第4話
夕方。
城下町に到着する。
夜になると飯屋はやっておらず、夜盗やらスリがきて治安が悪くなるだろうし、俺は一番よさそうな宿屋に足を運ぶ。
「いらっしゃい、何名様だい?」おばちゃんがきく。
「一人です……ここいくらですか?」
「ベッドと机だけの個室でこんなもんだよ……見ない顔と服だね、異世界人かい?」
「……食事はつきますか?」
「あぁ、簡単なスープとパンならすぐにだせるし、それと別にこれだけ払えば翌朝の朝食もつくよ」
後ろの看板を指さしながら金額を説明するおばちゃん。
「お願いします」
俺は貨幣の価値を商人から教えてもらっているので難なく支払う。
「……あいよ、確かに。ここはこの辺で一番高いけどその分、異世界人にも評判がいいから今後ともごひいきに」
俺は適当に頷く。
ちょっと硬いパンと野菜ごろごろのクリームシチューで腹を満たした後、俺は自室のベットで横になって今後について少し考える。
持ち物はボールペン三本と図鑑、それと革のリュックサックのみ。
俺の今の服装は高校の制服だ。
魔王討伐が目標としてもいきなり勇者になれるわけじゃない。
いまの問題は仕事だな。
この世界の就職事情なんて知る由もない。
何か適当に買い物したりチップを渡したりすれば、情報はすぐに得られるだろう。
値切り交渉はあんまり好きじゃない。
王からもらった生活費は4日もすればなくなってしまうだろう。
宿屋の女主人の、ものめずらしげな視線が気になったが、異世界人への露骨な差別はなくて俺はホッとする。
月明りが窓から差し込む。
てっきり俺は自分が家族と離れ離れになることに対して寂しさを感じると思ったが、別に俺がいてもいなくてもあの家族とはいつか別れるのだ。
異世界に来たことの喜びもあるが、なにより、面倒な人間関係とつまらない授業から解放されたことを嬉しく思った。
まぁ高校三年生になってからストレスで心の底から笑うことなんてできなくなったが。
理想の生活を手に入れれば俺は心の底から笑えるだろうな。
そんなことをのんきに考えて俺は眠る。
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