第12話 本当は

 トンボが飛んでいる。

 自然は秋の色に、より近づく。

 健人は早紀の目を見てこう言った。

「本当は自分は街での仕事を続けたかった」

 早紀はそれを聞いて続けてこう返した。

「大丈夫だよ。慌てなくてもね」

 早紀の言葉に、健人は気付いた。今までの健人は焦りがあった。それが、絡まった糸をほどくようにするするとなくなった。

「ありがとう、早紀」

「どういたしまして」

 早紀の笑顔はあの頃のように変わっていなかった。

 大切なおばあちゃん、まだ小さかった頃の二人、何も変わらない山奥の町の自然。健人と早紀は見つめあって笑顔に。

「早紀は街に行ったことはあるの?」

「え? どうして? えっと、数えるぐらいだけど」

「そうなんだ。自分と一緒に、早紀も街での生活をしてみないか?」

 早紀の笑顔は消えて、じっと健人の顔を見つめる。

「すぐには、答えられないよ」

「ああ、そうなのか」

 二人は手をつないで、この山奥の町を歩いて、健人は思う。

 いつかは、早紀と一緒になりたい。

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