第25話 魔術士の拠点を襲撃してみた
俺はラビリス救出のため、魔術士協会が拠点とする迷宮へと突入した。
「――“
迷宮内の石壁の通路を、魔力放電の光だけ残して倍速で駆け抜ける。
今の俺の速度には、罠すらも追いつけない。
俺が通り過ぎたあとに、がばっと床に落とし穴があき、ひゅんっと矢が空を切る。
巡回中の魔術士ともはち合わせするが――。
「……っ!? き、貴様、ど――」
「――“止まれ”」
騒がれる前に停止させ、杖を破壊して先へ進む。
過去に戻ったときのために、この迷宮のマップを頭に叩き込んでおいて正解だった。
最短ルートで次層への階段へと差しかかる。
(……まずは1層攻略完了、と)
迷宮に入って、まだ1分ちょっとだ。
それほど難易度の高い迷宮じゃないのは助かった。
1層あたりの広さもそれほどではないし、最深部も12層だ。
おそらく、ラビリスがいるのもその12層だろう。
このペースならば20分とかからずに、そこまで到達できそうだ。
(……魔物はもう復活してるのか)
通路の先に魔物を見つけて、俺は眉をひそめる。
迷宮に出てくる魔物は、迷宮内の隠された培養室で作られ、迷宮警備のために転移魔術によって定期的に補充されている。
そのため、大群暴走が起きたあとなどは、しばらく魔物が出現しなくなるはずだが……。
どうやら、魔術士たちは迷宮の培養室にも手を加えているようだ。
そもそも、この迷宮で本来見られる魔物とは違う。
(……
魔術によって人工的に作られた魔物だ。
こんな低難度の迷宮には似つかわしくない魔力をまとっている。
魔術士の指揮下で動いているのか、統率も取れていて隙がない。
しかし――だから、なんだ。
「……邪魔だ」
剣を抜き払い、すれ違いざまに魔物たちの急所を斬り裂いた。
数多の魔物を屠ってきた我流の斬撃――。
魔物たちは俺に気づくと同時に、血をまき散らしながら倒れていく。
「へ……?」「し……侵入者!?」「は、速い――!?」
5層までもぐると、魔術士たちが増えてきた。
この辺りの階層から本格的に根城にしているのだろう。
「――“止まれ”」
彼らが呆けている間に、彼らの時間を停止させていく。
しかし、討ち漏らしがいたのか。
じりりりり……ッ! と警鐘が鳴り響き、迷宮内が赤く明滅し始めた。
「し、襲撃!?」「どうやってここに!?」「し、侵入者はどこだ!?」
警報を聞きつけてか、下級魔術士たちがわらわらと現れるが。
数が増えたところで――俺の速度には追いつけない。
「侵入者は……1人!?」「1人でここまで突破されたのか!?」「は、速すぎて見えな――」
「――“止まれ”」
魔術士たちを停止して、そのまま通り過ぎる。
この迷宮は、この時代では最先端のセキュリティで守られているのだろう。
しかし、この時代のセキュリティが、100年後の時魔術士の襲撃を想定できているはずもない。
「な……!?」「速い――ッ!?」「と、止まらない――ッ!?」「なんだ、あの魔術はぁっ!?」「う、うわぁあああッ!?」
俺を見た魔術士たちがパニックになり、総崩れになる。
我先にと逃げだそうとする魔術士たち――。
その眼前に、俺は一瞬で回り込んだ。
魔術士たちが反射的にかまえようとした杖が、ぼろぼろと腐り落ちる。
「……ひっ!?」「く、来るなぁっ!」「な、なんなんだよ!? この化け――」
「――“止まれ”」
そのくり返しで、俺はどんどんと深層へと進んでいく。
まだ侵入してから10分ほどしか経っていないうえに、出会った魔術士たちを片っ端から停止させているのだ。
ほとんど魔術士は、侵入者が1人であることすら把握できていないだろう。
そんな状況で、まともに俺に対処できるはずもない。
迷宮攻略は順調、だが……。
(……魔力が薄くなってきたな)
迷宮というのは本来、深層にもぐればもぐるほど魔力が濃くなっていくものだが……。
この迷宮はもぐればもぐるほど――魔力が薄くなっていく。
やはり迷宮の魔力をしぼり取って、研究に使っているのだろう。
(……予想はしていたが、やっかいだな)
俺はポケットから魔石を取り出し、口へと放り込んだ。
そのまま、8層への階段を降りきった瞬間――。
階段前の広間に布陣している魔術士の集団が目に入った。
俺が階段を降りてくるのを待ち受けていたのだろう。
すでに、巨大な儀式魔法陣が完成している。
「「「――“
大人数の魔力と魔術演算力によって発動する儀式魔術。
本来ならば、災害指定の魔物や大軍相手に使われるような攻撃だ。
爆炎が迷宮の壁や床を一瞬でえぐり飛ばし、俺の視界が炎一色に染まっていき――。
「やったか……!?」「は、はは……ッ! 見たか、9位階の魔術の威力を!」「直撃したぞ! 灰すら残ってないだろ!」
勝ち誇ったように歓声を上げる魔術士たち。
だがその歓声は、煙が晴れるとともに――ぴたりとやんだ。
「…………う、うそ……だろ」
俺は爆心地で無傷でたたずんでいた。
こんな単純な攻撃ならば、どれだけ威力が高かろうと関係ない。
自分の時間を停止させれば、それだけで防ぐことができる。
「集え――」
俺はすっと手のひらを前に出した。
儀式魔術によって周囲に放出された魔力を、手のひらへと吸い寄せ――。
ばちばちばち……と全身に膨大な魔力の雷をまとう。
「は、はは……」
魔術士たちが1人また1人と、絶望したようにへたり込んでいく。
「…………ば、化け物」
そんな誰かの呟き声を聞きながら――。
「――――“止まれ”」
俺は彼らに向けて、そう唱えるのだった。
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