第24話 妖精国の城を襲撃してみた


 ニーズヘッグ襲撃イベント開始場所は、ゲームでは妖精国の王城だったか。

 妖精国の王城は、世界樹を取り巻くように立っている円筒形の城だ。

 まずは、そこへ向かってみるとしよう。


「というわけで……城に突撃だ、グラシャラボラス」


「わふ!」


 馬車を飛ばしていたグラシャラボラスが1つ返事をすると。

 ぐん――っ! と、さらに馬車が加速した。

 とっさに風魔法で車体を支えるが、車内はシェイクされているように、ぐるんぐるんと揺れだす。


「ちょっ!? このまま城に乗り込む気!?」


「くくく、安心しろ。ちゃんと菓子折りは用意してある」


「問題はそこじゃないわよ!? そもそも城の周りには結界もあって……」


「む……」


 たしかに目を凝らして見ると、城の周りにうっすらと光の壁が張られているのがわかった。竜王ニーズヘッグ対策に張った結界か。こんなものを用意しても無駄なのにな。

 というわけで。


「プリモ、邪魔だから壊せ」


「らじゃーです!」


 プリモがびしっと敬礼すると、頬をぷくぅぅと膨らめた。


「むぅぅぅぅ!」


「ちょっと、なにする気……」


「危ないから下がってろ、ミコりん」


「え……?」


 きょとんとするミコりんを尻目に、プリモが馬車から身を乗り出し――。



 ――びゅいーんっ! と、口からビームを発射した。



「えええええっ!?」


 城の周囲を覆っていた結界に、光線が突き刺さり……ぱんっ! と盛大に破裂した。結界がガラスのように粉々に砕け散り、きらきらと崩れ落ちていく。


「よし、これで障害物はなくなったな」


「えっ、なに!? あたしん家の結界壊れたの!? というか、プリモちゃん、口からなに出したの!?」


「……? なにって……"触れたものを存在崩壊させる破滅の光"ですが」


「メイドの口から出ていいものじゃない!?」


「はっはっは、世界樹に当たらなくてよかったな」


「ですねー」


「わん」


「のどか!?」


 さて、邪魔な結界もなくなったところで、心置きなく城に接近すると。

 がんがんがん! と警鐘が鳴り響きだした。



「結界が破られたぞ!?」「襲撃だぁっ!」「出会え、出会え!」



 城の中庭に着陸すると、白いローブをまとった女エルフたちがわらわらと集まってくる。


「ふむ、なかなかの歓迎だな。ミコりんのご家族かな?」


「宮廷魔術師よ! あたしたちを侵入者だと思って、排除しに来たの!」


「……なぜだ? ちゃんと正面から訪問したのだが……」


「今までの行動、思い返して!?」


「は、排除なんて物騒です……おっかないです……」


「それ、口からビーム出す人が言っちゃダメなセリフ!」


「なにはともあれ、誤解はといておかねばな」


 そう言いつつ、馬車から降りてみると――。


 ーーかかかかかかっ!


 と、いきなり無数の矢が飛んできた。

 ふむ、【魔弓術】による魔法を付与した矢か。魔力の流れ方から察するに、付与されているのは【必中】と【爆発】といったところだろう。

 問答無用なうえに、なかなかに殺意が高い。竜王ニーズヘッグに宣戦布告された直後だからか、どうもぴりぴりしているようだな。


 後ろにいるミコりんに当たっても困るし、仕方がない。

 俺は両腕を広げ、魔矢を体で受け止めた。魔矢は狙い違わず、全て俺に命中し、一斉に爆発する。

 Bランクの魔物ぐらいなら、あっさりHPが吹き飛ぶほどの威力だ。

 しかし……その程度の威力では、元ラスボスには届かない。

 爆煙が晴れると、宮廷魔術師たちがざわめきだした。


「なっ!?」「バカな!」「無傷だと!」


「くくく……そう簡単に、俺にダメージを与えられると思うなよ?」


 ダメージを与えるのに面倒な手順がいるのは、ラスボスあるあるだ。

 この俺も例外ではなく、この身にまとった【影のオーラ】を破らなければダメージを与えられない仕様になっている。ちなみに、このオーラは消滅後5ターン経つと、なんか自動で復活する。


「さて、次は俺のターンだ。闇魔法Lv9――【グラビティ】」


 魔法名を唱えると、ずんっ! と周囲の重力が増した。

 宮廷魔術師たちが巨人に踏み潰されたかのように、地面に押しつけられる。


「ぐぅぅ!? なんだこの魔法は!」「う、動けん……!」「くそ、このままでは城が……!」


「ふははははは! そうだ! もっと絶望するがいい!」


「……主様、消しますか? この下等生物たち」


「いや、ただ消すだけではつまらん。そうだな、ここは一つ、生き残りをかけたゲームを……」


「バカなの!?」


 ミコりんに頭をはたかれた(回避した)。


「もぉぉっ! 誤解とくんじゃなかったの!? なんで、テンポよく悪役ポジション確立してるの!?」


「いや、その場のノリで、つい……」


「“つい”で、こんな見事な悪役ムーブかまさないでよ!? もぉぉっ、バカ! ほんっと、バカ!」


 ミコりんが涙目になりながら、ぽかぽか叩いてくる。

 そんなことをしているうちに、宮廷魔術師たちにかけた【グラビティ】の効果が解けたらしい。

 しかし、宮廷魔術師たちはふたたび攻撃しようとはせず、戸惑ったように顔を見合わせていた。


「あのお姿……まさか、ミコリス姫……?」


 誰かが呟き、そこからざわめきが広がりだす。

 と、そのときだった。



「――なんの騒ぎですか」



 清風のような澄んだ声が、耳に入ってきた。

 かすかに鼓膜をそよがす程度の声量だったが、不思議とよく通る声だった。静けさが波紋のように広がっていき……宮廷魔術師たちが、はっとしたように一斉にひざまずいて道をあける。

 その道を通って、姿を現したのは……

 白いドレスをまとった気品に満ちた女王。



 ――ミステリア・ピンクハートだった。


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