第7話 血舐メ丸

 ほとんど抵抗もなくジュジュの体に入る針。


『きたきた! これよ! これを待ってたのよ!』


 ケタケタケタ……と、ジュジュは狂ったように笑いだし――。

 彼女の体を中心に、ぐにぃぃぃ、と空間がねじ曲がった。

 景色がぐちゃぐちゃに混ぜ合わされ、全身がぐるぐるまわるような感覚。脳が激しくシェイクされ、上も、下も、右も、左も、なにもわからない。

 そんななか、右手の中になにかを握ったような感触が現れて――。




「――はっ」


 気づけば、視界は正常に戻っていた。

 夕日は先ほど見たときよりも、深く沈んでいる。

 足元を見ると、金色の鎧の破片が散らばっていた。

 手には、赤黒い刀……。


『あ、やっと正気に戻った?』


 声のほうを向くと、ジュジュが側の瓦礫に腰かけていた。しばらく退屈していたのか、足をぷらぷらさせている。


「いったい、なにが……」


 そう呟いたとき、頭が割れるように痛んだ。

 その痛みとともに、頭の中に情報が現れる。



・血舐メ丸【呪】

……赤黒く脈打つ妖刀。敵を倒せば倒すほど、その血を吸って攻撃力が増していく。鞘から抜くと刀に精神を乗っ取られ、敵も味方も殺してしまう。そのため、“皆殺しの剣”とも呼ばれる。

ランク:SSS

種別:武器(刀)

効果:攻撃力+1万6300

   吸血(この刀で倒した生物の攻撃力分、武器攻撃力UP)

代償:刀を鞘から抜くと、“暴走バーサク状態”になる。暴走バーサク状態になってから視界に入れた全ての生物を殺すまでは、正気に戻れない。毎日血を与えないと刀が暴走し、装備者を殺して血を抜き取る。



 ……これは、この刀の情報だろうか。


「SSSランク……? 攻撃力、1万6300……?」


 今までの常識では考えられない表記だった。世界最高はAランクのはずだし、攻撃力にいたっては聖剣ですら500ぐらいだったはずだ。あまりにも、桁が違いすぎる。


『ふーん? 呪いの装備のなかでも、かなり強い剣ね。しかも……まだまだ成長するわよ、それ』


「……そう、なんだ」


 現状でも、一振りで町を破壊できるほどの攻撃力がある。

 それが成長なんてしたら、どうなるのだろうか。

 僕には想像もつかない。


 何気なく、刀を体の前にかかげてみる。

 どくどくどく、と脈動する赤黒い刀身。

 それが今、夕日の光を照り返して燦然と輝いていた。


「……綺麗だ」


 無意識のうちに、その言葉が出た。

 さっきまでは不気味だと思っていたのに……その刀は、今まで見てきたどんな装備よりも綺麗だと思えた。僕があれほど恋い焦がれていたアダマンアーマーよりも……圧倒的に。


「これが、僕の装備……」


 信じられなかったけど、それが事実なのだ。

 そう思うと、歓喜の波が押し寄せてきた。


「はは……」


 涙がこぼれ落ちる。

 ようやく、僕も武具を装備することができたんだ……。


『あれ? なんか、わたくしのときとリアクション違くない? 傷つくんだけど』


「ご、ごめん」


『ま、でも……よかったわね』


 ジュジュが、ふっと微笑んだ。


『あんたは、もう“ゼロのノロア”じゃないわ』


「え……?」


 どうして知ってるのかと思ったけど、おそらく装備時に僕の情報を知ったのだろう。僕が装備の情報を得たのと同じように。


『あんたはこの先、誰よりも強くなる。世界一強くなれる』


「世界一?」


『そうよ! 魔王? 勇者? そんなやつら、みんな1ラウンドで沈められるようになるわ』


「そう、かな……?」


 手にした刀を見てみたけど、あまり実感がわかなかった。

 負け犬体質が、心の奥底まで染みついているのかもしれない。

 それでも、もしかしたら……という思いがわいてきた。


 ――――×××ちゃんは、この世界の誰よりも強くなれる。


 記憶の奥底で、誰かが言う。

 その言葉を信じてもいいのなら。

 もしかしたら、僕が今まで憧れてきたような英雄になれるかもしれない。

 いや、英雄にだけではない――。



『――あんたはもう、何者にでもなれるわ!』



「……っ」


 ジュジュの言葉とその笑顔を前に、僕はなにも言えなくなった。

 言葉がつまって、目頭が熱くて、頭の中がごちゃごちゃになって……。


 ああ……今日は、一日でいろいろなことがありすぎた。

 スケルトンに負けて、泣いて、冒険者になるのをあきらめて……そしたらいきなり町が吹き飛ばされて、ヤブキさんが殺されて、死にそうになって、ジュジュを装備することになって、血舐メ丸という刀が手に入って……。

 もう一生分の感情の浮き沈みを体験したんじゃないだろうか。


 そんな激動の一日を通して、一つだけわかったことがある。


 ――装備が人生を決める。


 その言葉は、まさにその通りだということだ。






ノロア・レータ 冒険者 Lv10


HP  74

MP  15

攻撃力 12(抜刀時、1万6312)

守備力 14

素早さ 17

魔力  17

運   0


装備枠=9999

・武器

右手:血舐メ丸【呪】(攻撃力+1万6300)

・防具

なし

・アクセサリー

1:■■■■【呪】(装備枠=9999)

2:呪々人形【呪】(運=0)



~おまけ・金ピカ男のステータス~


ジューマ・ボルト 冒険者 Lv34


HP  194

MP  27

攻撃力 30(抜刀時、240)

守備力 243

素早さ 40

魔力  24

運   31


装備枠=3

・武器

右手:ゴールドソード(攻撃力+210)

・防具

盾:ゴールドシールド(守備力+120)

鎧:ゴールドアーマー(HP+100、守備力+100)

・アクセサリー

なし



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