第95話 新たな景色

 さらにそれから月日が過ぎ、俺は剣聖並みに冒険者数人と一度に一人で闘っていた。


 俺が気絶するまで状態異常などの治療をバレインはしない。


 一番心細かったのは、盲目になる魔法をかけられた時だ。


 目を開けても暗闇に包まれるのは怖いとかというレベルではない。


 とてつもない不安感に襲われるのだ。


 ランセリアは毎日、こんな感覚と共に過ごしているのだろうか。


 冒険者の集団をパーティと呼ぶらしいが、一人対複数だと敵の同士討ちを狙えるかもと思ったが、それは低ランクの冒険者に通用するものの、この敵には通用しない。


 ありとあらゆるスキル、武器の特性を理解し、時に敵の武器を奪って使用することもあった。


 ある日、修行を終えた後。


 服がボロボロになって、精神も擦り切れ、ランセリアに心配されてしまう。


 「大丈夫……?」


 「ランセリア」


 「…………何?」


 「君は、とても寂しかったんだな」


 「きゅ、急に何よ」


 「俺は修行の最中に盲目になる魔法をかけられた。それは治療可能なものだったが、とてつもない不安と恐怖だった」


 「………そう」


 「君を救いたいのは単に自分を変えたいという身勝手だった……でも今は」


 「今は?」可愛らしく小首をかしげるランセリア。


 「俺は……いや、これも俺の思い上がりかもしれない」


 そういうと彼女は鈴が鳴るようにころころと笑った。


 「あなたって、なんにでも理由をつける癖があるのね」


 「そうか?」


 「そうよ、大丈夫。私は……ううん私以外のあなたの想い人もあなたの思っているほど弱くはないわよ」


 「そう……そうだな」


 「ねぇ……」


 「うん?」


 今度はランセリアが口を開く。


 彼女の水色の髪が楽しそうに風によって揺れる。


 「あなたの異世界ってどんなところなの?」


 「そうだな……」


 彼女の好奇心を俺は満たすように優しい声音でいろいろな話をするのだった。


 ※ ※ ※


 真夜中で俺は修行をする。


 剣士二人に弓矢使いが二人、魔法使いが二人に、武闘家が一人。


 七体一の戦いに俺は水の流れのような滑らかな動きで瞬時に倒す。


 俺はバレインからもらった剣とその剣を握った利き腕の手を見つめる。


 振り返ると、バレインがグッドサインを俺に向ける。


 俺は笑う。


 そして歓喜に叫ぶ。


 朝日が昇る。

 

 そして向かったその足で難なくメデューサを倒す。


 水面に映った奴の影から奴の位置を推測し、間合いに入ってあっという間に倒したのだ。


 自分でも自分の実力が怖いくらいだ。


 ※ ※ ※


 そして翌朝。


 報酬のメデューサの素材でスープを作り、ランセリアに飲ませる。


 効果が表れるのは数分後。


 その数分で俺は彼女を背負い、山のてっぺんに向かう。


 魔物はいないし、俺が訓練の最中に見つけたお気に入りの場所。


 ランセリアはゆっくりと目を開ける。


 その瞳に光が宿る。


 彼女がこの世界で再び目にしたのは見下ろした自分の住む町と、笑いかける俺。

 

 ―――――――そして何よりも輝く朝日だった。


 俺と彼女は新しい世界への一歩を踏み出したのだった。

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