第94話  耳狩り【ポール視点】

 僕たちはいつものように魔物退治の依頼をこなしていた。


 アリサ、カルナ、ムセン、シエン、そして僕の5人でいつものように山で雑魚魔物を討伐する。


 念には念を入れて、しばらくは雑魚魔物退治で功績点を稼ぐことにした。


 山賊退治の功績はマレットさんのものとして評価され、自分たちの倒した雑魚魔物だけの報酬であり、回復アイテムや教会の治療費がかさんでいた。

 

 別にそのことに文句はない。


 僕はあのヤギの化け物の魔法で早々に倒れてしまったからだ。


 アリサたちが納得しているのに僕だけ反対というのは筋が通らない。


 己の無力さとふがいなさに腹が立つ。


 だから僕は率先して魔物を狩り続けた。

  

 弟子になったばかりのリョウキは僕たちと別れた後、一人で山奥へとこもり、介護をしている。


 あの異世界人に僕が教えてもらった基本的な素振りの方法とか筋トレの方法しか教えていない。


 もっと丁寧に教えることもできたけど、僕は僕で余裕がなかったし、彼は彼なりに考えた結果、地道にいろんな経験を積み重ねていくことにしたらしい。


 僕の師匠はかなり年老いたバレインという剣聖だったけど僕はその修行が過酷すぎて途中で逃げちゃったし……そういう後ろめたさもあるから最後まで面倒を見切れなかったという逃げもあった。


 話はそれたが、ムセンが凶暴なヒョウの魔物を一刀両断すると、ムセンの耳がピクリと反応する。


 「どうした」


 僕が簡潔に問うと、彼は人差し指を唇に当てて静かにしろというジェスチャーをする。


 僕たちは周囲の様子を伺う。


 やがて茂みの奥からぞろぞろと黒いローブを着た集団が、俺たちの前に現れる。


 僕たちパーティは夜でも昼間のようにものを見ることができる。


 ローブに隠された顔の顎のラインが細い。


 どうやら女の……それもかなりの実力者だ。


 ローブの女たち全員の体から放出される魔力量がアリサと同等、またはそれ以上。


 俺は囲まれたことに気づかなかったことに歯噛みする。


 かなり移動術が優れている。


 だがすぐに攻撃してこないということはただ単に金品を要求するかんじでもない。


 「お前らはなんだ…………なにが目的だ!」


 ムセンが吼える。

 

 「そこのハイエルフの女を差し出せ……そうすれば他の者の命は保証する」


 「ざけんな!」


 ムセンが激怒する。


 カルナが恐怖に震える。


 「カルナちゃん……?」


 シエンが恐怖で自身の耳を握るカルナの様子を見て落ち着かせようと寄り添う。


 「耳狩り…………そんな、歴史がまた繰り返されるなんて」


 「なんだそりゃ?」


 ムセンが敵に大剣の刃を向けながらつぶやく。


 アリサがゆっくり喋る。


 「シエン、カルナを全力で守りなさい……簡単に言えば、そいつらはカルナを殺す悪党よ」


 「了解」


 僕もそういって居合の構えをとり、シエンとカルナ、アリサが後方、僕とムセンが前衛のいつもの編成で敵と立ち向かう。


 

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