たばかったなぁ……!」
「俺のせいなの……?」
溜息をついてから、俺は本題に入る。
「で、改めて聞くが……これから、こいつをどうするつもりだ?」
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