第11話 ダンジョンボス

 実物を見たことがなかった僕でも、それがなんなのか察しはつく。


「あれ、もうボス部屋……?」


 あまりにもさくさく進みすぎたせいで、実感がわかない。

 まずは様子見のつもりで来たから急いでたわけでもないし、宝箱を探して通路も全部回ったりしたのに……。


『それだけ、あんたが強いってことよ』


「そう、だね」


 さすがに、これだけ魔物と戦えば嫌でもわかる。

 ――僕は、強くなった。

 装備によって強さが決まる世界で、SSSランクの装備を手に入れたのだ。たとえ僕自身が弱くても、装備が強ければ強くなれる。自分を信じることは難しくても、装備を信じることはできる。


『あんたは剣の技術もそこそこあるし、魔物や罠の知識だってある。それに加えて、今は強力な装備もある。向かうところ敵なしよ』


「う、うん」


 ジュジュに褒められると少しこそばゆい。この人形は言いたいことをずけずけ言う代わりに、褒めるときもストレートに褒めてくる。褒められ慣れていない僕には、少し毒だった。


『それより、ボスが呪いの装備を落とせばいいんだけど』


「うん、そうだね……」


 そもそも、このダンジョンには攻略するために来たのではない。

 このダンジョン探索の目的は、呪いの装備だ。

 しかし、ここまでの探索で呪いの装備の収穫はゼロ。これでボスまで呪いの装備を落とさなかったら、なんのためにダンジョンに来たのかわからなくなる。魔物も全て肉片すら残さず消滅させちゃったし、魔物の素材で金儲けすることもできない。


『ま、これだけ難易度が高いダンジョンなら、呪いの装備が落ちる確率も高いわ』


「……? どうして?」


『そりゃ、呪いの装備のほうがランクが高いからじゃない。ほら、普通の装備はAランク止まりだけど、呪いの装備はAランク以上があるでしょ?』


「そういえばそうだね。どうしてだろ」


『もともと呪いの装備は、強力な装備として使われてたのよ。代償がある分、普通の装備より格段に強いしね。代償も呪いの装備をうまく組み合わせれば、打ち消したりもできるし』


「なるほど……」


 たしかに、使われてないものが大量にあるというのもおかしな話だ。かつて使われていたからこそ、たくさん残っているんだろう。


『ま、一番多い使われ方は、奴隷に持たせて爆弾代わりにすることだったけどね。もし奴隷が死んでも、敵が装備を触るたびに爆発してくれるし。呪いの装備が強制装備させられるのは、その名残でもあるわ』


「そう、だったんだ」


 僕は何気なく腰にさげた血舐メ丸を見た。たしかに血舐メ丸を持たされた金ピカ男の姿を見た感じ、『爆弾』というのは言い得て妙なのかもしれない。無理やり触れさせて敵地にでも送りこめば、甚大な被害が出そうだ。


『で、そんな呪いの装備に対抗するために作られた装備の一つが、このわたくしよ。つまり、わたくしはそこらの呪いの装備よりも100万倍えらいの。ここ、すごーく重要』


「……まあ、なにはともあれ、今はボス戦に集中しないとね」


『あれ? わたくし、シカトされてる?」


 ジュジュはここのボスが呪いの装備を落とすかもしれないとは言ったが、そもそもボスを倒せる保証なんてないのだ。いくら血舐メ丸があったって、動きが速い敵なら攻撃を当てられなくて死ぬかもしれないし。Sランクダンジョンのボスを甘く見ることはできない。


 僕は改めて気を引きしめ、ボス部屋の石扉に手をかけた。

 ゴゴゴゴゴ……と重々しく軋みながら開いていく扉。その奥に見えたのは、小さな森のような空間と、その中心に鎮座する巨大な蜘蛛の姿だった。おびただしい数の膿色の卵にゆったりと腰かけた女王のごとき蜘蛛。


 ――クイーンスパイダー。


 それが、この蜘蛛の名だ。

 Sランクダンジョンのボスではあるが、本当にSランクの災害指定の魔物が来るとは。Aランク冒険者が束になって、ようやく勝てるかどうかという魔物だ。倒せばそれだけで英雄譚が生まれてしまう。


 ……こんな相手に勝てるんだろうか。

 不安ばかりが胸の内にわいてくるが、戦うしかない。すでにクイーンスパイダーもこちらの存在に気づいている。


 ――キシャアアアアアアアアッ!


 クイーンスパイダーが吠え、戦闘態勢に移行した。八本の足をどっしりと地につけて、なにやら攻撃の準備をしているのがわかる。


「う……うおおおおっ!」


 耐久力がない手前、先手だけは譲るわけにはいかない。

 僕は己を奮い立たせながら、血舐メ丸を鞘から一息に抜いた。

 抜刀の衝撃波がクイーンスパイダーを襲い――。


「……あ」


 クイーンスパイダー、死んじゃった。

 衝撃波であっさり体がばらばらになり、体液を撒き散らしながら壁に叩きつけられたクイーンスパイダーさん。完全に押し潰されたのか壁画みたいになっている。消滅しなかっただけ他の魔物とは違うのかもしれないが……もう、ぴくりとも動かない。


「……」


 にわかに静寂が降りた。

 しばらく立ち尽くしていたが、これ以上なにかが起こる様子もない。ここから復活して襲いかかってくるとか、まだ変身を三回残しているとか、そういう展開もないらしい。



 うん……英雄譚、生まれちゃった。






ノロア・レータ 冒険者 Lv39


HP  114

MP  43

攻撃力 37(抜刀時、4万3137)

守備力 40

素早さ 52

魔力  52

運   0


装備枠=9999

・武器

右手:血舐メ丸【呪】(攻撃力+4万3100)

・防具

なし

・アクセサリー

1:■■■■【呪】(装備枠=9999)

2:呪々人形【呪】(運=0)


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