第10話 回想。あの頃の三人

 この山奥の町に健人は生まれて育つ。小さな健人には早紀という幼なじみがいる。健人には大切なおばあちゃんもいる。

 今はおばあちゃんの家で健人と早紀がお邪魔している。おばあちゃんは外国の貨幣をいっぱい二人に見せている。

「おばあちゃん? この銀色の硬貨は何?」

「なんだったかね? ほしいなら一枚あげるよ?」

「わーい! おばあちゃん、ありがとう!」

 おばあちゃんは健人と早紀に優しかった。

「健人のおばあちゃん? 外国に行ったことはあるの?」

 早紀は質問をする。

 おばあちゃんは、ちょっと考えてこう言った。

「どうだったかね? 覚えていないねえ」

 健人と早紀は、そんなおばあちゃんに甘えている。

「二人とも? 小さい寺に行こうねえ?」

「うん」

 三人は小さい寺に向かう途中に、トンボがいっぱい飛んでいるのを見ている。健人は素手でトンボを捕まえようとしている。早紀は、健人のおばあちゃんに手をつないでもらっている。おばあちゃんは優しい笑顔だった。

 小さい寺、敷地が狭い。三人はお賽銭を入れて手を合わせる。健人と早紀は何をお願いしたのだろうか。

「おばあちゃん、自分はお金持ちになりたいって頼んだよ!」

「私はね、健人のお嫁さんになりたいってお願いしたの」

「そうなのね? 私は健人と早紀が、いつまでも健康で幸せでいられますようにってお願いしたよ」

 三人は優しい笑顔同士に包まれた。


 あの頃の三人かぁ。

 健人は自分の部屋でゴロゴロと寝転がって、外国の貨幣を一枚見つめている。そう言えば、あの三人で小さい寺を参拝した数日後に、おばあちゃんはこの世を去って行った。

 あの頃の、おばあちゃんのお願いごとは、確かに叶っているなぁ。

 健人は気付けば、涙が止まらなくて、あの頃の三人の思い出を消さないようにする。おばあちゃんの死は健人と早紀に何を残したのか。

 いや、正確にはおばあちゃんの笑顔は健人と早紀の記憶にずっと残っているだろう。

 あの頃の三人。

 大切なもの? おばあちゃんの形見である外国の貨幣がそうなのか?

 いいや、健人はこう考える。あの頃の最後に小さい寺に参拝出来たことが三人にとっての大切なこと。

 あの頃の三人は心丈夫であり、豊かな山奥の自然に囲まれて悠々だった。

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