第9話 健人が仕事していた頃の早紀の話
二人が手をつないで歩いて山奥の町の別の寺に参拝している。開運の寺とは違って小さな寺である。
健人は思い出している。そう言えば、ここは健人が小さい時に当時まだ生きていたおばあちゃんと来たことがあると。
この小さな寺はなんの名前かはわからない。
「健人はズボンのポケットの中に何を入れているの?」
これに健人は早紀に教えるかどうかに悩む。
「私はその中身がわかりそうな気がするんだよね」
「え? どうして?」
早紀は小さい寺での参拝を先にした。手を合わせる早紀、健人はズボンのポケットの中に入れている外国の貨幣に触れた。
「健人が街での仕事をしていた頃、私がどうしていたか知りたくはないかしら?」
「それじゃあ、教えてくれないか?」
早紀は参拝を終えて振り返りこう言った。
「私は健人がもうこの町には戻って来ないと思っていたの。だから、仕事運の寺で毎日私は健人のことを応援していたの」
そうだったのか。それなのに、自分ってやつは。
「そのポケットの中に入っているものは、死んだおばあちゃんが持っていたものだよね?」
「え? なぜわかったんだ?」
早紀は笑みを浮かべてこう答えた。
「幼なじみだからだよ。それくらいはわかって当然だけどね? 健人はよくおばあちゃんと仲良くしていたからね」
そうだとしても、なんで、そこまでわかるんだ?
健人はズボンのポケットから外国の貨幣、銀色の硬貨一枚を取り出して早紀に見せる。
「ほらね、やっぱり」
「早紀って、鋭いね?」
「健人が鈍いのよ」
二人は小さい寺の敷地で笑う。
二人が小さかった頃のように。
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